第21話
ジョエルが赴任して来てニ週間がたち、月は6月に入った。季節は相変わらず暑く、気温も30℃を超える日が続いた。どうやらJAPAN特有の"梅雨"はまだ来ないらしい。
だがそんな暑い日の中、赴任したジョエルの授業は人気があり、担当を任されている1〜3年のAクラスには絶大な信頼が成されていた。さらに、ジョエルの担当教科が時間割に入っているクラスからも相談や授業が解りやすいということで人気がある。
大半の生徒はそんなジョエルに全くもって疑いの目を向けない。
だが、大半である。少数はあの笑顔と対応に疑いを持っている。
そして、学園最強のSSサイキッカー、如月 響も少数の一人である。
「チッ…イケすかねぇーな…」
響はα領域:A棟の屋上…秋真を殴り飛ばした場所で寝ていた。
響が寝ている場所には響を覆う様に水で作った、ひと一人が中に入れる透明な水のドームが出来ていた。響によればこれは暑さ対策に生み出した昼寝専用の『超能力』だ、そうだ。
響はこのドームの中で新しく赴任して来た、教師について頭を巡らした。
あの教師…あの女と同じで人を見定めているような目をしやがって…チッ…胸くそ悪りぃー。
今は授業中、屋上には響以外は誰もいない。故に、唐突に聞こえた声に目を見開いた。
「おやおや、サボりの定番の場所で堂々と寝ているとは。しかも能力を使って暑さ対策…。さすがに定番の場所にはいないと思っていましたが…さすが如月 奏さんの妹です。肝が据わっておられる」
「チッ…しつけーつっの」
響は屋上に突然現れた人物、ジョエルに上半身を起こして、呆れた声を出した。そしてすぐに頭に浮かんだ疑問を投げた。
「つーか、あんた今授業中だろうが。授業放ったらかしてんじゃねーよ」
「フフフッ。そのセリフ、そのままお返しいたしますよ。ついでに言いますと、生徒達は問題集をやって貰っているので私が居なくても問題無しです。皆、いい子ばかりですから。というより、問題集をやって貰っているから問題無しって、なかなか素晴らしいダジャレが出来ましたね!」
「うぜぇーよ」
秋真みたいな事、言ってんじゃねぇーよ…。チッ、マジでうぜぇ。
響はジョエルのセリフがどこぞの偽善者と被り、心底嫌な顔をジョエルに向けた。
「おやおや、随分と嫌われていますね。私、何かしましたでしょうか?」
「別に…」
ジョエルは頭に疑問符を浮かべながら、響に問おた。が、響は顔を逸らし、ドームの中から透けて見える工事中の演習場を見た。
ジョエルも釣られて見ているフリする。
ジョエルの頭の中では『組織』をもっと強化するためにどうやってこの少女を引き入れるか、考えていた。
さて、彼女を我々の『組織』に引き入れたら大きな飛躍になり、活動もより大胆にできるでしょう。どうやって引き入れものか…。
ジョエルは無駄に頭を働かしたが、やり方は決まっていた。それは、
脅しだ。
彼女、響の弱点である者の名前を出して揺さぶれば、動作もない事。
ではその脅しは何であり、弱点は誰なのか?
決まっている。
相手にとっての弱点。
それは姉である奏だ。
姉である奏が響を守るために『組織』に身を落としている。ならば、妹である響は奏を『組織』から解放させるために『組織』に入れる。
互いが互いを守るために自分を犠牲にする。まさに『姉妹愛』という奴だ。
まさに滑稽の極み。または、王道的で呆れる。故に操りやすい。
「響さん、一つ面白いお話をいたしましょう」
「あ?」
響は眉を寄せ、ジョエルに顔を向ける。ジョエルはより一層微笑みを増した。
「ある、『裏切りの騎士』のとても愉快で滑稽な話です」
◆◆◆
「おい、アキ知ってたか?昔のトランプのJからKまでのカードのモデルって歴史上の人物らしいぜ」
睦月 蓮が放課後のEクラスで秋真に雑誌を見せながら話ていた。今日は蓮に群がる女子達は蓮に優しく拒絶されて渋々帰って行った。
教室に残っているのはお互いバイトの時間まで暇をしている、秋真と蓮だけだった。
「フッ。僕に知らない事なんて一つもありませんよ。ですがまぁ、歯が輝くクソイケメンが説明したいと言うなら聞いてやらなくもないですが」
「あーヤバ。俺、最近出番少ないからスポット浴びるためにどこぞの変態ナルシストの秘蔵コレクションバラしそうだわ〜。確か、働くお姉さんシリーズと顔面ぶっK…「すみません。調子に乗りました。トランプのことなんて全然知りません。なんか、負けた様な気がしたので知ったかブリました!」
秋真が目にも止まらぬ早さで…というより、蓮がまばたきをしただけでそこには見事な、おでこを付けた土下座が出来ていた。
蓮は思った。
ヤバイ。親友をいじめるの楽しい。これなら出番少なくていいかも。
「というわけで、俺の作品を見たい方は三島先輩のお話が完結した後に乞うご期待‼」
「蓮くん、何ちゃっかり自分のSTORYのフラグ立ててるんですか!」
「え?!ダメ?」
「ダメに決まっているでしょーが‼僕の存在感がなくなりますから‼ただでさえ、この作品の主人公なのにやっと21話で登場ですよ?!皆に僕のイケメンFace忘れられたらどうするんですか?!てか、僕だってトランプのモデル一人は知ってますよ!」
「さすが、変態ナルシスト。てか、無理やり話戻しやがったし」
蓮が嫌な顔で秋真を見てつぶやいた。そして、そのまま蓮は質問を出す。
「ちなみに誰だよ」
秋真はやっと余裕な顔をして蓮を見下すために自分の椅子の上に立ち、しゃべる。
「フッ。♧の"J"ですよ」
「うわっ!地味!普通、"K"とかだろ」
「フッ。僕は知っている中であえて地味な物を選んだだけですよ。そうしないと、出番が少ない蓮くんに申し訳ないですからね」ニヤッ。
「ウザッ!てかお前、さっき一人しか知らないって言ってただろうが!」
「ちなみに"J"のモデルはブリテンの『裏切りの騎士』、ランスロットですよ」
「スルーかよ‼俺から話題振ったんだから知ってるわ‼てか、なんだよ!その"仕方が無いからそういう事にしといてやる"見たいな勝ち誇った顔は!」
「実際、勝ってますから。顔もね‼」
「だまれ!顔が良くても彼女いねぇーじゃ、ねーかよ」
「蓮くん、男は現実よりも妄想を見るものですよ」
「妄想とかいて、りそうを唱えるな‼」
「あっ、すみません。僕、もうバイトの時間なのでこれで。お話はまた後日」
そう言うと秋真はカバンを持ってEクラスから出て行った。
「な?!勝手に帰ってんじゃねぇー‼‼」
蓮の叫びだけが、学園に響いた。
◆◆◆
「隠れるつもり無しですか…」
―PM11:30―米日中央都市、赤い月が半月で地上を見下している中、秋真は黒ローブを頭から被った者に殺意を向けられていた。右手には細長い物が持たれている。
「やれやれ…何故、僕の周りにはツンデレしかいないんですかね〜。というより目の前の方は殺意を向けて来ている限りだとヤンデレ?ですかね〜」
「………」
黒ローブが右手に持っている鞘から刀身を出した。刀は赤い月が反射して妖々に輝いた。
秋真はそんな刀に臆することなく、質問を続けた。
「ねぇ〜どうなんですか?」
「………」
黒ローブはゆっくりと秋真に向かって歩き出す。だが、秋真の次の言葉に足を止めさせれた。
「質問に答えてくださいよ、『裏切りの騎士』さん。というより『如月』先生」
第18話の
『♧《クローバー》の"Jジャック"』→『♧の"Jジャック"』
に直しました。
大変、申し訳ありませんでした。m(_ _)m




