第六十三話
長らく期間空いてしまい申し訳ありませんでした。
まだリアルでの多忙が続くため不定期更新になってしまいますが、これからもご愛読よろしくお願い申し上げます。m(_ _)m
AM11:30頃、中枢電波塔前。
都市の電波塔というだけあって昔のJAPANの都市、東京にあったとされる電波塔と同じぐらいの高さを持っていた。
そして、その電波塔付近にはショッピングモールや公園が設置されており、こんな非常事態でなければ娯楽に使われていたはずだった。だが現在は電波塔を囲むように首謀者を守らんとばかりに配下の者が武装をして構えていた。そしてよく見ると他の場所を制圧している武装した日本人とは違い、こちらは体に傷が所々ついていて戦争になれいると思われる外国人が武装をして電波塔を守護している。中には武装をしていない者もいるがその者達が何者か、答えは簡単だ。
強力な超能力者。これが正解だ。
現在、その占拠されている電波塔の近くから建造物の隙間に身を隠し様子を伺っているのが北川 冬花と睦月 蓮である。
冬花の結界も合わさり武装した傭兵崩れには気付かれずにいる。
「社長、どうします?力任せに正面突破で行きますか?」
「もう少し待ちなさい。今、策を考えているから」
二人は電波塔の周りをガチガチに守られている兵に対してどうやって上手く処理して中に入るか、うまい策が見つからず動けずにいた。
「でも、早くしないとこの結界もバレるのも時間の問題ですよ。」
ブチッ。
何かが切れた音が蓮には聴こえた気がした。
と次の瞬間、身を冬花より低くしていた蓮の左頬に冬花の靴の踵がねじ込まれる。
「下僕、口を動かす時間があるなら頭も動かしなさい。その家畜以下の脳みそでもちょっとはマシな意見を言ってみなさいよ」
グリグリ…グリグリ。
「す、すんませんでした…」
冬花は秋真の時とは違い、蓮にに対してすぐに足を退けた。
そして、蓮も左頬をさすりながら頭を働かせる。
「社長、忠勝さんに連絡ができず、来られない今、ここはもう俺が先に出て敵を俺が引き連れて社長が一人で突っ込むという案しかなと思うんですが?」
「下僕、こんなか弱い絶世の美女を一人で中に突っ込ませて中にいるであろう敵のボスと手下とドンパチ遣れと?」
か弱い?
蓮はとっさにそう思った。そして、思ってから0.1秒。
ヤベッ!
蓮は冬花を見る。
時、すでに遅し。
今度は無言で連の右頬に踵が突き刺さる。
グリグリ…グリグリ…
「しゃ、社長、お、俺、一応しゃべってないんですが…?」
「一応ってなに?」
冬花が冷気たっぷりの目で蓮を見下す。
「い、いえ、何でもありません。俺が悪かったです。すみません…」
グリグリ…
だが、冬花の踵が蓮の頬から退くことはなかった。
そしてそこから役3分が経過した。
グリグリ…
い、痛い…。さすがにもう足を退けてくれてもいいんじゃないか?
蓮は赤くなり始めた頬を気にしながらその踵から伸びる美脚を拝めてから冬花の顔を見る。
冬花は顎に手を当てて敵の本拠地に目が行っており、察するに思考回路も本拠地攻略に励んでいると思われる。故に冬花の足は完全に無意識で踵を動かしていた。
それを見て、痛みを感じている蓮にも自分が完全に意識されていない事がわかり、急に涙が出てきていた。
完っ全に俺の事眼中なしですね…このどS社長は…(涙)
…
…
フフ…
…
そんな時、蓮の中で不気味で綺麗な笑い声が聞こえた気がした。
突如、蓮は頭を抑え痛みに苦い顔をした。
「グッ!!」
その突如の変化に冬花も察して、足を退けて蓮の顔を覗き込む。
「下僕?」
「だ、大丈夫です。それよりも早く策を考えてましょう。今度は俺も考えてますから」
蓮は頭を抑えたまま、兵を警戒しながら頭を動かす。
その様子に冬花は若干、不安な顔をしたが頭を切り替えた。
だが、蓮の頭の中ではあまり聞きたくなかった声が語り掛けてきた。
フフ、フフフ。久しぶりね、わたくしの可愛い眷属。
蓮の頭の中に綺麗なソプラノの声が響く。
「!」
蓮は驚きの顔をする。
冬花はそれを見逃さなかった。
わたくしを使いなさい、わたくしの眷属…。
そうすれば、あの俗物ぐらい簡単に殺めてあげるわよ?
黙れ!なんで、お前が意思を持ってる!?おい、酒呑童子!なんでこいつが出てきてる!あんたが抑えてくれてたんじゃないのか?!
すまん、蓮よ。こやつ自身の意思の強さが俺の抑えを無理やりこじ開けた。
こじ開けた?フフ、違うわ。綻びがあったからそこからゆっくり、ゆっくり脱出しただけよ。
綻びだと?
わたくしの可愛いの眷属、記憶があるでしょ?
わたくしを使った記憶が。
そう語り掛けられて蓮は自身が空を飛ぶ時に使っていた『羽』、物質をより正確に捉える為に使っていた『眼』を使うざる得なかった状況…。あの日、あの時あの瞬間の事を思い出し、口に出す。
「あのときか…」
そう、貴方があの時…いいえ、あの日、あの時間帯にわたくしの『血』を使ったことによって彼、『東の鬼』の抑止も弱まった。そこをわたくしが利用しただけよ。貴方とどうしてもお話がしたかったから。可愛いわたくしの眷属。
悪いがお前の助けを願うくらいなら下を噛み切った方がマシだ。いつ、体を乗っ取られるかわからないからな。酒呑童子、もう一度こいつを押さえつけることはできるか?
んん…
なんだ、はっきりしないな?
それがこやつ、反抗するそぶりがない。とゆうより、意思を持っている時点で体を乗っ取ることはできたはずだ。なのにしなかった…。蓮よ、話だけで聞いてみてはどうだ?
おい、酒呑童子冗談言うなよ。こいつのやったこと許すのか!?
わかっている。こいつがやったことは『鬼』として許すつもりはない。だが、今はお前という『人間』の一部だ。
俺にできるのはお前の『血』と俺の『血』とこいつの『血』の調和を保つ事ぐらいだ。
いま出している力は半分はこいつのモノだ。
力について語ってくれるなら聴ける情報は出せるだけ出させればいい。
フフフ…本人も聞いているというのにずいぶんと口が軽いわね、『東の鬼』?
黙れ。別段貴様相手に負け惜しみを出している訳ではない。図にのるなよ。
わかった…。とりあえず、話は聞こう。だが、今はそれどころじゃない、だから今は引っ込んでろ、バートリ。
フフフ…、我が眷属、そういうところも愛しく可愛いけど今はわたくしにその体渡しなさい。
な!?貴様は計ったな!『西の鬼』!
バートリと呼ばれた吸血鬼は圧力のある囁きで蓮をひれ伏す。
そして、それと同時に蓮の意識、『酒呑童子』の意識は奥深くに追いやられて人格は吸血鬼が支配した。
心理から現実に戻る。ここまでの時間、約2分。
「ねぇ、本当にだいじょ…」
ずっと黙ったまま動かない、蓮を心配して冬花が肩に手を掛けようとした時、突然蓮が冬花の腕に噛み付いた。
「!痛ッ」
とっさに噛み付かれた手を無理やり引く。
蓮の意外な行動、痛みにより精神が乱され、冬花は無意識に結界を解いてしまった。
それにより電波塔を守護していた、察知能力がある敵が居場所を察知してバレてしまった。
「くっ!結界が!蓮、貴方どういう了見で私に噛み付いたの?!答えによっては…」
噛まれた手を押さえながら蓮を睨む冬花。それに対して蓮は薄っすら笑顔を浮かべ唇を一回舐めてから赤紫色の瞳で冬花を見据えて一言。
「久しぶりに口にしたわ…若い女の血…。貴方、いい味ね」
声は蓮の声だったが幻聴か何かで冬花の耳には冷たく針の様な女性の声に聞こえていた。
 
「貴方!まさか!」
冬花がそう言いかけたところで蓮は踵を返してこっちに向かってくる敵に駆け出した。口元、目元を愉快に吊り上げて。




