episode0 『プロローグ』
不死の王。ノーライフキングは作り物である顔を顰めて尋ねた。
たった一人の人間、今は人間であるものに。
「………………大丈夫、か」
人間は答えた。
「ああ大丈夫じゃないようだ」
その人間は他の者たちから「怪物」と呼ばれた。
すべてを破壊しつくすバケモノ。
だが今はなんとか理性を取り戻している。
それでももう終わってしまう。
「もうすぐ俺は消滅する、ただそれだけだ」
死ではない消滅だ。怪物は死なない。だからこそ消滅させられる。
勇者の持つ聖剣の力によりすでに体の消滅が始まっているのだ。
これ以上、怪物の好きにさせるわけにはいかない。だからこそ勇者は怪物の討伐へと向かった。
「自業自得だな。ノーライフキング、今言うけれどあの約束は守らなくてもいい」
しかしこの義理堅い男が唯一無二の親友が、温和な不死の王が、約束を厳守しようとすることは分かっている。親友だからこそそれが分かっていた。
「我はお主を必ず、救って見せよう」
「別にいいのに。もう救われた…………」
怪物と呼ばれた男は、最初はただの、呪われた勇者であった。
それがいつの間にか怪物となり、地球(この世界からみれば異世界)の日本にいたときからの仲間、それがいつの間にか次の勇者となり、怪物となってしまった元勇者の自分を討伐しに来た。
よくある御伽噺のようだ。
「もしかしたら転生とかしてここに戻ってくるかもしれないよ」
「そうだったら良いんだがな」
怪物の、勇者の肉体が霧散していく。
「不死の王」
「最後くらい名前で呼んでくれ」
「……名前知らない」
「…………そうだったな」
「まぁ………………ありがとう」
怪物はその場から完全に消え去ってしまった。