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絶望の中で


「チッ・・・意味がわからねぇ。」


三徳の頭の中は意外にも冷静だった。壁に打ちつけた拳を摩りながらも思考を巡らせる。


ほとんどの犯行現場には共通点がある。現場のPC画面(デスクトップ)に映し出されているSCP財団のHPだ。もちろんこのHPについては問い合わせをした。が、返ってくるのは本物の困惑した声だ。突然警察による事情聴取に相手は戸惑うばかりだった。


SCP財団。これはHP上に明記されているように単なる創作物らしい。現実にこんな組織はないし、SCPなんてものを収容する施設もない。一応調査員を各地に飛ばしてはいるが、おそらく収穫はゼロだろうな。


天井をチラチラと見て火災報知器の有無を確認してから、胸ポケットのタバコを取り出し火をつける。先ほど殴りつけた壁に貼り付けてある"禁煙"マークなんて目に映っていない。


それと犯行現場の共通点はまだある。それは人の入った形跡が一切ないということだ。それぞれ密室というわけではないが、人一人を攫う場合、一体全体どうやって一歩も部屋に入らず人を運び出すというのか。知っている人間がいるならば教えて欲しいぜ。


タバコを噴かしながらその紫煙を目で追っていた。


「せんぱーい。」


心を落ち着かせているときに、アイツが来た。それだけで青筋が浮かび上がり、視線は細く鋭くソイツを突き刺す。


「嫌だなぁ。そんな怖い顔で見つめないでくださいよ。死ぬかと思った。」


「ホント死んでくれねぇか?」


イライラとタバコを地面に落とし踏みつける。


「ここ禁煙ですよ。」


「ん、そうだな。だからこうして消してやったぞ。火事になったらさすがに首が飛びそうだしな。」


「もう胴体から離れかけてますよ。」


「チッ。」


舌打ちにも一郎(コイツ)は動じず「そういえば」とある書類を渡してきた。


「これ、あれですよ。」


「意味深な感じで「知ってますよね?」みたいに言われても俺はわからんぞ。なんだそれは。」


「今回の事件の調査書ですよ。ま、先輩なら察するでしょうけど。」


「ああ。」


渡された書類の感触だけでわかる。やはり収穫はないか。


「これ逆に何が入ってんだ?」


「"行ってきましたよ"っていう証拠品の提示では?」


「ガキの遠足じゃねぇんだからよ・・・」


その場で丸めて吸殻入れにねじ込む。


「そこ、ゴミ箱じゃないですよ。」


「あ?この世がゴミと同位なんだ。そりゃそうだろうな。

そういや俺は今日もクソめんどくせぇ整備(メンテナンス)だチクショウ。お前は?」


一郎は顎に手を当て少し考えてから「今日じゃないですね。僕は先輩と違って"軽量型"なので。」と答えてオフィスへと戻っていった。


瞬間アイツは嫌な顔をしたのを俺は見逃さない。少しだけ心が洗われたような清々しい気分になることが出来た。













闇に紛れてまた一人。私は自らの使命を果たしていた。手元の携帯端末に表示されたビーコンの元へと急ぐ。


音もなく目標地点に到達した彼女は、いつもと同じ光景を目に映す。


一人の青年がPCを貪るように見ている光景だ。彼らは"情報"に食いついているせいで私に気付くことはなかった。



「さーて、これで今日はおしまいっと。」



数十分後、目標地点に人はいなかった。いつもと同じだ。



そこまでは。







「今日はあんたが攫われる番だぜーい?」


ハッとして声の方向を、自らの真上を向く。そこには男が一人浮遊していた。


「・・・」


別に人が飛んでいることに驚きはない。人が飛ぶところなんて日常的に見ている。その方法が問題だ。


男が足に装着しているのは簡易的な加速装置(ブースター)だが、そこが青白く光っている。おそらくあれで飛行しているのであろうが、炎を糧に飛ぶ機械であるなら私が気付かない程の無音で近付いてくることが可能なのだろうか?


あれは"新型"だ。



それは突然輝き出したかと思うと、男は空を蹴ってこちらへと突っ込んできた。



構えた獲物はナイフ。だが、あれも新型だとしたら。


私は屋根から転がるように道路へと落ちる。そして人気のない方へと走る。


「あっれー?おかしいなー?この武器のデータはないはずなんだけどなー?」


男は私に近付かないようにしつつも、私の頭上に張り付き並走してくる。真上からの攻撃は避けづらい、ついに人間も空を飛ぶ方法を手に入れてしまったか。


「・・・面倒くさい。」


思わず独り言を呟きながら、私は一件の民家の窓を割り飛び込む。


「キャァアアアアアア?!」


その家の母親と思われる人間が叫び声を上げ、異常に気がついた隣人達の家に明かりが灯り始める。


すぐに家を抜けて走る。アイツもおそらく組織の人間。それも日の当たらない世界で生きている。なら人の眼があるところで空を飛ぶなんて大胆な行動は取れないはずだ。賢いやつなら組織で生きていけなくなることくらい容易に想像がつくだろう!


住民に構わず走る。だが、ふと悲鳴が止まる。それと同時に私の足も止まってしまった。


私は来た道を全速力で戻る。飛び出た家に入ると、そこは血の海と化していた。








「あれあれー?鬼ごっこは終了かなー?」


顎を蹴り飛ばされ私の身体は浮き壁へ叩きつけられる。前が見えず痛みも感じない。


血の海を見た瞬間、私の意識とは裏腹に全身の力が抜けその場にヘタりこんでしまった。私もソイツが敵なら迷わず蹴るかな。


痛みは感じないのに力が入らない。じれったい。

そんな私の髪を引っ張り、男はナイフを持った手で私を―――――


ここだ!


私が全く動けないと油断したな。私は髪を掴んでいる腕に触れるべく瞬間的に動く。


だが、敵は油断なんてしていなかった。ナイフを持つ手が狙っているのは動かした手だ。男は私に絶望を与えようとしているのか。


もう動かした手は止まらない。




刹那の出来事。



私を掴んでいた男が何故か"吹き飛んだ"。

そして私は別の誰かに抱きかかえられる。


遠のく意識の中、私は何かを言った。それがなんだったかはわからないが彼はこう返した。



「君をまともに生かす。そのために来た。」



私の意識はそこで途切れる。




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