行方不明
―――――これより先は機密資料が記録されています
不正にアクセスすれば居場所を特定し対処します―――――
―――――財団データベースへの許可無きアクセスは固く禁止されています
違反者は追跡、特定、拘留されます―――――
そんな文言とSCP財団という名だけのHPを見て、男は嘲笑った。
「今時こんな嘘臭い文章、信じる方が馬鹿だろ。」
彼はEnterを押す。
目の前に現れたのは"情報"だった。
No.001から999までの異質達の情報。あくまで創作であるとリンクページには明記されているが、それらは思春期の青年の想像力妄想力を掻き立てるには十分すぎるほど優秀な内容であった。
男はハマった。SCP達の詳細リンクを飛びまくり、貪るように見入った。
そして一段落。No.100まで見たところで男はPC上の時計をチラリと確認する。
時刻は深夜2時。
見始めた時間は,,,いつだったかそんなことは既に記憶にはない。彼は興奮していた。思春期特有の性的興奮などではなく、こう、心の底からの、一種の憧れのような感情。漫画の登場人物が持っている異能力を羨むことと相違ない感情。
背もたれに凭れながら背筋を伸ばす。2,3分の休憩後、彼は情報の閲覧を再開した。
*
午前4時。PC前に人影はない。開け放たれた窓からは風が吹き込む。乱雑に置かれた書物類のページが捲られる。
画面にはSCP財団の文字。加えてあの文言。
今件で今週の行方不明者は三桁を突破した。
*
「ああチクショウ!一体全体どうなってやがる?!」
警察庁のオフィスに三徳 彦摩呂警部の怒声が響く。
「ま、まあ落ち着いてくださいよ。」
「落ち着いていられる状況じゃねーんだよ!!!都内でのガイシャの数はもうすぐ4桁代だ!!!なんだ?共通するヒントらしきものも意味がわからん!!!どっかの食人鬼が人肉パーリーでも開いてんのか?!それともいよいよこの世界にも巨人が現れたのか?!」
「現れてませんよ、警部。」
「知っとるわ!!!」
頭を抱えながら三徳はデスクを3度頭突く。
部下の多喜 一郎警部補に制止を任せたのは間違いだった。火に油を注ぐだけだった。
一郎君に非はない。彼は天然だ。悪気やイヤミではなく素であの言葉をチョイスしている。
ちなみに怒鳴られてもビクリともしない。血の気が多い三徳君の唯一無二のコンビだ。制止力としてそばに置いているんだが、その点においては全く役にたってないがな。
「そんなにクヨクヨしても事件は解決しませんよ。」
「・・・んだとゴラァ!誰がナヨナヨしてるだってェ!?」
「クヨクヨです。」
「どっちでもいいわ!」
「そうやって犯人を見つけられないからって机に八つ当たりしてても犯人は見つからないって言ってるんですよ。まるで夏休み最終日に夏休みの課題を丸々全部残してたからって母親に泣きついている小学生みたいなことしないでください。課題はやらないと終わらないのですよ。」
その的確すぎる言葉にオフィスは一瞬静まる。コピー機の印刷音しか聞こえなくなる。
三徳も同じだ。言い返す言葉を彼は思いつけない。握り締めた拳をワナワナと震わせつつオフィスから出て行った。数秒後にドンという大きな音が聞こえた。
「一郎君、ちょっと来て。」
「なんでしょう?警部。」
彼は相変わらずほとんど表情を変えないままに私の元へ来た。
「君は火に油を注ぐことしか出来ないのかね?」
「僕には彼が火には見えないのですが。」
「見えないの!?」
なんていう肝っ玉をしているんだ。あんな噴火してる火山みたいなやつを火だとも思っていないとは。
「そ、そうか。とりあえずあまり彼を激怒させないでくれ。ここにいる他の部下達がビビって仕事に集中できなくなるから。支障を来すから。」
「了解しました。」
了解してないんだよなぁ・・・これ今月入って10回は言ってるんだよなぁ。
「ところで鹿取警視長。」
「なんだい?」
「さっきの壁ドンは絶対流行りませんよね。」
笑顔でそう告げる君を見ながら、私は頭を抱えた。
*
午前4時前。
《空白世界》
「うわあああああああああああ・・・」
叫び声は途中で消えた。
その場にいた少年も同じく消える。
「ふふふ・・・これで博士はまた喜んでくれるかしら♪」
顔を赤く染め、頬に両手をあてながら良からぬ妄想に浸る少女がそこにはいた。
黒髪長髪のメガネ、衣服は目立たず動きやすい黒の上下。
そんな彼女は鋭い目つきで室内を見回したあと、PCを弄って例のHPを表示させる。
「ちゃんと警告してるのに、見ちゃうボクちゃん達がいけないのよ♪」
そして彼女は闇に消えた。