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異奴―イド―  作者: 那言
1/6

1.思い出したら異世界

初投稿です。


--------------------



全身を襲う痛みの中、俺の意識は覚醒した。


体が痛い。

そしてそれ以上に頭が痛い。


何が起こっているのかわからないので身体を無理矢理起こして状況を確認する。


まず手を見る。

洗っていないのか、薄汚れている。それに記憶の中にある自分のものより小さい。


次に服装。

現実世界では見たことがないような、薄汚れた灰色の襤褸切れを羽織っていた。そしてその下には同じく薄汚れたシャツとズボン。体も記憶の中にあるものより小さい。


周りを見渡す。

くすんだ灰色の街並み。石材で作られた家々。半ば崩壊しかけているものもある。地面も同じく石畳。路上には俺と同じく薄汚れた格好をした人が座っていたり寝転がっていたり……。そして誰もが皆生気のない顔をしていた。


何故俺はこんな格好をしている?


そしてここはどこだ?


疑問を浮かべると同時にその答えが浮かび上がってきた。


スポンジがじわじわと水を吸い上げるようにして記憶がよみがえってくる。



俺の名前はレイノルド。レイノルド=クランディアだ。


性別は男で、年齢は10歳。趣味は読書。 


元貴族のおぼっちゃまで、今はスラム街の住人。没落貴族ってレベルじゃねえ。落ちぶれるにもほどがある。


親はいない。というか死んだ。


ひと月ほど前のある日、屋敷に賊が侵入し、レイノルドの両親はレイノルドを逃がすために賊の足止めをして殺された。


そして命からがら逃げ出したレイノルドは頼る人もなく帰る場所もなくこの街にたどり着き、さまよっているうちにスラム堕ちしたというわけだ。


スラムの子供が生きていくのは難しい。


故にたいていの場合はスリや窃盗などの犯罪で生計を立てている。

それはレイノルドの場合も同じだった。


俺の全身が痛いのもそれのせいだ。


レイノルドはスリに失敗して財布の持ち主にぼこぼこにされた。情けない奴だな、レイノルド。貴族の誇りはどこへ行った。


俺が何故『俺』と『レイノルド』を使い分けているかと言うと今の俺はレイノルドであってレイノルドじゃないからだ。


というのは、今の俺には『前世』の記憶があり、その記憶を基に人格が再構成され、もはや以前の『レイノルド』とは別人格といってもいいものになったというわけである。


前世って何?

頭おかしいの?

ああ、俺だってそう思う。でも現実なんだから仕方ない。


ぼこぼこにされた際のダメージからか、はたまたスラムに投げ出された衝撃によるものか、それともそれらとは違う他の何らかな現象によるものかは分からないけれど、そのとき(つまりはつい先ほど)前世の記憶が蘇った。それでそのときにレイノルドとしての意識は消し飛んだ。


恐らくは記憶が蘇ったときに前世の記憶のほうが濃かったことと、スラムでの生活がレイノルドの精神を苛み圧迫していたことがレイノルドの意識が消し飛んだ原因だと予想される。頭が痛いのもそれが関係してそうだ。


ちなみにその前世で俺は宇津木邦孝という名前の男だった。今となってはもはや何の意味も持たない名前である。


頭痛と体の痛みを堪えて俺は歩き出す。


腹が減った。

何をするにしてもまずは腹ごしらえだ。何か腹に入れないことには力が出ない。


レイノルドにはここしばらくまともなものを食べた記憶がない。


昨日食べたものは店屋裏のゴミ箱に入っていた残飯に道端で拾ったカビが生えたパン。腹を壊したらどうするんだレイノルド。まあそれだけ生活が困窮しているということなんだが。


ズボンのポケットに手を突っ込み持ち物を確認。一番価値の低い貨幣――1Gの硬貨が二枚出てきた。つまり所持金は2G。一番安いパンで一個3Gだ。つまりは何も買えないということだった。しかしあと1Gあればパンが買える。というわけで俺は小銭を探すことにした。


スラム街から大通りへと出る。


人人人、人の群れ。


そしてその人の群れは前世の記憶にあったそれと比較するととても異質なものだった。


鎧を着込んだ大男、ローブに身を包んだ魔術士、獣のような耳を生やした獣人の女、使い魔を連れた少年、軽鎧を装備した女戦士、でっぷりと肥えた商人の男、荷台を引く見たことのない獣など、大通りは多様な人種と雑多な人々であふれかえっていた。


この世界では珍しくない、大きな都市であればどこであっても見られる光景。


そう、俺が転生してきたこの世界は、剣と魔法が蔓延るファンタジーな世界だった。



感想やアドバイスなどお待ちしています。


8/21 一部修正。

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