第41話
大分、遅くなりました。すみません(>人<;)
感想などお待ちしています!
海面を走る小型のモーターボートの上で奏は重しげな顔をしていた。操縦をしているナーシャがその顔を確認すると、問いかける。
「どうしたの?浮かない顔ね」
「ん?…ああ…幾ら何でも刑が軽すぎると思ってな」
「裁判の最中、ボスは我関せずといった感じで奏を見ていたけど、『裏』の議題の時はいろんなところから奏を守ろうと隠蔽していたのよ?」
「?そ、そうなのか?」
「例えば、『裏』の学者を使って貴方と響さんの『ネイティブ・ペヨーテ』内での地位、日頃の生活、ランクの改竄などね。後、貴方に判決を言い渡した人にはお金で買収して刑を軽くしたのよ?」
「おい、仮にも政府の機関だろ(汗)何をやってる…」
「馬鹿ね〜、私達は『裏』なのよ。やり方は黒いに決まってるじゃない。だから『裏』なの。それに正攻法で出来ない事をヤるから『表』の政府やメディアにも明るみにならないんじゃない」
走るボートの上で奏が身体を乗り出す。
「だが!しかし、私の為にそこまで「奏」
だが、ナーシャが言葉を被せる。プレッシャーを掛けて。
「それ以上、ボスの行為に疑問投げるなら私は貴方をここから先に行かせないし、通しもしない。貴方をサポートする事も撤回させて貰うわ。私を失望させないで」
ゾワッ。
奏はナーシャからの初めて殺気に唾を飲み込む。しばらく黙った後、質問を問いかける。
「ナ、ナーシャ。なぜ、お前は秋真にそこまで本気になれるんだ?」
「変な事、聞くわね。別にただ私は私の都合でやってるだけよ。私は今だに現実逃避してるだけ」
話とは全く噛み合わないセリフに奏は首を傾げて復唱する。
「現実逃避?それは…「さぁ、着いたわよ!」
質問を投げかけようとしたところでナーシャがわざと被せる。
これに対し、奏はナーシャを見て、後のセリフを飲み込んだ。変わりに着いたとされる目的地…『監獄島』にボートから足を着いて質問を言う。
「ナーシャ、着いたと言ったが私の前には確かに島が広がっているが…幾ら何でも小さ過ぎないか?それに真ん中にはアルカトラズと書かれた小さなあの建物は…」
今、奏の前には『監獄島』が確かに実在する。が、奏が言うように島にしては小さ過ぎた。何せ、見渡せばこの島が360°海に囲まれているのが肉眼でもはっきり分かるのだから。
だが、こんな島にも異様な存在感を出しているのが個室ぐらいの大きさの建物だ。こちらには建物の看板としてアルカトラズと英語で書かれていた。
ナーシャがそこに向かって歩き出す。
「行くわよ、奏」
「行くって言っても…この中に秋真がいるのか?」
ナーシャが個室の扉を暗証番号などを解除して開ける。
「そう。この中にボスがいるわ」
そういうと奏を個室の扉の向こうに行くよう促す。
そして、ナーシャも入り二人が入ると扉が閉まる。
ここで奏が気付く…外からは一枚に見えた扉が中からだと三重にも扉があったのだ。その扉は一枚一枚、厳重に閉じられ外の光一つ差し込まなかった。扉が完全に閉まると、同時にアナウンスが流れた。
ーO.V.R.Sの登録を確認します。しばらく、お待ち下さいー
アナウンスが終わると個室に設置されていたO.V.R.Sを認証する赤外線が足先から順々に当てられていく。
頭先までくると赤外線は消え、またアナウンスが流れる。
ー認証確認終了。これより、降下を開始致します。ー
アナウンスが終わると建物がガコンッと音を立て、岩の中を潜るように下に下に降下して行った。
「確かにこれなら中と言う事になるな」
「でしょ」
ナーシャが奏に相づちを打つ。
「今更だが、私は本土を追放された身、ここも本土の一部じゃないのか?」
「確かに一部よ。でも、違うの」
「?」
「ここには、いろいろな犯罪者が収容されている。罪を犯して入った人達…つまり、善良な市民じゃない人達が集まる場所」
「!」
「簡単に言うと、廃棄物処理場みたいなものよ。奏、貴方は一度廃棄処分してしまった物を漁りに行く?」
「いや、よっぽどの事がない限りは…行かない」
「でしょ?。それと一緒よ。善良な市民からしたら犯罪者はどこかが汚れた者、自分達とは違う、一線を越えてしまった人、捨てていい物。人間のゴミ。つまり廃棄物なのよ」
「!」
「いっしょにされたくない。自分はそんな過ちを起こす事は絶対にない。だから汚れた物は汚れた者が集まる場所に捨てて隔離してしまえばいい。って人は思っているのよ。だから、貴方が本土を追放されようが善良な市民からしたら犯罪者のゴミ捨て場に行くなら自分とは関係ない、捨てた物を探す程、惨めじゃないって思っているのよ、善良な市民と『表』の政府は」
奏が壁に背中を預けて呟く。
「廃棄物か…なかなか、心に来るな…」
ガコンッ。
どうやら海底に降下していたエレベーターは目的地に着いた模様。
ナーシャは順々に開く扉が完全に開かれると奏に一言投げ掛ける。
「でも、それは何も知らない善良な市民という名の偽善者達の偏見よ。犯罪者という枠組みを外して一人一人、話を聴けば犯罪者の中には確固たる『正義』を持っている人は数多くいる。その人達はただ、やり方を間違えてしまったに過ぎない。奏、貴方もその一人。悔いる事は大切。だけど、後悔する事は愚かな事。前を向くって決めたんでしょ?それに一歩はもう、歩き出したのだから後ろを見ないで歩き続けなさい。隣には私とボスがいるわ」
ナーシャが歩き出す。奏はその後ろ姿に気持ちを高揚させる。
そして小声で放つ。
「///かっこいいな…お前は…。そして、ありがとう」
◆◆◆
「ここは…」
奏はナーシャの後を付いて行き、ある所に辿りついた。
そこは円形に広がり、ソファや観葉植物、一定の範囲に広がる本棚、ディスク、などがありどこかのホテルのエントランスを連想させた。
そして、この空間にはすでに人が二人おり、ナーシャと奏の入場に反応する。
「お!姉御、お久しぶりッス」
と、茶髪の片耳に赤いピアスを付け、前髮をカチューシャで上げた青年が近付きながら言った。
「隊長!!…やっと、やっとお戻りに…(涙)」
さらに金髪のロングヘアでゆるふわな髮型をして鼻元にはそばかすをつけた、十代ぐらいの少女が嬉し泣きしながら近付く。
それに対してナーシャは金髪の子の髮を優しく撫でながら首を左右に動かす。
「あら、ゼルは?」
「あー、ゼルさんならヨーロッパ支部の監獄に二週間のスケットらしいッスよ。ほら、あそこ、罪人はあまり、いないスッけど、凶暴な輩ばっかりじゃないッスか〜」
「紅葉の指示?」
「そうです。あの使えない管轄長と隊長が不在だったため、紅葉秘書がお決めになりました」
「妥当な判断ね」
「ところで姉御、こちらの方は?」
「あ、あぁ〜、紹介が遅れたわね。新しい囚人よ。強制労働は50年の如月 奏よ」
「!お、おい!ナーシャ!」
奏がアタフタしだす。
それを見たナーシャは関係なく続けて、今度は対面している二人の紹介をする。
「この茶髪で軽い奴は『番犬』の隊員、ジャグ・ミクロリファ」
「よろしくッス。ちなみに俺も囚人ッスよ。刑は強制労働と無期懲役ッス」
「!!」
ジャグと紹介された二十代前半の青年は平然とそう言った。
「そして、この子も『番犬』の隊員のシファーナ・イユーリ」
「!」
「よ、よろしくお願いします。名前で気付いたかもしれませんが私は戦争孤児だった頃、隊長に拾って頂いた者です。つまり…」
「つまり私の娘……にしたかったんだけど、この子が妹がいいっていうから私の妹よ」
「///お姉ちゃん…」
金髪の少女は顔を紅くさせてナーシャの横脇に顔を埋めた。
そしてこの紹介に対して奏はこめかみを摘みながら呻く。
「ナーシャ、すまないが突っ込みたいところがかなりあって…どこから突っ込んだものか…」
と、奏が呻いている奏の耳元で何かが囁かれる。
「奏さんは突っ込む方じゃなくて、突っ込まれる方だと思いますよ」
「ひゃっう!!///」
奏が片耳を摩りながら後ろを見る。
そこにはニコニコした秋真がいた。
そして、続けて口を開く。
だが、奏は見た。秋真が次に言う言葉を全力で阻止しようとする鉄槌の拳と足を。
「だって、突っ込むためのマグナmベキャッ!!」
「ボス、不適切な発言はお控え下さい」
「おのれは、お姉ちゃんの前で何を言うをとしとんじゃ?あぁん!!!」
秋真の両頬に拳と蹴りがめり込む。
そして拳と足がギチギチと押し合うと、次の瞬間、秋真は反動でクルクル回り倒れた。
メチャクチャ、ピクピクしている。
そんな秋真をそっちのけでナーシャは奏に言う。
「貴方が言いたい事は分かるわ。なんで罪人や被害者が『裏』の組織にいるのか?でしょ?」
ナーシャは真剣な眼差しで奏を見据える。
奏は唾を飲み込み、相づちを打つ。
「ああ」
「簡単な事よ。ここにいるのは確固たる『正義』を持った者達。そして、やり方を間違えた者達なのよ。そして、奏。貴方もその一人」
「!」
ここで外野だった秋真が立ち上がりながら言う。
「ようこそ、『監獄島』へ。そして、懺悔というなの非道の世界へようこそ」




