第34話
ご意見、ご感想お待ちしていますm(_ _)m
―4:18―
地下下水処理場。
「如月先生…貴方の命、僕が頂きます」
槍が奏の首目掛けて振り降ろされた。
奏は眼をゆっくり瞑る。
これで、貴方のところに行けます。母さん…
奏が眼を瞑り母に会おうとしていた。が、心と記憶からある少女の声が聞こえた。
///お姉ちゃん!!
奏が眼を開く。と、同時に短槍の刃が奏を切る。
「ひび…き…」ボソ。
パサッ……
「……えっ……?」
そう、秋真は確かに切った…。
奏の長い黒紅の髪を。
「これで『ネイティブ・ペヨーテ』の『如月 奏』は死にました」
「ひがし、や…ま?」
奏は涙が溜まった瞳を秋真に向ける。秋真はまた片膝を付き奏に目線を合わせる。そして、微笑んで言う。
「よくある、殺そうとして殺さない、ドラマ的感動イベントですよ」
「な、な…にを言っ…て、ヒクッ」
奏はまた俯いてしまう。肩は震えていて、見えない顔からは涙が地面に丸い染みを付けていた。
秋真は泣いている奏の頬に火傷した手を添えて顔を自分に向けさせる。
「如月先生…」
「!ひがしや…ま、お前…手が……」
奏は添えられた手に両手を添えて目を瞑りまた泣きながら呟く。
「私は最低だ…。妹を奴等の道具にしないために今まで頑張ってきたのに結局、妹を奴等の手に落としてしまった…。それだけでなく、教え子に傷をつけて殺してくれとその生徒に願った…本当に笑えるくらいに最低だな私は…」
奏が歯を食いしばりながらまた涙を流す。
しかし今度は、その涙が地面に落ちることはなかった。
秋真が掬ったからだ。
「先生の涙は暖かいですね…」
秋真がボソボソと言う。
「え?」
奏が秋真を見て首を傾げる。
秋真は添えていた手を離す。
「何でもありません。それより、僕はこれから如月さんを止めに行きます。状況によっては殺す場合が出てきます」
「!!」
秋真は真面目な顔になり奏の目を見て言った。そしてそのまま立ち上がる。
奏は驚いた顔になる。
しかし、状況を理解していた奏は目をつぶってまた俯いた。
「私も状況は理解している。だけど響は救いたい。どうしよもないからこそ、死にたかったんだ…。なのにお前は私ではなく『組織の私だけ』を殺した。
あの時、私は妹の声と幼いあの子の笑顔が蘇って初めて死ぬ事が怖くなった…。そして今、生きていることに安心している…。私にとって響が何なのか、母さんが言っていた名前の由来も思い出した。思い出したからこそ私は響を…」
奏は目を開けると拳を強く握って奏も立ち上がり秋真を真っ直ぐ見つめた。
「私はまだ死にたくない。そして、響も死なせない。私は既にテロ組織の一員というレッテルが貼られている。だけど、響はまだ間に合う。だから秋真、私はお前と取り引きをしたい。響を救うために」
秋真は奏を見て口元を少しあげる。
「話を聞きましょう」
「ありがとう」
奏は微笑んで礼を言う。そしてそのまま要求を提示した。
「私からの要求は二つ。如月 響を確実に救って欲しいことと罪歴を無しにして欲しい。それだけた。そして私がお前に取り引きとして出すのはこの命、体、私全てを差し出す。それでも足りないならお金で頼む…」
「要求はわかりました。ですが、僕が受け取る、取り引き材料ですが、先ほどのセリフと矛盾がありますよ。命を差し出すということは、仮に僕が先生の命を自由に使えるとします。そうなれば、すぐ殺すかも知れないんですよ?はたまた、『ネイティブ・ペヨーテ』の囮にするかもしれないんですよ?」
奏は微笑む。
「お前はそんな事しないさ。だってお前は私との婚姻届を出したいのだろう?」
秋真は目を見開く。そしてしばらく奏の真っ直ぐな目を見てからそのまま顔を下に向けて肩を震わせる。そして次に笑い出した。
「ふふっ。ははははっ」
「な、なにが可笑しい///」
「そうですね。婚姻届を出しましょうと迫って言っていたのは僕でしたね…。ははっ。まさか、ここで返事が貰えるなんて思っても見ませんでしたよ」
「///わ、悪かったな!これでもお前からそんな事、言われた時かなり動揺したんだぞ!///」
「ふふっ。わかりました。いいでしょう、取り引き成立です」
そして、秋真は後ろを向いて一言。
「先生はもう僕のモノです。勝手に死ぬ事は許しません。死ぬ時は僕の判断で殺します。いいですね」
「わかった。私はお前のモノだ。東山…いや、秋真」
「秋真…か…。では、僕も奏さんとこれからは言いましょう。」
「///奏さんか…何か…お前に言われるとむずかゆいな」
「何度でも連呼しますよ奏さん。奏さん。奏さん」
「な///やめろ!連呼するな///恥ずかしい!」
と、言ったところで上から声が響く。
「私の前でイチャイチャしないでくれるかしら?糞ムシとビルの上から見ていた女」
「!!」
「!!」
秋真と奏が上を見る。そこには羽が生えた人物とそれにお姫様抱っこされている人物がいた。そして、その人物達は秋真と奏の前でゆっくりと降下してきた。降下するにつれて二人の人物の顔が明るくなり始めた地上の光ではっきりとわかった。
一人は秋真と同じ『霊能力者』、北川 冬花。そして、もう一人は…。
「冬花…なぜ、貴方がこk…!!」
「!!な?!お前は!!」
「それはこっちのセリフよ!依頼人からの要請を処理していたらここに辿りついたのよ」
「よう、アキ。昨日振りだな」
そこにいたのはジーパンと半袖のパーカーを着ている秋真の友人、睦月 蓮だった。
秋真と奏は目を開いて固まっていた。
冬花を降ろすと抱っこしていた蓮は羽を体の中にしまった。
秋真は固まった状態から眉間にシワを作り、冬花を睨んだ。
「彼は私の所のアルバイトよ。それより、糞ムシと私の所の部下が知り合いだったとはね」
「まさか、社長が言ってた同業者がお前の事だったとは…」
秋真は『桔梗眼』で蓮を見る。
秋真は『桔梗眼』で蓮を見た後、冬花に聞く。
「なぜ、蓮くんから微弱ながら『妖力』がでているんですか?」
「それは彼が眷属だからよ。あの羽根を見たでしょ?」
「吸血鬼ですか…。と、いう事はどういう流れかは知りませんが蓮くんは一度死んだと」
「そうよ、死んだわ。私の目の前で……」
冬花は悔しいそうに眼を逸らす。
「社長…あれは俺が原因です。だから、社長は気にしないで下さい。ニコッ。」
蓮は輝く歯を出しながら言った。
冬花はそんな顔を見せてくれる部下に優しく微笑む。
「ありがとう」
「ほーほー。あの冬花が『ありがとう』…まさか、優夜さんとはるk…」ベキッ。
「黙りなさい、糞ムシ。次は下の貴方を潰すわよ?」
「しゃ、社長、既にノックアウトですよ!アキ!大丈夫か!」
蓮が蹴り倒された秋真に手を伸ばす。
「あ、相変わらずの容赦のない蹴り…。もう少しで昇天しそでした…」
秋真は蓮の出された手を取り立ち上がる。そして、数少ない友人に気遣う。
「蓮くん、いつ眷属になったんですか?」
「ん?ああ、ちょうど、お前が二週間休んでいなかった間にな…。アルバイト中のミスでやらかした」キラッ
蓮は自分が半妖もどきになったにも関わらず彼特有の輝く歯が笑顔を見せた。
秋真も蓮も大切な存在ゆえ、助けたいと思った。しかし、本人がそれを望んでいないことは彼との学園の時間が教えてくれる。
だから、秋真はあえてふざける。
「半妖もどきになってもその歯は相変わらずウザいですね」
「黙れ!変態ナルシスト!」
二人がいがみ合っているのを二人の女性はそれぞれの思いで見つめていた。
さすが秋真ね…。私にできない事を簡単にやってしまう。私は半妖もどきになった彼を避けてしまったから…。
睦月なぜ?あいつがここに?!それにこの女性…。ひがし…秋真と同じ『霊能力者』、北川 冬花…。あまり会いたくなかったな…。
冬花は奏をチラッと見て口を開く。
「先ほどぶりね」
「私の方が歳上なんだが?」
「ごめんなさい。私、もともとこういう感じなの。兄から聞いてないのかしら?」
「優夜か…あいつは雫にアタックすることで忙しかったよ」
「チッ。あのたれパンダ…私のお兄ちゃんを…」ボソボソ。
「聞こえているからな。北川 冬花」
「あら、失礼。それよりも糞ムシ」
冬花は秋真を呼ぶ。
「なんですか?ついに告白でs」バキッ。
「ア、アキ?!」
秋真は殴られた。冬花…いや、違う。彼女は変態をあまり触りたくないから足を使う。
では誰か…。
「ひが…秋真、すまない。なんか、殴りたくなった」
奏は手をグー、パー、グー、パーしながら言った。
冬花はめんどくなり状況説明を始める。
「はぁ〜埒が明かないから、進めるわよ。地上では糞ムシの妖怪と本多が雑魚を相手にしているわ。そっちは問題ないのだけれど…」
冬花が下で戦闘しているナーシャ、『♢の''Q''』、『♤の''Q''』を見て言う。
「あれはどういう事?なぜ、またあの子がこんなところにいるの?と、いうより何故、私たちのターゲットと共闘しているのよ」
「な?!あれ、如月さんじゃないか!それになんだ、あの黒い騎士見たいなやつは?」
「いろいろ、こっちにも事情があるんですよ。でも、話はまとまりた。ですのでそっちはそっちの要件。こっちはこっちでこっちの要件を終わらせます」
秋真が冬花を見て言う。冬花も納得のセリフを言う。
「わかったわ」
「と、その前に冬花、すみませんが式神の札を数枚ください。如月さんを動揺させますので。あと蓮くんすみませんが血を多少下さい」
「まぁ、死ななくなったし、いくらでもやるよ」
「?いいわよ。でも、どう使うつもり?」
「それは……こう使うためです」
◆◆◆
-4:49―
「案外、立ち直るのが早かったですね…」
「ふっ…これでもかなり落ち込んでいる」
大剣が刀から離れる。『♢の''Q''』が震えながら声を漏らす。
「あ、あ…あ、…おね…お…お姉ちゃん…」
『♢の''Q''』に対峙していたのは刀を持ちミディアムヘアになった如月 奏だった。
「実の妹の能力を暴走させて隙を作る。実の姉からしたら最悪だ。しかも、私はすでにお前のモノだ。葛藤が出るのも無理がないと思うが?」
「でも、奏さんは僕に従った」
「言ったろ?私はお前に命、体、私自身を捧げると」
「ええ。でも、さっきの生首作戦は失敗しました…。こうなったら…奏さん?」
秋真が立ち上がり槍を構える。
「わかっている。初めから話で終わるなんて思ってない」
「ふっ。それを聞いて安心しました。……では行きます!!」
対する『♢の''Q''』は硬直していた。
え……?お姉ちゃん?なんで、そんな偽善者なんかに笑顔なんか見せてるの?
ねぇ、なんで?
なんでなの?
秋真と奏が駆け出してくる。
だが、『♢の''Q''』は大剣を無意識で動かして防いでいた。
なんで、あたしにはそんな笑顔見せてくれないの?
……
……
……
もう…無理…
…なんで…お前は…あたしを傷つける?…突き放すならなんで優しいくしたの?
……もう、無理…やだ…
あたしは…壊れる…
いやだ…自分が壊れるくらいなら………
『♢の''Q''』は口元を歪に上げた。
「?!」
「!!」
「……逆にあたしが全てを壊す……」
と、『♢の''Q''』が言った瞬間、『♢の''Q''』の頭の中で機械的な声が響く。
ー音声、感情、波長データ、シンクロ。認証データ、確認……承認。擬似ゴッドシステム起動…武器を構成中…武器を構成中…構成分質摘出…構成分質…水を媒体に『トライデント』作製開始ー
頭の中で響く声とともに『♢の''Q''』の目の前には空気中の水がものすごい速さで収縮し始めていた。
「くっ!な、なんですか!いきなり空気中の水分が…」
「響!!」
「ボ、ボスこれは?!」
「ちょっと、糞ムシ。何をやらかしたの?!」
「アキ!如月さん、どうしたんだ?!」
地下にいた全員、『♢の''Q''』の変化に気づき、集まる。
しかし、ただ一人『♤の''Q''』は最初にいた高台のところに移動して笑っていた。
「そういうことか。『死神』が欲しかったのはこっちの如月 響だったのね…。私の仕事はここまでね…後は任せます。我が''K''…」
ー作製完了。擬似『トライデント』、所有者、ベンテシキュメ…
「あたしが全て壊す…あたしが…」
『♢の''Q''』は目の前に現れた三叉の戟を掴み取った。
     
かなり、話が急展開しています。
次話もかなりぶっ飛んでいます。
最近、書いていて如月 響が可哀想に思えてなりません(涙)
自分で書いてるのに…
 




