第39話:残業回避のための「地下脱走」
「(……ダメだ。地上にいたら、あのお姉さんの『情熱的な教育(物理破壊)』の標的にされ続ける。……有給休暇を自力で勝ち取るには、物理的に遮断されたオフライン環境へ逃げ込むしかない)」
カナデによる「追加講習(深夜まで続く特訓)」の初日。カイトは、女子寮に併設されたカナデの待機室へ向かうフリをして、学園の地下深くへと続く古い備品倉庫へと滑り込んだ。
そこには、学園の創設期に作られ、今は強力な結界で封印された「地下演習迷宮」が眠っている。
「(ここなら魔力の遮蔽率も高い。……よし、一ヶ月ここで寝て過ごそう。……あ、一応、護衛兼『使い走り』を一名確保しておいたぞ)」
「師匠! こんな不気味な場所に、真の『静寂の極意』が隠されているのですね! 感服しました!」
案の定、尻尾を振ってついてきたのは、学園騎士団次期団長候補のレナードだった。
だが、逃げ込んだ先は「安息の地」ではなかった。
地下迷宮には、長年の魔力溜まりによって自然発生した「古代の自動防衛プログラム(ゴーレム)」がうじゃうじゃと湧いていたのだ。
「……チッ。ここもバグだらけか。……レナード君、邪魔だよ。そこをどいて。……一瞬で掃除する」
カイトは、五年間隠し持っていた「青龍」の二つの特性を同時に励起させた。
「(雷は『速度』。風は『流れ(パス)』。……個別に使うからロスが出るんだ。……同期させろ。風で真空の道を作り、雷を抵抗ゼロで滑らせる……)」
カイトの周囲に、青白い放電と、目に見えないほどの高速の渦が巻く。
――パチッ。
カイトの姿が消えた。
レナードの目には、無数のゴーレムの首が「同時に」跳ね飛んだように見えた。実際には、カイトが雷速の移動(雷)の合間に、風の刃で精密に「切断」して回ったのだ。
「(……風で空気抵抗を演算して排除し、雷で神経信号を加速させる。……これなら、あのお姉さんの『熱量』にも干渉(干渉)されずに済むな)」
その光景を目の当たりにしたレナードの脳内に、凄まじい衝撃が走った。
「(……そうか! 師匠は、ただ速いのではない。世界の『理』そのものを、自分の都合のいいように書き換えているんだ……! 俺が今まで誇っていた力は、ただの『力任せの出力』に過ぎなかった!)」
レナードは、カイトの戦い方を狂ったように模倣し始めた。
公爵家に伝わる重厚な剣技を捨て、カイトが教えた(というか独り言で言っていた)「魔力の接点(脆弱性)」を突く戦い方へとシフトしていく。
「おおお! 見えます! 敵の術式の『継ぎ目』が! ……はぁぁぁっ!」
レナードの剣が、かつてないほど鋭く、そして静かに古代兵器を両断した。
その一撃は、もはや学生の域を超え、現役の騎士団長ですら到達できない「最適化された武」の領域に足を踏み入れていた。




