第17話
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「………あ、姉貴…」
「はっ!」
奏は妹である響の声で我に返った。
「す、すまない…いきなり怒鳴ってしまって…」
「いやいや、こっちも冗談が過ぎました。すみません」
秋真は素直に頭を下げた。いつもは何かしら誤魔化す秋真である。これはなかなかに珍しく真剣さを帯びていることが分かる。理由は二つある。一つは教師であり、金剛力女と恐れられて、いつも冷静な判断を下す奏が今回は秋真に対して鉄槌ではなく驚愕の顔と悲痛の叫びをあげたこと。二つ目は殺意。これが秋真には背筋が凍るほどに伝わった。
「あ、姉貴、こいつの言っていることはデタラメだ。だ、だから、き、気にしないでくれ」
「そうか…わかった…。私も迷惑をかけたな、すまない…響」
「い、いや別に謝らなくても…」
「そ、そうか…。すまない」
「だから…」
「あ、…その…」
奏は顔を背ける。響は一瞬、目を見開いた後、顔を背けて唇を噛み締めた。
姉貴、なんで顔背けるんだよ…。そこまであたしのこと…
「……」
「……」
無言だけが残る。
おかしい。
近くでこの姉妹の話を聞いていた秋真は率直にそう思った。響は姉の為に秋真を殺そうとしたぐらいだ。もっと、ベッタリしているものだと秋真は思っていた。だからこそ、このKYナルシストは軽率なことを喋り始める。
「あの〜姉妹で喧嘩でもしてるんですか?」
「?!」
「‼…な、!て、テメェー‼」
「へ?」
響はいきなり秋真の胸ぐらを掴む。そして、秋真に目で言葉を伝えようとガン見した。ンなわけねぇーだろ‼空気、読め!と。
だが、この変態ナルシストは勘違いを180度回って解釈するバカである。結果は見えている。
「おやおや、そんなに目に力を入れなくてもわかってますよ…キスですよね‼見せつけるためですよね!」キラーン!
「こっの!…」
「きゃ‼」
響は顔を引きつりながら拳を作り、振り落とそうとした。秋真は目を瞑り女みたいな悲鳴を上げると顔を反らした。だが、視界の端で奏が何か喋ってるのに気づき響は拳を止める。
「お前達…な…が、…な」
声が小さかったので響は姉の言葉を拾うことができなかった。
「姉貴…?」
「!…す、すまない。じゃ、じゃあ邪魔者はここで失礼するよ。2人とも次の授業、遅れるなよ…」
「あ‼姉貴!」
「……」
そう言うと奏では振り返ることなく屋上を去って行った。去って行く奏の手には弁当箱らしきものが持たれていた。
しばらくして奏が去って行ったトビラを見ながら響は呟く。
「姉貴…ここで昼食取ろうとしたのかな…」
「かもしれないですね」
「………」
響は顔を俯く。秋真はそんな響に一言、疑問投げる。
「如月さん、一ついいですか?」
「ん?なんだよ」
明らかに元気がない。だが、秋真は続ける。しかし秋真の顔にふざけた様子はない。
「真面目に訪ねます。…喧嘩でもしてるんですか?」
「………」
しばらくの無言。
秋真は響から目を離さなかった。
「………ふっー…」
しばらく経って響は息を吐く。そして、自分から目を離さない秋真を見て覚悟を決める。
こいつなら…また、あたしを助けてくれる…だから…
「実はあたしと姉貴って血繋がってないんだ…」
「………」
無言。
「だからなのかな…。小さい時はそんな事実知らなかったからあたしは強くてかっこよかった姉貴に甘えてばっかりだった。この髪だって姉貴とは違うのに褒めてくれた。〈響の髪はこの世界から消えた星みたいな色をしてる〉って、あたしは姉貴に褒めてもらうまではこの髪の色が嫌いだった。なんで、憧れの姉貴と違うんだろうって…」
「………」
無言。
「だけど、姉貴は褒めてくれたんだ。だから、あたしは当時、Bランクだった姉貴に追いつくために必死で自分の『超能力』を磨いた。そして、あたしは磨きに磨き過ぎてしまった。結果、あたしはSSサイキッカーになり、姉貴はAランクで上がることはなかった。それでも、姉貴は妬むわけでもなく、あたしの背を押してくれたんだ」
「…………」
無言。
「だけど数日後、姉貴はあたしに対してどこか、一歩引いた感じになった。前は毎日、家に帰ってきたのに今では帰ってこない日まである」
「………」
秋真は片目で響を見る。無言。
響は不意に自分を抱きしめる。寒くもないのにその手は震えている。
「あたしは怖いんだ…。あ、姉貴があたしを見捨てることが…、あたしに対して無関心になることが…」
響は足に力が入らないのか、その場で膝を折った。声も震えている。
そんな響を秋真はただ、立ったまま見るだけである。
「だ、だから、秋真…」
響は涙を目元に貯め、秋真に訴えかける。
「助けて…」グスン、グスン
「………」
秋真は膝を折り、震える響の肩に手を置く。そして、響を安心させる為に笑顔を作る。そして、響が期待の眼を秋真に向けると、秋真は笑顔で応える。
「それ、僕に関係ありますか?」
「え……」
響は自分の前にいる男が何を言っているのか、わからなかった。
「ですから、如月さんと先生の問題に僕は関係ありますか?無いですよね。だったら巻き込まないでください。はっきりとは言いませんが迷惑です。もしかして前回のことでまた、助けてくれると思ってました?すみませんが、あれはイレギュラーであり、『霊力』を使った僕が悪かったので助けただけですよ」
響は思ってしまった。"こいつはなぜ、笑顔でそんなことが言える。ここは流れ的に助ける盤面だろう"と。
「え?…お前…何を言っ…?!」
だが、響にそれを口にすることは出来なかった。何故なら目の前の男の笑顔は前に見た作り物の仮面なのだ。
気味が悪い。
頭の中でいろいろ考える中で一番に頭に浮かんだセリフがこれだ。だが、響は声を出す。
「じゃ、じゃあ…あたしに『霊能力者』について…教えてくれたのは?」
響は自分の仮説と目の前の男の発言が違うことを強く願った。
しかし…
「あ〜あぁ。あれは如月さんが『妖怪』を認識できていたので『霊能力者』の義務として教えただけですよ。まぁ、今は義務なんて、やってませんがね」
仮説とは違う。響は確かに違うことに少しほっとした。だが、同時に理解もした。
目の前の男は偽善で自分を助けたのだ。ただ迷惑をかけたからだという理由だけでついでに助けたに過ぎなかったのだ。
変態でもナルシストでもなかったこいつは腐りきった偽善者で自己中野郎だったのだ。
「グッ……」
いきなり目の前の偽善者が後方に吹き飛んだ。
いや、
違う。
殴り飛ばしたのだ。
響は気づいた時には右拳が前に出ていた。
なぜ、拳が出たのかわからなかった。
そして、しばらく偽善者を見ていると、答えが導き出された。
"そうか…あたしはこいつに失望したんだ。だったら…"
響の瞳にはもう涙は消されていた。
「悪りぃーな。邪魔して。じゃあな、偽善者」
「………」
響は無表情でそう告げると屋上を後にした。
◆◆◆
午後12時43分ーα領域:学園校舎A棟の一階廊下
私はあの子にとって、目障りなのだろうか…。
黒髪ストレートロングの教師、如月 奏は先ほど見た屋上での事を思い出していた。
エスカレーターですれ違う生徒達が挨拶をするも、奏は下を向いて聞こえていない。思考が先ほどの秋真と響の事で埋め尽くされており、対処させないのだ。
響があんな顔するとは…。ふっ…私には見せない顔だな…。そこまであいつを信頼しているのか…。
私は邪魔者だな…。
奏の目には光がない。奏は自然と窓の外を見る。外には昼食を終え、園内に入ってくる生徒達が疎らに見える。
そして気づく。
視線を窓に変えるとそこには光の反射で見える、自分の疲れきった顔が写し出されていた。
ひどい顔だな…。響に引かれるのも、無理ないな……
……
……
でも、私がどんなに愛する妹に嫌われ、虐げられ、引かれてもあの子だけは絶対に守る!
『あいつら』の実験道具になんかさせない‼そしていつか、必ず…
奏を写し出していた、窓には今はもう疲れきった顔した自分はいない。変わりに写し出された自分を睨む自分がいた。そして、奏は静かに睨む意味を口にする。
「殺してやる」
奏が窓から視線を外しエスカレーターから降りると、同時に五時限目の予鈴が鳴った。




