恋敵
昔は幼馴染が好きだった覚えがある。 どこが好きだったのだろうか……今となっては分からない。 きっと幼馴染の延長のようなものだろう。 よくある友達以上恋人未満というやつだ。 友愛と情愛を混ぜてしまったのだろう。 そんな今は、幼馴染の親友、もとい自分の親友が好きだ。 そして自分の親友は昔好きだった幼馴染のことが好きだ。 かつての好きなひとは今は敵なのである。
「セトはルノのことをどう思ってる?」
セトの家へ上り込み、緑茶を飲みながら自分は問う。 セトは緑茶を作るのに使ったお湯が入っていた鍋を片付けている。
「どう思ってるって……。 普通に好きだけど」
好きなことぐらい知っている。
「どう好きなの」
自分でも怖いくらいの低い声音だった。 別に怒っているわけではない。
「友達として……かな」
「それなら良かった」
もし、セトが友達として好きじゃなかったなら、どうなっていたのだろう。
セトと、ルノを巡って喧嘩? 有り得なさそうだ。 セトは昔から争いは好まない性格だったから。
セトのことだ。 恐らく黙ってルノを譲るはず。
「ルノのこと、傷つけたら許さないから」
「……? 今日の千草、怖いよ?」
「本当は気付いてるんでしょ」
セトの目は相変わらず何も写さず垂れたまま。
「僕は分からないよ。 何が言いたいのかな?」
「ルノの気持ち、知ってるんでしょ」
「知らないよ? 何かあるの?」
紫色の垂れ目を更に垂れさせて彼は問う。
「そっか。 セトは知らないんだね。 ならいいよ」
自分は諦めて緑茶を啜る。 いつもりよりほろ苦い気がした。
それから数日後、セトはルノに告白されたという。 どうやって告白したのか、自分は全く分からない。 時すでに遅し。
セトは罪な男だ。 自分は嫉妬した。 悲しかった。