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混沌の娘  作者: 霞初月
3/39

02

 

 *


 見渡す限りなだらかな雪原に不自然な隆起がある。

 固めた雪の小山から人為的に中身だけをくりぬいて作られた拠点だ。中は暖かな魔法の灯りで満たされている。

 起毛の敷布の上に陣取った少女の前には蓋を開けたトランクケースが一つあり、少女はじっと蓋の内側を見つめている。おさげにした栗毛の端が敷布に触れそうで触れない。

 衣服だけでなく魔法でも襲い来る寒さを凌いでいるものの、それもいつまで持つやら怪しいものだった。

 人間にこの土地は相性が悪い。

 かねてより不毛の大地だったこともあるが、そこへ魔族を追いやったためか、人間が魔法を使うために必要な「光子」が失せてしまったのだ。

 封鎖を解除したことによってかろうじて光子が流れ込んでいるが、それは砂の中から金を掴むような話だった。

 少女はこの土地へ入る際、予め光子を持ち込んでいる。だが使えば当然減るし、持ち込める量には限度がある。一度使った光子は再使用可能だが、そうなるまでには時間が掛かる。

 トランクケースの黒い内張はいま、魔法によって誰かの見ている映像を映していた。

 尾の生えたヒト型魔族と半獣型の魔族。

 ここへ来る前にいくつか情報は与えられている。ヒト型の方がヴァル、半獣型がバリー。バリーはヴァルの従者らしい。

 従者と聞いたとき少女が感じたのは、封建時代じゃあるまいし、という時代錯誤感への侮蔑だった。それも魔族が、である。

 魔族というのは基本的に群れをなさないものだと少女は聞いている。人間のような社会形成をしていないのだと。

「閉じ込めた元凶が支援してくれるとは笑わせてくれる――」

 ふいに少女は映像の中のヴァルと目が合った気がした。

(まさか気付いた?)

 息が詰まる。

 大丈夫だと自分を安心させたいのに、ヴァルの漆黒の双眸は少女の焦燥を駆り立てる。

「おい人間、言いたいことがあるなら自分で来たらどうだ?」

 映像が微かに揺れる。

 それはヴァルたちを実際にその場で目の当たりにしている者の動揺だ。

 少女の手が汗に濡れる。

「――聞こえているか」

 それはこの場にいる少女への確かな問いかけだった。

「……聞こえてます」

 渋々ながら答えた。とはいえ、今の彼女に自分の声を現地へ飛ばす術はない。今は一時的に相棒、ユニの「目」を借りて状況を見ていたにすぎない。

「……そこか」

 映像が勝手に消える。

「うそ」

 少女、ビッキーは再度「目」を繋げようとするが何故か上手くいかない。

(どうしよう……ユニ)

 ユニに何かあったら。

 だとしたら自分はどう動くべきなのか。訓練された部分が理性的に動けと訴えるが、感情がそれを阻む。

 ――だってユニはわたしの相棒なのだ。



 さっきまで涼しげだった少女、ユニの表情は焦りでいっぱいだ。

「待ってください」

「あ?」

「彼女は、ビッキーは来られなかっただけなんです」

 必死に言い募れば、「だろうな」とヴァルが応じる。

「ここは特に闇が濃い。人間には毒だ。だからお前みたいなモドキを寄越したんだ、違うか」

 モドキ、と言われ、喉元にせり上がった言葉をぐっと飲み込む。

「違います。わたしが止めたんです」

 ふうん、と醒めた目がユニを見る。正直生きた心地がしないが、目を逸らすわけにはいかない。膝に置いた手に力が入る。

 しかし相手は魔族だ。申し開きの正当性など気分次第で変わる相手にやるのは賭けと同じ。だが、言わずにはいられなかった。

 確かにユニは人間ではない。だからといって線引きして損得を考える子ではないのだ、ビッキーは。

「……すましてないで、最初からそうしてりゃいいのに」

 ふっと笑うヴァルの口から飛び出た言葉にユニは戸惑う。怒っているわけではない、のか?

「さ、行くぞ」

 あるじの言葉をバリーは思わず訊き返してしまった。

「ほんとに行くんですか?」

「……めんどうだが、今がその時なんだろうさ」

 億劫そうにヴァルが立ち上がった拍子に纏っていた布が滑り落ちる。

「――っ」

 ユニは咄嗟に目を閉じた。

 裸……あ、でも魔族……。

 そろりと目を開けると、そこにはきちんと服を着たヴァルがいる。落ちたはずの布を目で探すがどこにも見あたらない。

(あ……)

 魔族は詠唱しなくても魔法が使えるのだ。すっかり失念していた。

 ヴァルは気だるそうにバリーを振り返る。不思議ことにその揺れる黒い尾は服の上から生えて――いや、境目が透けていた。

「五分で支度しろ」

 尊大に言い放つヴァル。

「支度もなにも、持って行きたいものあるんですか」

 あるじの真意を確かめようとする従者に「ねえよ」と顔をしかめるヴァル。

「一度言ってみたかったんだよ」




 * 




「すっげえー」

 ヴァルは一つ覚えのようにその言葉を繰り返していた。

 車輪のついた筐体が列をなし連なっている。なんでも魔法と科学が融合した「列車」とかいう人間社会では当たり前の乗り物らしい。

 乗り場――駅には人間がたくさんいて、やはり魔族は珍しいらしくヴァルたちを遠巻きに眺めたり、近づくのが分かるとあからさまに道を譲った。

 腫れ物に触るような扱いだが、いちいち噛みついたりしない。ここは人間の生活圏だ。どんな報復をされるか分からない。

 おとなしくしているが吉だ。

 そんなヴァルの腹づもりなどしらないビッキーたちは列車を前にはしゃぐ魔族を奇異なものを見る目で見つめていた。ヴァルのきらきら輝く目、勢いよく左右に揺れるを尾を見ていたら、こいつ子供か、と突っ込みたくなるぐらいだ。

 ビッキーとユニは互いに目配せする。

 ここに至るまで、温和しくついてきた魔族にどうも違和感を拭えない。

 ビッキーは彼らと対面した時を思い出すとどうしても顔が曇る。

『おまえか』

 映像が消えてから十分も経っていなかったと思う。

 彼らは突如として、ユニを伴ってビッキーの背後に現れた。驚きに一言も発せずにいたビッキーを頭のてっぺんから足先まで不躾に見下ろしたヴァルは言った。

『ちっせえな』

 何がだ、と首を傾げ、なにげなくユニに向けた視線を自分に戻し、ビッキーは分かってしまった。頭に血が上る。

 まさか、まさか初対面の魔族から個人的に気にしていることを指摘されるなど思いもしない。真っ赤な顔でビッキーはヴァルを睨み付ける。

(そりゃあユニと比べたら小さいけど、わたしだってそれなりに……)

 横目にこっそり隣のユニを盗み見る。ユニの胸がちょっとばかり平均より大きいのだ。わたしはふつう。そうよ。……そう分析して視線を前に戻す。

 魔族のいない間に人間の交通手段は進化した。

 それまで乗り物と言えばせいぜい馬か馬車と言った具合だった。

 科学技術の進歩が機械と魔法の融合技を生み出し、それを動力とする乗り物を開発し、市場に産み落とした。

 それが「列車」だ。

 「公社」が運営する大陸中央で交差する「縦横断鉄道グランライン」を基幹に、私鉄が生活圏を網羅する。

 ビッキーたちはグランラインの西端の駅にいた。そこから東にいくつか駅を通過して、今度は私鉄に乗り換える予定である。パラデウムには鉄道線がない。だから手前の、一番近いところまで行って、そこからは徒歩か馬車でパラデウムの門を目指さねばならない。

 仮にヴァルたちがおとなしくついてきてくれるなら、転送方陣を使ってもいいだろう。

 転送方陣はパラデウムが世界の要所要所に設置した、移動装置なのだが諸処の理由から利用者は限られていた。まず利用できるのが魔法使いであること、これは転移・転送の魔法が光子と精神力を多大に削る高度な術であるのが起因する。もうひとつにパラデウム市国民以外には使用量が派生することだろう。

 ほかに移動手段があるなら誰だって金を払ってまで疲労などしたくない。

 しかしその疲労だって、使わないときと比べたら相当軽いものだとビッキーは思う。とはいえやはり無料で使えるからそう言えるのであって、実際自分が財布の紐を解くかと言われたらきっと渋る。

 北の大地との往復は漁船を借りて行った。

 対岸の漁師たちは渡りたいから舟を貸せという少女二人に最初は渋ったが、身分をあかしたうえで金を積めば後は簡単だった。町と駅舎の間の移動は、簡易方陣を設置しておいたので一瞬だった。

 舟の上でも、方陣を使う際も、ずっとおとなしかった。

 何か裏があるのでは……と考えざるをえないくらい、こちらの言うことに従う。今だって、白線の先は危ないのだと事前に忠告しておけば文句も言わず従い、通行人の邪魔にならないよう、待っているのとは反対側のホームに停まった列車の外観を眺めている。

 魔族とはいかなるかをたたき込まれてきたビッキーたちには肩すかしもいいところだ。

「そろそろくるかしら」

 ユニの言葉にホームの壁を見る。時刻表の上にかかる丸い銀縁の時計を見て、時刻表に目をおとす。時刻表は目安に過ぎず、五分十分の遅刻はざらだ。

 本当は魔族専用車輌のある便に乗りたかったのだが、到着したときには本日最後の便がでた後だったらしく、一時間後の便に編成された貨物車輌の最後尾を貸し切ることで公社とは話をつけてある。

 時計を見るに、出発まであと五分なのだが……。

 ビッキーはそっと目を閉じた。



 がちゃがちゃと車輌の振動に合わせて音がなる。占拠する大量の木箱は説明によると中身は酒瓶らしい。

 車内は魔法によって、温度のない白い光で満たされていた。

 ヴァルとバリーはその眩さにこれでもかと顔をしかめ、車内の奥隅で身を寄せ合っていた。貨物車なので当然だが椅子などないから床に直座りだ。荷が邪魔だから不本意だが近くで固まっているしかないのだ。

 人間たち――ビッキーたちは同じ車内でも進行方向側を陣取っていた。互いの姿は見えるが、それでも両者の間は荷で遮られている。

 ヴァルたちからすればそれはそれで都合が良かった。

 人間が傍に四六時中いるという状況は、特にヴァルにとっては馴れないもので、どうにも息が詰まる。ただそばにいるだけでなく彼女らは自分たちの動向を監視しているのだから面倒極まりない。

(そんなにじろじろ見なくても、なんにもしねえよ……)

 右も左も分からない状況で必要なのは自分の置かれた状況を見極めることだ。

 だが右も左も分からないから、のぼせている自覚はヴァルにも多少ある。

 生まれてからこのかた、アルブムからでたことがないのだ。初めての人間はそこの二人だし、BBが置いていった人間の本は古いものばかりだったから、列車には驚かされた。普段は落ちついているバリーも「はあ……技術の進歩はすごいですねえ」といつになく興奮していた。

「……ヴァルさま、あとでちゃんと謝った方がいいですよ」

「なにを?」

「さっきのあれですよ」

「あれ?」

 分からなくて本気で首を傾げると、バリーが自分の胸の前に両手を持ってきて、小山を作る仕草をする。それでようやく合点がいった。

「あいつの胸の話か」

「ええ。女性の方にいきなりああいうこと言うのはだめですよ」

「だけどもう言ってしまったぞ……?」

「そうですね、言ったことはもう取り消せません」

「じゃあどうしろって言うんだよ」

「ほとぼりが冷めるまで追撃するような発言は避けるように」

「気をつける」

 いいですか、彼女は別にないわけじゃない隣の彼女が彼女より大きいだけなんです。そうなのか、そうなんです……――魔族たちが自分の胸について話し合ってるなどビッキーは知らない。

「それにしてもこれ、本当に眩しいですね」

 車内を睥睨してバリーが嫌味を零す。ヴァルは鼻で嗤った。

「それが目的なんだろ」

 人間は暗がり恐れる。暗がりは魔族の安息地だからだ。だから光をこれでもかと当て、影を消そうという魂胆にして、つまりはこれは対魔族用の魔法なのだろう。

 その効果は確かに出ている。

 堪えられる範囲ではあるが、ヴァルたちに渋面を作らせる事に成功しているのだから。

 対して人間の方はどうだ、ビッキーたちはちっとも眩しそうじゃない。

(これどうにかなんねえかな)

 力なく垂れたヴァルの尾がぴく、と持ち上がり、すぐまた力を失う。いけない、おとなしくしていると決めたんだった。自分で決めておきながら破ってどうする。

「はあ」

 ため息をつかずにはやってられない。

「あー、うるせえ」

 思わず唸ったら、バリーが眉をひそめた。

「なにがです」

「お前には聞こえねえのか」

「なにか聞こえるんですか?」

「……あいつらが使う魔法ってなんか変じゃないか」

「そうですね、眩しいとは思います」

「それはそうだけど」

 求めていた返答とは違ってもどかしい。

 これは今、車内で使われている魔法に限った話ではない。彼女らが使う魔法全て、ヴァルたちの目には眩しく映る。比喩ではなく実害レベルで、だ。

「なんていうの、それだけじゃなくて、こう、なんかしらねえけど雑音がするんだよ」

 音を拾おうとバリーの耳が動く。ややあって、

「……ヴァル様だから聞こえてるという可能性に一票」

「……はあ」

 ため息をついて肩をおとす。

 自分にしか聞こえていないらしい音。バリーは茶化しているのではなく本気で言っている。それが分かるからこそヴァルは居たたまれなくなる。

 バリーは昔からずっとヴァルを過剰評価するのだ。

 自分のどこにそこまでの魅かれるのかわからないが、ヴァルのことをあるじだと言い張って聞かない。

 バリーが言うには、自分は魔王に相当するらしい。

 魔族、もとい闇のものには人間のような階級社会はないから表現としてはおかしいのだが、元人間のバリーに言わせるとヴァルは闇のものを統べるだけの力があるのだという。

 当のヴァルからすれば何度言われても「おまえは何を言ってるんだ?」と言わざるを得ない、胡乱な話である。



 ユニは横目にそっと、隣のビッキーの表情を窺う。

 一見冷静そうだが、その眉がちょっと中央に寄っているのに気付いて、指で二の腕を突っつく。

 ビッキーは我に返ったようにはっとして、ユニを見た。

「うなり声が聞こえた」

「うそ?!」

「ええ、うそ。ごめんなさい」

 なんでそんなこと言うのかな、とじと目で睨まれるがそれしきで怯むくらいなら、最初から口にしていない。

「だけどそんな顔してたのは本当」

「……気をつけます」

 殊勝に反省するビッキーに、ユニは鷹揚に頷く。

「向こうが気になる?」

「それは……だって魔族よ?」

 二人の視線の先では魔族らが小声で何やら語り合っている。車体の振動やらでその内容はこちらまで聞こえてこない。

 魔法を使ってもいいが「盗聴」という行為をするのは今は少し、よろしくない。相手はこちらを警戒している。気付かれたら厄介だ。

 ビッキーらの仕事は魔族に仮でも信用される必要がある。

 そのためには自分たちも相手を少しは信じなければいけない。……というのは建前過ぎることは知っている。

 なぜなら車内を光で満たしている時点で「お前たちのことは信用していないぞ」と言っているのと同じだからだ。

 魔族は暗がりを好む。

 大封鎖後、人々は街灯を街のあちこちに建てた。大きな街に限らず山奥の村まで徹底され、またそれらを繋ぐ道も言わずもがな。それに伴う人工照明器具の発展により、人々は小型で軽量な明かりを安価で手に入れられるようになった。

 明るい夜を、暗がりに怯えることのない安らかな夜を手に入れた。

 しかし封鎖は解かれた。

 それでも人々は自分たちが生み出した明かりを絶対のもとして信じている。

 そうでないことをビッキーたちは知っているから、車内を魔法で照らしている。魔族は魔法の光がどうやら苦手らしいのだ。正確にいうと、人間が魔法に使う「光子」が駄目なのらしい。

 「光子」はその呼称と異なり自ら発光しているわけでなく、また反射することもない。ただ人間が魔族が厭うからというのでその名をつけたに過ぎない。

 調査に回答してくれた魔族曰く「なんか眩しい」らしい。どの魔族に訊いても返ってくるのはそんな曖昧な言葉ばかり。

 だがとにかくそれが事実なら有効活用するのみだ。

「それにしても……変よね」

 ぽつりとビッキーが吐き出した言葉はユニの関心をひいた。

「変?」

「うん、なんていうか……列車を前にはしゃいだりして、子供みたいっていうか」

「……そうね」

「あのバリーというのも、その、子供の愚行を微笑ましく見つめる母親みたいに後ろから眺めていたでしょう?」

「……あんな顔だから分かりづらいけど、そうね、きっと本当に微笑んでいたんじゃないかしら」

「やっぱりそう思う?」

「ええ……」

「………………ねえ、ユニ」

「なにかしら」

「あいつら、なんだか――」

 思い詰めた表情でビッキーが直感を吐き出しかけた矢先、列車が揺れた。

「っ――」

「きゃっ……」

 積まれた荷が崩れ、瓶の悲鳴があちこちであがる。

 身体が進行方向、背後に向かって引っ張られたビッキーは咄嗟に足裏に体重をかけ、何とかその場で踏みとどまる。

 ビッキーは耳を澄ました。

(列車が止まった?)

 唸るような車体の微かな振動は続いているから完全停止したわけではないことは分かる。

「そこ、状況は?」

 今の揺れの衝撃で崩れた荷が魔族との間を完全に遮断していた。

 ビッキーが呼びかけると「おう、平気だ、ちょっと驚いたけどな」とそれまでと変わらぬ声が返ってくる。

 心配するには及ばないか。と、見切りをつけかけたビッキーだが、いやでも、と思い直して、荷の向こうへ回り込む。そこにはさっきまでと変わらず床に座り込む魔族がいた。彼らはビッキーの姿を見ると一様に意外そうな顔をした。

(な、なによ……)

 負けないんだから。無言でにらみ返す。そして、彼らの背後にも目を配る。車体の壁に穴が空いているということもない。

 優先順位を改めて、ビッキーはユニの元へ戻った。

 列車の停止。

「駅に着くには早すぎる……」

「そうね」

 まだ走り出して十数分と行ったところだ。次の駅まではまだまだかかる。

 窓があれば外の様子を窺えるのだが、この貨物車輌には最初から窓がない。

「事故かしら」

 線路内に野生の生き物が飛び込んで運行に支障が出る、ということは珍しい話ではない。

 二人の視線は通路と通路を繋ぐ入り口、その壁の上部を仰ぐ。ここは貨物車輌だが、公社は列車の種類に限らず、車輌全てに放送器具を取り付けてある。停車前後や出発前には必ず放送が流れる。それは車輌に何かあった際にも同じで、機器が故障していない限りは今回も何かしら説明が流れるはずだが……

 しかしスピーカーは無言のまま、何ごともなかったように列車は動き出す。

 二人は顔を見合わせた。




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