プロのリングで
今、ボクシングのリングに二人の青年が立っている。
赤コーナーは空知楓。
青コーナーは海野昴。
この二人は運命によってこのリングに導かれた因縁の二人である。
二人の出会いは今から一年前。
いつものようにロードワークを行っている最中の楓。
人気の無い所で見慣れない制服の三人が一人の女の子に絡らんでいるのを見つけた楓。
正義感が強く、ボクシングをやっていて腕に自信ある楓は、つい飛び出して叫んでしまった。
「おいお前ら!なにやってんだ!!その子から離れろ!」
そう言った楓に一人の男が言った。
「おいおい勘弁してくれよ。こいつが俺の制服にアイスクリームつけてくれてよ?せっかくの修学旅行だってのによ」
「だからさっきから謝ってるじゃないですか」
そう言う女の子に三人組は納得がいかないようで叫ぶ。
「はぁ?ふざけるんじゃねェ!!さっきも言ったがこっちは修学旅行できてんだよ!せっかくの気分台無しにしてくれてよ!」
叫んだあとに近くに在ったポリバケツを蹴飛ばす。
「そんなことで男がクドクド言うんじゃねェ!!」
楓はキレていた。楓の家族は武道一家でそういうことは許さないのだ。
「うるせぇよ!!てめーはさっきからぁ!!」
逆上して殴りかかった一人の男を楓は赤子の手をひねる如く、左手のパンチで相手の動きを止めると同時に、右手のストレートパンチが相手のあごを貫く。
男はドラマでも見れないような倒れ方をした。
「おい、やばいんじゃねェのか?勝てるわけねーよ」
二人の男は弱気になる。
しかし、後ろから現れた男を見た二人は急に強気になった。
「てめーもここまでだぜ。よくもやってくれたな」
後ろから出てきた男は楓と同じぐらいの体つきをしていた。
その顔とかもしだすオーラのようなものは百戦錬磨を物語っていた。
「昴君!助けてくれよ!あいつがいきなりかかってきたんだ」
男が言うと、昴と呼ばれた男は言った。
「ウチの奴をやってくれるって事は俺に喧嘩を売るって事と同じなんだ。覚悟してもらうぞ?」
「昴君俺達も協力するよ!あいつボクシングを使うみたいなんだ!」
そう言う男に昴はフッと鼻で笑った。
「俺が負けると思うか?対マンでいい」
「ほう?相当自信があるようだな」
そう言う強気の昴にまた、強気の楓。
その時昴は異常な速さの踏み込みで楓に近ずき、右ストレートパンチを放つ。
そのパンチは空を切る、いや、楓が避けるがその音は異常な風切り音であった。
「良く避けたな?俺のパンチを避けた奴は初めてだ」
「そうか?ハエが止まるぜ」
そう言った楓に昴は拳を下げた。
「お前、何級で何年だ?」と言う昴。
「ライト級。来年高一」返す楓。
「そうか、全国のリングで待つぜ。ライト級のな。俺の名前は海野昴!高校は推薦で喜多山高校」
「海野昴。きたやまか。俺は城南高校!空知楓だ。」
「じょうなんの、空知楓だな」
そう言うと立ち去った。
「ちょっと昴君!まってよ!」
これが二人の出会い。
そして今、リングの上での再会。
かぁん!!ラウンド1の鐘が鳴る。
鐘の瞬間猛攻する昴。必死で避けていく楓。
プロのような攻防となっていた。
アマチュアではポイントを多く取ったほうが勝者である。
現時点ですでに三ポイントリードしている楓。
しかし楓はこの昴パンチを一発でも、あたったら負けだと感じていた。
それほど昴のパンチは磨きがかかっていた。
一発あてたら勝てる。
昴もそれをわかっていた。しかし楓のフットワークも予想以上に早かった。
追いかける昴。逃げる楓。それは最終ラウンドにも連れ込み、その最終ラウンドで事件が起こった。
楓の華麗なフットワークが汗によって滑ったのだ。
その一瞬を昴は見逃さない。
全身から全てを込めたそのパンチが楓の顔面に当たった。
一気に倒れこむ楓。
昴は勝ったと思った。
楓は意識が朦朧とする中、一人の少女がこちらに向かって叫んでいるのが見えた。
あの時、一年前助けた。あの子だった。
楓は自分でも信じられなかった。
あの子の声援で立てたのだ。
立った瞬間。
最終ラウンドは終わった。
勝者は楓であった。
二人ともこの結果に納得していなかった。
「俺が立てたのは奇跡だ。実際なら負けていた」
「俺のパンチはお前が汗で滑ったからあたったラッキーパンチだ」
二人の結論は決まっていた。
―――――――――プロのリングで決着をつけよう―――――――――――――