前に進みたい人の話
いつからだろう。
前に進めなくなってしまったのは。
前に進みたいという思いは、まだ、ある。それどころかどんどん増してゆくばかりだ。
前に進みたい。
前に進みたい。
どうしてこうも前に進めなくなってしまったのだろう。
理由を考えればいくらでも出てくる。博打に負けっぱなしなこと。最近体調が悪かったこと。恋人に振られたこと。友達に裏切られたこと。親と喧嘩したこと。
それだけなのだろうか。
アスファルトに包まれた大地の上で生活をすることが、本来動物である人間にどれだけのフラストレーションを知らず知らずのうちに与えているのか。本来空を飛ぶことのできない人間が空を飛ぶということがどれだけのフラストレーションを与えているのか。目には見えない電波に犯されるということがどれほどなものか。わからない。前に進めなくなってしまったのはそのせいなのかもしれない。
一歩踏み出すだけでいい。
そんなことはずっと前からわかっている。わかっているんだ。ただそれができない理由がある。そうさせない何かがある。
勇気を出せ。一歩踏み出せばいい。
できるのか?他人にその助言を出すくらいならできるさ。でも、いざ自分がその立場だったら、一歩踏み出せるのか?できないだろう。できないくせに安っぽい言葉を投げてくれるな。
いつから前に進めなくなってしまったのだろう。
わからない。
なぜ前に進めなくなってしまったのだろう。
わからない。
これから前に進むことはできるのだろうか。
わからない。
まだ、前に進む力は残っているのだろうか。
わからない。
でも、そんなことよりもっとわからないことがある。
どうして、追い越しの許されない長蛇の列において、この私の前に立ちふさがるあまりにも大きなおじさんは、列が前に進んでも前に進むことなく、まるで仁王のように立ち続けているのだろうか。
さっぱりわからない。