67話: 紅蓮の散華と、蒼き雷神の降臨
激突する蒼雷と紅蓮。だが、ミラは不気味なほどに余裕を崩さない。
「カイト君、そして美しい火術師のレディ。君たちは大きな勘違いをしている。私がここに来たのは、君たちを殺すためではない。……ただ、この『蓋』を開けに来ただけさ」
ミラが指を鳴らすと、シズクの足元の氷が黒く変色し、巨大な五芒星が浮かび上がった。
「玄武がその命を削って維持していた認識阻害……。それは集落を守るためではない。その下に眠る**【大魔神・アスタロト】**の封印を、世界の目から隠すためのものだったのだよ」
「……っ! シズク、離れろ!」
カイトが叫ぶが、封印から溢れ出す瘴気がシズクの動きを封じる。
「カイト、私に任せて。……あなたは封印の修復に集中しなさい」
カナデが冷徹な声で告げ、剣を構え直した。だが、ミラの「鏡の反射」は狡猾だった。カイトとカナデの同時攻撃ですら、ミラはその半分を受け流し、残り半分を「過去のトラウマ」へと変換してぶつけてくる。
実力は伯仲。だが、悪意の深さにおいて、ミラが僅かに上回っていた。
「……ちっ、埒が明かないわね。」
カナデが低く呟く。彼女の背後に、巨大な炎の翼が展開された。
その瞳は黄金色に輝き、額には紅い紋章が浮かび上がる。
「【四聖獣・朱雀。――リミッター解除】」
カナデの姿が、炎を纏う神鳥へと変貌する。
聖獣化した彼女の一撃は、ミラの鏡を物理法則無視で焼き砕いた。
「……何!? 聖獣化だと!? 人間にその負荷が耐えられるはずが――」
「ゴミは、黙って灰になりなさい」
カナデの神速の連撃がミラを追い詰める。勝利は目前に見えた。
だが、ミラは崩れゆく鏡の破片の中で、背後に倒れていたレナードとシズクに視線を向け、歪に口角を上げた。
「……いい『盾』が落ちているじゃないか」
ミラは自身の命を削り、巨大な鏡の棘を二人に向けて放った。
「なっ……!?」
カナデは反射的に、自身の攻撃を中断。無防備な背中を晒してレナードたちの前へ飛び込んだ。
――ドスッ!!!
「……カハッ……」
黒い鏡の棘が、カナデの胸を深く貫いた。
朱雀の炎が、急激に萎んでいく。
「カナデ姉さん……?」
カイトの視界が、真っ白に染まった。
雪原に崩れ落ちる、紅い髪の乙女。彼女の白い服が、みるみるうちに鮮血で染まっていく。
「おやおや、情に流されて命を落とすとは。聖獣の力も形無しだね」
ミラが勝ち誇ったように笑う。
「……あ……あああああ……」
カイトの喉から、獣のような呻きが漏れた。
「ロジック」も「効率」も、すべてが脳内で焼き切れる。
「……殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
カイトの右手の紋章が、黒く染まった蒼い光を放った。
バチバチと鳴っていた稲妻は、もはや「音」を置き去りにし、周囲の大気をプラズマ化させる。
「【四聖獣・青龍。――完全、同期】」
カイトの背中から、蒼雷で編まれた巨大な龍の翼が突き出した。
だが、その瞳に理性はない。白目を剥き、ただ破壊の衝動だけを宿した「蒼い雷神」。
「カ、カイト!? 待って、その魔力、自分まで焼き切っちゃうわよ!」
シズクの声すら届かない。
――ドォォォォォンッ!!!
カイトが一歩踏み出しただけで、島全体の氷が砕け散った。
「あ……ああ……」
ミラが初めて、その鏡の顔に「真の恐怖」を浮かべた。
目の前にいるのは、救世主でも、転生者でもない。
ただ、すべてを等しく塵に帰す**【天災】**そのものだった。
「……ア……ガ……アアアアアアアアッ!!!」
咆哮と共に、蒼い閃光が極寒の島を包み込んだ。




