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異奴―イド―  作者: 那言
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2.腹が減ったら労働


--------------------



小銭小銭小銭……。


空腹を我慢しながら目を皿のようにして硬貨が地面に落ちていないか確かめる。


俺は屋台が多く並ぶ通り、通称《飯屋通り》に来ていた。


何故ここにしたかといえば、多くの人の財布の紐が緩くなるここならば小銭が落ちている可能性が高いと思ったからだ。


しかしそれはある意味失敗だった。


屋台から漂ってくるのは、肉や魚の焼ける香ばしい匂い、お菓子や果物の甘い匂い、食欲を促すタレの匂いエトセトラ、エトセトラ……。


つまりはますます腹が減ったということだった。


この場所に来てしまうと安いパンでは量でも質でも満足することが出来ないだろう。


肉が食いたい。豪快に焼かれた肉が食いたい。タレで味付けされた串焼き肉が食いたい。


串焼き肉は一本20G。


俺の所持金は2G。


買えるかぁッ!

十倍だぞ十倍!ふざけんなッ!


……いや待て落ち着け俺、興奮すると腹が減る。


そうだ、まだ買えないと決まったわけじゃない。10G硬貨を二つ見つければいいだけの話だ。


ほら見ろ、あそこにタイミング良く二枚落ちてる銅色の貨幣は10G硬貨じゃないか――?


「あ、銅貨だ。ラッキー。おじさん串もう一本ちょうだい」


「おう、ちょっと待っててな」


俺が10G硬貨に向かって駆け出し手を伸ばしてあと少しだというところで俺よりも少し小さい子供がその硬貨を二枚とも拾い上げ串焼き肉を購入した。


クソが! テメェみたいなガキが串焼き肉だなんて十年早いわ!


……なんてことが言えるはずもなく、俺は悔しさに歯を食いしばり子供に恨みがましい視線を向けてからその場を去った。


それからしばらくして1G硬貨を見つけた俺はパン屋に行き一番安いパンである《まるパン》をひとつ買って食べた。


カビたパンよりかは美味かったが身も心も満たされなかった。



これではダメだ。

こんな生活では栄養失調になるか食中毒になってすぐに死んでしまう。


かと言って犯罪行為に手を染めるのもダメだ。


一般の人に迷惑がかかるだろうし失敗したら大変な目に遭うだろう。下手すれば殺されるかもしれない。


じゃあどうすればいいかといえば、働くしかない。


しかしレイノルドはまだ10歳の子供だ。スラム暮らしの子供に出来ることなんて高が知れている。


……いや、待てよ。


レイノルドは今でこそ乞食をやっているが元々は貴族だ。


それでいて趣味は読書ときた。

つまりはそれなりに文字が読めるということだ。


それに加えて俺には前世で培った計算能力がある。


この国の識字率がどうなのかは知らないが、中世ヨーロッパの識字率は低かったはずだ。


町並みが中世ヨーロッパに似ているこの国も識字率が低い可能性は高い。


ということは計算と識字が出来れば食い扶持に困らないのではないだろうか。


さらには前世での知識もなんらかの役に立つかもしれない。


そうと決まればさっそく自分を売り込みに行こう。


と、その前に身体を洗っておかなくては。汚らしい外見のせいで門前払いされるなんてのは御免こうむりたい。




「あー、あなた、スラムの子でしょう? ごめんねぇ、スラムの人は雇っちゃいけないって店長に言われてるの。前に雇ったスラムの人が売り物を勝手に持ち出してねぇ」



「字が読めるぅ? あっはっはっは、そりゃあスラムじゃ字が読める人は珍しいかもねぇ。でも僕ら商人にとっては字が読めて当たり前。どうせ字が読めるならもっとまともな人を雇うよ。つまりは君を雇うつもりはない。わかったらお帰り願うよ。出口は入ったところね」



「ほう、計算が得意と。じゃあ57を63に掛けるとどうなる? ……おお、すごいな。正解だ。でも悪いけどうちじゃ雇えないよ。昔に雇ったスラムの人に帳簿を誤魔化されたことがあってね。以来スラム出身の人は雇わない方針なんだ。すまんね」



「何だ、雇ってほしいのか。あんたみたいな可愛らしいお嬢ちゃんなら大歓迎だぜ。え? 男? 俺は男でもあんたみたいに可愛かったらぜんぜん大丈夫だぜ。あ、おいどこ行くんだよ」


「悪いけど子供は募集してないな。そうだ、代わりにあめちゃんをやろう。ミルク味だ」


・・・・・・


・・・・


・・・


・・



甘かった。


結果は惨敗。表通りではほとんどの店に断られた。


この国の識字率はなかなかのものだった。なので字が読めても大したアドバンテージにはならない。


そして計算能力だが、帳簿やらなんやらを扱うにはスラムの孤児では信用がないとのこと。


まあそりゃそうだ。まともな商売をしている人にとって、犯罪で生計を立ててるスラムの連中を雇うのは相当なリスクだ。雇いたくなくて当然。


飴玉を舐めつつ裏通りを行く。


表がダメなら裏だ。隠れた名店とかがあるかも知れない。


ぱっと目に付いたのは酒場、娼館、連れ込み宿。やはり裏通りはそんな店ばかりだ。とてもじゃないが10歳の子供が働く店ではない。


めげずにしばらく歩いていると、新しく看板を見つけた。看板にはデフォルメされた目玉を中心に据えた六芒星のマーク。


元貴族のおぼっちゃまであるレイノルドは世間知らずだったが読書好きだったので《魔法屋》という魔法に関するものや魔法そのものを売る店があるという情報は知っていた。


まあそれほどまでに魔法が生活に浸透していたということなのだが。


前世の記憶では六芒星というのは魔法や魔術の象徴だった。恐らくはこの店が魔法屋だろう。


魔法か。前世ではそんなものはなかったな。


魔術書を買ってきて黒魔術を試してみた俺が言うんだから間違いない。10万もしたのにな、あの本。


売ったやつに文句を言ったら「魔力がないところでは発動しませんー」だとさ。魔力があるところってどこだよ。あ、この世界か。


まあ中身はそれっぽかったので愛読書と言えるほどに繰り返し読んだのだが。


しかしそんな魔法が今や手の届く場所にある。


意を決した俺は魔法屋の扉に手を伸ばした。

感想やアドバイスなどお待ちしています。

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