表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三十と一夜の短篇

欲望には逆らえないのです。(三十と一夜の短篇第1回)

作者: ひなた

「内緒なのです。バレるわけには行かないけど、やらないわけにも行かないのです」

 小声で語るのは、十歳前後の幼い少女だった。

 腰ほどの長さもある髪は、まっすぐに少女の後ろ姿を黒く染める。少女の瞳もそれと同じ色で、その所為か、大きな瞳には輝きではなく闇を感じさせた。

 特別可愛いというわけでもない、彼女の容姿。瞳を除けば普通の少女のものと変わらないはずなのに、どこか大人っぽさをまとっていた。

「ちょっ、何をするの? 何をするつもりなのさ」

 子供の作ったものとは思えないほどの、クオリティーの高い秘密基地で、青年は少女に問い掛けた。

 かなりデジタルな設備がそろっていて、どのように少女が作ったのかは謎である。小さな会社よりも、よっぽど立派なものだっただろう。

 二十歳前くらいの、若い青年だった。

 髪は色素の抜けたように薄い灰色。短く爽やかさを思わせるような髪型だが、蒼白なこの青年がしていると、病のようにしか思えなかった。

「おーい? 聞こえているのかい? こんなところに来て、何をするつもりなのさ」

 二度目の青年の問い掛けに、少女は仕方がないとでも言うように、小さく溜め息を吐いて答えた。

「任務を遂行するのです」

 少し勿体振りながらも、少女は自信を持って言ってみせた。

「その任務というのがなんなのか、私は聞いているんだけどね……」

 呆れ気味ながらも、青年はもう少女が話を聞ける状態でないことを悟る。それならばと、青年は笑みを浮かべた。

 ここまで来たら、少女が止まらないことを青年は知っている。だから、全力でそれに乗ってしまえばいいと思った。

「だれにもバレてはいけないのです。それは、わかっているですよね?」

「はい。もちろん、わかっております」

 青年の答えに、少女は満足そうに笑った。その笑顔はどこか嘲笑うような冷たさを帯びながらも、子供らしい無邪気でいて素直な色も宿っていた。

 その笑顔の理由は知らないが、青年は楽しければ良いと思う。少女のただの思い付きに過ぎない、そんな行動なのだろうけれど、だからこそ青年は楽しめれば良いと思ったのだ。

「これ、作っていて下さいなのです」

 来る日も来る日も、少女の言葉を受けて、青年は同じものをただ作り続けていた。それが何であり、何に使うものなのかは、青年に全く知らされていない。

 ロボットの部品のようなものだった。組み立ては少女が執り行っており、完成形は一度も青年を見たことがない。

「ねえ、私は何を作っているの? これを何に使うのか、教えて欲しいんだけど」

 作業の様子を見に来た少女に、青年は不思議に思って訊いてしまった。聞いてはいけないことを、訊いてしまった。

「内緒、なのです。バレるわけには行かないのです。それはたとえ、あなたにさえも。しかしどうしても知りたいというのならば、わたしについてくればいいのです」

 目を妖しく輝かせて、少女は青年を誘った。誘惑するように、禁止という誘い文句で、少女は青年の欲を煽った。

 それが少女のやり方なのだと、青年は知っている。ずっと少女と一緒にいるのだから、それくらいのことはわかっている。それが幼さからは考えられないことだとしても、青年は知っているのだから、その事実を曲げる術などないだろう。

 青年は、欲に抗うことをしない。少女のやり方なのだと知っていても、不思議に思うことを知れるのならば、そのままに動いてしまうのも構わないと思っていたからだ。

 迷わず少女の後ろについていき、そこに驚くべきものを見る。

「こんなの、作ってしまってもいいのかい? もしかして、私はもう共犯者になってしまっているのかな」

 そのロボットが何であるのか、青年には見てすぐにわかった。そのロボットを何に使うのかも、青年はすぐにわかってしまった。

 どうして少女が頑なに見せたがらなかったのか。どうしてバレてはいけなかったのか。

「絶対に内緒なのです。わかっているですね?」

「ああ。秘密は漏らさない。その代わりと言ってはなんだけど、手に入れたものを私にも少し分けておくれよ」

 少女の悪い笑みに、青年は同じ表情で答えた。

 そして二人は、悪事とわかっていながらも、欲のために動いてしまう。その手を真っ黒に染めてしまう。

 バレることなどないから、と。バレるはずなどないから、と。












































 二人が何を作っているのか、わかりましたか? おそらくわからなかったと思います。

 作者のイメージとしましては、「親にバレずにお菓子を多めに入手するために使われるロボット」です。どんなロボットなのか、具体的なイメージは出来ていません。

 それは読んだ方に任せたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 カラスウリと申します。先の感想にもありますが、どれだけの悪巧みかと思わせられました。 序盤。少女と青年の関係性が分かりづらいのが、少々惜しかったです。
[一言] どんな凄まじい悪事を企てているのか、と想像しながら読んだ自分の心の汚れに気づかされました。 大人からしたらささやかなことが、重大だったころを思い出しました。
[一言] 寓話的ですね。私も寓話的なものを書いてみたいと構想を練っている最中ですが、なかなかうまくいきません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ