第8話: 天変地異の実況プレイ
「雷牙・天地崩壊流!」
父が地面を踏み抜くと、大地が津波のように波打ち、地割れからマグマが噴き出した。
父の一撃は、もはや「パンチ」ではない。地形そのものを武器に変える地殻変動だ。
「無駄よ。——『断絶』」
母が指先で円を描くと、迫りくるマグマも、隆起した大地も、父の放った闘気も、すべてが「なかったこと」になって消滅した。
消えたエネルギーの余波が、次元の隙間から強烈な放電となって周囲に降り注ぐ。
バリバリバリバリッ!!
「(あぶぶぶ……っ! 痛い! 痛いって! 巻き添えの電気が高電圧すぎる!)」
俺は背中の青龍を全開にし、自分自身の周囲にバリアを張る。
だが、二人の喧嘩は加速する一方だ。
• 10秒経過: 庭の池が蒸発し、なぜか上空に「魚の雨」が降り始める。
• 30秒経過: 二人の闘気の衝突により、局所的な重力異常が発生。俺の体が宙に浮き、石や木材が螺旋を描いて空へ昇っていく。
• 1分経過: 空間の歪みに耐えきれず、遠くの禁足地で封印されていた古の魔王が「なんかヤバいのがいる!」と叫んで自ら再封印を施した気配がした。
「ガモンさん、動きが鈍いわ! それで猪を食わせるつもり!?」
「レン! お前の魔力こそ、今日はキレが足りんぞ! スープを煮込みすぎたか!」
(……あのさ。会話の内容が低次元なのに、やってることが神話の神々による終末戦争なんだよ。誰か止めてくれ。このままだと俺の家、更地どころか異次元に飛ばされるぞ!)
二人の喧嘩はいよいよクライマックス。
父は黄金の巨神の如きオーラを纏い、母は背後に漆黒の魔方陣を幾重にも展開した。
次の一撃が放たれれば、この大陸の地図が数センチ右にズレるのは確実だった。
「「これでおしまいよ(だ)!!」」
(……ああ、もう。やってられるか!)
俺は、自分の中に眠る青龍の核に触れた。
普段はサボりたい一心で抑えているが、この理不尽な両親を止めるには、毒を以て毒を制すしかない。
「——いい加減にしろ、この脳筋夫婦がぁぁぁ!!」
俺は地面を蹴り、二人の衝突地点へと飛び込んだ。
背中の紋章が、かつてないほどの蒼光を放つ。
青龍の権能——『慈雨』と『蒼雷』の強制介入。
俺を中心に、絶対的な「静止」の風が吹き荒れた。
二人の莫大なエネルギーが激突するその一点に、俺は青龍の雷を叩き込み、無理やりエネルギーを相殺・放電させた。
カッ!!
視界が真っ白に染まる。
……沈黙。
数秒後、俺が目を開けると、そこには「何もなかった」。
屋敷は跡形もなく消え、庭の木々も消滅し、ただ、綺麗な円形に削られたクレーターの底に、俺と、呆然とした両親が立っていた。
「……あ。やりすぎちゃった」
俺が呟くと、父と母は互いを見合い、そして、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……すまん、カイト。つい、熱くなってしまった」
「そうね……。カイトに屋根の修理をさせるわけにはいかないわね」
(……いや、家そのものが消えたんだけど。修理とかいうレベルじゃないんだけど)
結局、その日の晩飯は、父の持ってきた『火炎山猪』を、母が作った『薬膳スープ』で煮込むという、なんとも妥協案な「猪鍋」になった。
更地になったクレーターの真ん中で、焚き火を囲んで食べる夕食。
「うむ! 意外と合うな、これは!」
「ええ、猪の脂がスープにコクを出していますわ」
(……仲直りするの、早すぎだろ。さっきまで世界滅ぼそうとしてたの、誰だよ)
俺は、焦げたスプーンでスープを啜りながら、遠い目をして決意した。
「父さん。母さん」
「なんだ、カイト?」
「俺、明日、家を出るわ。ギルドに行く」
「ガッハッハ! 良い志だ! 修行の成果を試してこい!」
「そうね。今のあなたなら、大抵の災厄は『自分よりマシ』と思えるでしょうしね」
(……違う。あんたたちの「夫婦喧嘩」という名の災害から避難したいだけなんだよ。これ以上ここにいたら、俺の精神が持たないんだよ)
こうして、カイトは5歳にして(前世を含めると30代後半の精神で)、地獄のマイホームを旅立つ決意を固めたのである。
青龍の力を、もっと平和に、もっと「ホワイト」な仕事に使うために。
【ステータス確認】
• 名前: カイト
• 年齢: 5歳
• 称号: 災害調停者、家なき子、悟りの境地
• スキル: * 家族仲裁(物理): 両親の全力を相殺する、世界で唯一の技術。
• 現在の所持金: 0円(家と一緒に金庫も消えた)。




