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魔法少女は〇〇〇につき。

魔法少女は世襲制につき。

作者: 六理

 魔法少女時代―――



 それは、世に蔓延る悪を倒すためにたくさんの魔法少女が生まれた時代のことである。

 いわゆる黄金時代とかそういうくくりでみてもらえればいい。

 あれだよ、汽車にぎゅうぎゅう詰めになって就職していった世代がいたじゃない。あんな感じ。

 たくさんの魔法少女たちは悪を退け、そして新しく発生する悪を倒す力を次世代へと―――この場合は娘とか孫になるかな、に譲渡する。

 でさ、君のお母さんは小学生の時にこれにエントリーしてたんだけど外れちゃったんだよね、残念ながら。

 まぁ実の娘の孫と遠い親戚の娘じゃ、当たる確率低いからしかたないねー。

 でさ、これからが本題。

 いま現在、困ったことにある魔法少女の後継が決まらない。

 何故かって?

 先代の魔法少女に娘が生まれなかったんだよ。

 生まれたのは見事に野郎ばっかり五人も!

 仕方がないから縁戚一同、後継にと女の子を集めたんだけど。

 これがさあ、困ったもんでさあ。

 ねえ、女の子が女の子でいられるのはいつまでだと思う?

 ねえ、女の子を女の子と定義付けるものってなんだと思う?

 それはね―――





「ふっざけんな!!!」


 ぴるぴると謎の効果音が出る何の物質で出来ているか不明なピンク色の大鎌の柄で黒装束の人間をなぎ倒しながらその人影は叫んだ。


「ぐへぇっ」


「殴るのかよ!」


「魔法具だろそれ!」


 普段は「ヤー」か「イー」としか発言の許されていない彼らは、普通の魔法少女ではありえない戦いをはじめたことに動揺して叫んだ。


「うっっせぇよ!!!」


 大鎌を地面に深々と刺し、つんざく轟音と共に出来た深々とした亀裂に前方にいたすべての敵を落とす。

 それに魔法を使った素振りは一切ない。


「嘘だろー!?」


 満月を背に、部下を高みから見物していた悪の組織の中ボスである青年が身を乗り出した。


「おまえがここのボスだな?」


 その人影は―――魔法少女は立ち上がる。


「なん―――だと!?」


 青年は驚愕に目を見開き、固まった。

 その隙をついて、人間を超越した脚力でビルの間と間を蹴りあげて魔法少女は大鎌を振り上げた。


「懺悔はあの世でしな!」


「まてまてまてっお前のどこが魔法少女だー!」


 間一髪、攻撃を避けて青年は後ろに跳んだ。


「ちっ」


 ガンッとビルの屋上に大きなヒビが入る。

 あまりの衝撃に青年は青ざめながら、目の前の魔法少女を見た。

 歴代の魔法少女からの伝統服に身を包んだ彼女は―――

 ピンクのふわふわツインテールは幅広のフリルにピンクなリボンで結ばれ可愛らしい。

 垂れた白く長い耳に、もふもふな丸いしっぽがドロワーズからちらりとのぞく。

 リボンと同色のツインワンピースはこれでもかというほどのフリルと繊細なレースに縁取られている。


「オラオラオラ!」


 そのフリルから伸びる白い手足―――は筋骨隆々。

 さらにいうなら刺繍の凝った襟元からのぞく首元も素敵にふとましい。

 力強い太い眉と、しかめられた瞳の凶悪さ―――


「どこのゴ〇ゴだー!!!」


 そう、目の前の魔法少女はいうならば世界一のスナイパーが女装を―――しかもかなりあれな感じに着てしまったような格好をしていた。


「そんなのは」


 立てば仁王、座ればサタン、歩く姿は巨〇兵と称される彼女は―――天高く大鎌を振り上げた。


「おまえに関係は、ない!!!」


 しかし青年も悪の幹部の一人である。

 苦し気にもその攻撃を避け、闇の魔法を繰り出す。


「くそっ仕方ねえ…!」

 

 大鎌を高く空に放り投げ、魔法少女はパンッと顔の前で手のひらを合わせた。

 瞬間、とてつもない魔力が頭上に集まっていく感覚に青年は叫んだ。


「なにを………!?」


 目をつぶり、仁王立ちをしたその魔法少女が虹色のオーラに包まれていく。

 カッと目を見開き、叫んだ。


「ルンルン☆リンリン☆ツゥルリララッホイ☆はなのいぶきよほしのかけらよらぶりーにぱわーまっくすにもっふもふ☆わたしに力を貸して☆…この目の前の目障りな野郎を消し去れあいらぶれぼりゅーしょんだおらあっ!!」


「せめて魔法発動呪文を変えられないのか魔法少…ぎゃああああ!!!」


 


 天上で渦巻いた雲から特大の雷が青年に落ちた―――






 雲が晴れ、満月がその場を照らす。

 火事現場のようなそこに、膝をつく魔法少女―――午頭花名(ごとうはな)は頭を抱えながら、先刻のことを思い出していた。

 断末魔をあげて滅んだ敵のことを―――そんなことはどうでもいい。


「………うわぁああああん! 使いたくなかったのに! 使いたくなかったのに! なにあの呪文、考えたやつ頭が腐ってんじゃないの!?」


 ガンガンとアスファルトに頭を打ち付ける花名。






 彼女の母は三十年前、魔法少女になりたかったそうだ。


 いまもそうだがふわふわとした背後に花が似合う人なのだが、その時は選ばれずに大人になり、熊のように大きな大きな体に人を近くに寄らせない険しい顔立ちをしているがとても気の優しい男性と出会い結婚。

 翌年、珠のように健やかな男性によく似た―――似てしまった女の子が生まれた。


 それが、花名であった。

 

 骨格からしても華奢とは程遠く。すこし力を加えるだけで岩をも砕く握力。

 熊を一撃で倒せるだけの脚力に鋭い眼光はふっと眉を動かすだけで野生動物を射落とせた。

 まさに―――女版ゴ〇ゴ。


 これが、男だったならまだよかっただろう。


 すまないと父は泣き、母はあらあらと笑った。


 内心、周囲からの視線に迷い苦しみながらも、それでも己を愛情豊かに育ててくれた両親に報いるためにまっとうな道を歩んできた。

 女の幸せなど望まない。

 向かってくるいじめっ子は文字どおり叩き潰しながら、すくすくと大学に入学するまでに成長した矢先。


 その男は現れた。


【世界魔法少女協会】というふざけた名称の―――実際に魔法少女がいるので仕方はないのだが、それを統率している人間のひとりだというその男はファミレスでこう切り出した。


「君、処女だよね?」


 ブーッと飲んでいたココアを目の前に座っていた男に吹きかけた。


「な、な、な」


 いままで、いろんな不躾な視線や発言をされてきたがこんなことを直に言ってきた人間はいない。

 失礼にも程がある。

 女を生まれた時から捨てているとはいえ、聞き流していいものといけないものがある。

 メキメキッと備え付けの机を持ち上げて叩きつけようとした時、男はこう言った。


「ごめんごめん、これは単なる確認だよ―――本当に困ってるんだよ、こっちは」


 とりあえず、落ち着こうかとのんびりとハンカチで顔を拭きながら男は一から説明した。


 いわく『魔法少女は悪を倒す聖なる力を初代から受け継ぐ者』であると。


 それは知っている。

 壊れた机に頬杖をついて花名は頷いた。


「魔法少女に必要なのは血統と意志。まあ、やる気だね。あと少女であるということが最低条件なんだ」


 少女であるということ。


 ―――それは。


「まあ、純潔であるということ。生娘じゃなきゃいけないんだよねー」


 だから聞いたのか、最初に。

 花名はようやく納得した。

 したが、いきなりあんな言い方はないなと思う。

 せめて恥じらえ。


「直系の魔法少女―――先代には女の子が生まれなかった。野郎ばっかり五人も生んでさ。ボクがその五人目なんだけどね」


 ままならないよねえ、と男は机上にあった紙ナプキンを手で玩びながら言う。

 器用にバレリーナを作るんじゃない。キリンも作るな。


「しかたないから、血は濃い薄いに関係なく次代の魔法少女になりえる娘を探したわけ。そしたら―――」


 にっと男は笑った。

 聞いていた年よりも思いの外、幼く見えた。


「近年の性の乱れってこわいよねえー。候補、何人もいたのにさあー」


 君以外、残らなかったんだよ―――




 この図体が、こんなことで、こんなものに引っかかるとは。

 

 しかし。


「…おことわ」


「魔法少女の特典って知ってる?」


「…特典?」


「そう。なんでもひとつ、お願いをきいてくれるっていうさ」


「………なんでも?」



 そんなこんなで。


 まわりより頭二つ抜きん出た『ふぇありーぴんく☆八代目』が誕生したのである―――







「こらこら『ふぇありーぴんく☆』ったらーやめなよ、痛いでしょ?」


 のんびりと、悪にではなく魔法少女に破壊しつくされたビルの屋上にその男は入ってきた。


「うるさい! せめて呪文と衣装はどうにかならなかったのかよ!」


「歴代の伝統呪文に伝統服だもん。魔法少女にしか使えないし、着れないの。わかるでしょ?」


 実際、ぴったりしっくりきちゃうんでしょ?


 その言葉に、花名はぐっと詰まる。

 恥ずかしい呪文を唱えて変身し、身につける恥ずかしい衣装。恥ずかしい魔法具に恥ずかしい決め台詞。

 いやなのに、ぴったりする。

 いやなのに、しっくりくる。


「ううううう………」


 昔から、スカートなど着ない自分にこの仕打ち。

 いや、確かに着たいと思ったことはある。十年以上も前のことだが。


「もう。戦闘で怪我しないのに自分から怪我増やすとかしないでよねー、しかも顔とか」


 座り込んでいる花名の前に男は回り込み、血が滲んでいる額に手をかざした。


「〈heal〉」


 さすがは魔法少女の直系。

 短縮呪文で、魔法の中でも難しいとされる治癒魔法を使いこなしている。


「よしと。怪我も治ったし中ボスも倒せたみたいだし―――あとは悪の親玉だけだねえ」


「やっとか………」


 長かった。

 この一年、昼は女子大学生として過ごし、夜はこの衣装で魔法少女として街を飛び回った。

 もういやだ、やめる、黒歴史だと喚く花名を毎回宥めたりお菓子を差し入れしてくるこの男は笑う。


「使命を終えたら、魔法少女に女神さまとやらがひとつだけ願いを叶えてくれるけど―――花名はもう決めた?」


「―――まだだな」


 実は、昔から花名にはちょっとした夢があった。

 普通の女の子だったなら、願わないだろう夢を。




 男性に、女の子扱いをしてもらいたいと。

 物心がついてからはすぐに諦めた、夢。

 優しく言葉をかけて、手を引いてもらいたいと。

 ずっとそう、思っていた。


 だけど。


「お腹減ってない? 奢ったげるよーなに食べたい?」


 大柄な花名に、男はなんのためらいもなく手を差し出す。引き上げる。


「花名、あそこのパフェとかどうー?」


 思えば、出会いからこの男は花名のことを特別扱いをしなかった。

 発言は失礼だし、常識もあったものではないが―――


「花名は甘いの好きだもんねえ」


 女の子扱いをされるより、ずっとこちらのほうが嬉しいと。

 いつしか花名は思えてきたのだ。


 だから―――魔法少女を終えるその後が、本当はこわい。


 この男との繋がりは、いまのところ、この不可思議なものだけだから。


「ねえ、花名」


 変身を解き、いつものように上下黒のジャージに短い髪の姿へと戻ったパフェをつつく花名に男はにっこりと笑って言う。


「敵の親玉倒したらさ、ボクのお願いひとつ、聞いてくれる?」


「…ワタシが聞くのか、逆じゃなく」


 どういうことだ。理不尽だな。

 でもたぶん、聞くだろうけれど。


「ものによるだろうがな」


「わーい。あ、花名」


 クリーム、ついてるよ。

 頬についた生クリームを男は手を伸ばして拭き取る。そのまま、舐めとる。


「おお、すまない」


「どういたしまして。…うーん。もうちょっとかなぁ………」


「うん?」


「いやいや。楽しみだなあ」


 










 一ヶ月後、見事に悪の親玉を倒した『ふぇありーぴんく☆』の左薬指に光るものがあったとか、なかったとか。




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