77話: 超えるべき壁と、意外な幕切れ
荒野に降り立った四人。カイトは青龍刀の柄を握り直し、隣に並ぼうとしたカナデとシズクを片手で制した。
「……二人とも、手は出さないでくれ。こいつは、俺が一人でやる」
「ちょっと、カイト! さっきの内部破壊、見てたでしょ? まともに食らったらあんたの回路が持たないわよ!」
シズクが案じて声を荒らげるが、カイトの瞳には、これまでにない静かな熱が宿っていた。
「分かってる。……でも、感じるんだ。こいつの理不尽なまでの暴力に晒されることで、自分の中の、もう一つの殻が破れる気がする。……効率や理屈を越えた先にある、本当の『青龍』の力がな」
カナデはカイトの横顔をじっと見つめ、静かに剣を引いた。
「……分かったわ。ただし、あなたの命が消失する前に、私が強制終了をかける。いいわね?」
「ハッ! 仲間割れかと思ったが、漢じゃねえか青龍!」
レオンが地を蹴った。一瞬で距離を詰め、風の衝撃を乗せた連撃がカイトを襲う。
カイトは蒼雷を全身に纏い、超高速の演算でレオンの打撃を紙一重で回避、あるいは青龍刀の腹で受け流す。
だが、レオンの「内部破壊」は、防ぐたびにカイトの骨を軋ませ、内臓を揺さぶる。
「(くっ……、重い。一撃一撃がシステムの根幹を揺さぶりに来てる……!)」
技術と速度ではカイトが勝るが、純粋な破壊力と耐久力においてレオンが僅かに優位に立っていた。カイトの腕から火花が散り、青龍の魔力が少しずつ削られていく。
「楽しいぜ、青龍! こんなに俺の風に耐えた奴は初めてだ! お礼に……とっておきを見せてやるよ!」
レオンが大きく吠えると、周囲の風が彼を中心に巨大な竜巻となった。
「【四聖獣・白虎――リミッター解除】!」
レオンの髪が白銀に染まり、体躯が一回り大きく膨れ上がる。その拳には、もはや風ではなく、空間そのものを削り取るような白光が宿った。
「――終わりだ。白虎神拳・震天動地!」
聖獣化したレオンの速度は、カイトの演算を遥かに凌駕した。
「(速い……! 聖獣化すれば勝機はある、だが……!)」
カイトの脳裏に、あの雪原での暴走がよぎる。自分が聖獣化すれば、再び理性を失い、周囲を殲滅しかねない。
躊躇った瞬間、白き衝撃がカイトの腹部を貫いた。
「カハッ……!!」
カイトの視界が火花を散らし、そのまま荒野の地面へと叩きつけられた。
「……そこまでよ、野良犬」
勝ち誇ったレオンが追撃を加えようとした瞬間、天から降り注いだ紅蓮の炎が二人を隔てた。
炎の中から現れたのは、巨大な朱雀の翼を広げ、神々しいまでの威圧感を放つ聖獣姿のカナデだった。
「な……朱雀だと!? 決着に水を刺すんじゃねえ!」
レオンが苛立ちと共に風の刃を放つが、カナデはそれを羽ばたき一つで消し飛ばした。
彼女は冷徹な、しかし有無を言わせぬ美貌でレオンを見下ろす。
「カイトはまだ、自分の力を制御しきれていない。これ以上の続行は、この大陸の地図を書き換えることになるわ。……この勝負、預けなさい。白虎」
「……あ……」
レオンの動きが、止まった。
彼は怒るどころか、頬を赤らめ、聖獣化したカナデの姿を呆然と見つめていた。
「……強い。おまけに、なんて綺麗なんだ……。おい、あんた。俺の嫁にならないか?」
「……は?」
カナデが冷たい声を漏らし、背後で満身創痍のカイトが
「……おい、ツッコミどころが多すぎるだろ……」と地面を叩いた。
「あんたみたいな強い女なら、俺は一生ついていくぜ! 分かった、その申し出……受けてやる! その代わり、俺もアンタたちの『軍』に入れてくれ!」
こうして、戦う理由を求めて暴れていた最強の戦闘狂は、カナデに一目惚れするという極めて非論理的な理由で、カイトたちの仲間に加わることになった。




