第37話:演習場という名の「デッドライン」
学園の広大な第一演習場。
そこには、カナデという名の「広域殲滅兵器」を前に、顔面を蒼白にした数百人の生徒たちが整列していた。
「さあ、ヒヨコちゃんたち! 挨拶代わりに、まずはこの演習場を一周……そうね、三秒で走ってごらんなさい!」
「「「……物理的に不可能です!!」」」
生徒たちの悲鳴が上がる中、十一歳のカイトは列の最後尾で、限りなく存在感を希薄にしていた。
「(……三秒で一周。時速に換算すれば音速の壁を突破しろってことか。前世の『納期は昨日だ』っていう無茶振りディレクターを思い出すな……。……よし、俺は『全力で走って転ぶ』という、高度な手を抜く技術を披露しよう)」
だが、カナデの目は節穴ではない。
「カイト。あなた、今『どうやってサボろうか』って脳内ソースを走らせてたでしょ? 処理の重さが顔に出てるわよ」
「……お姉さん。人の思考プロセスを勝手にスキャンしないでよ。プライバシーポリシーに反するよ」
「あら、私の前でプライバシーなんて言葉、燃えカスにしかならないわ。……さあ、見本を見せなさい。あなたが走るまで、クラス全員『火あぶりの刑』よ」
カナデが指先を鳴らすと、演習場の周囲に巨大な火柱が立ち昇った。
「(……うわ、出た。連帯責任という名のパワハラ。……最悪だ。俺の平穏が、クラスメイトの命と天秤にかけられた。……やるしかないのか。……ただし、『普通』を装ってな)」
カイトが一歩、前に出る。
全校生徒が息を呑む。レナードだけが「おおお! 師匠の真骨頂が見られるぞ!」と一人で興奮していた。
「(……普通に走れば衝撃波で校舎の窓が割れる。……なら、体内の青龍の魔力を励起させ、俺自身の神経伝達速度を強制的に引き上げる。……外部に漏れる放電は、大気中の魔力を逆位相でぶつけて相殺……。……行くぞ)」
カイトの瞳が、一瞬だけ鋭い蒼に光った。
――パチッ。
カイトの視界から色が消えた。
火柱の揺らぎも、生徒たちの驚愕の表情も、すべてが「静止画」となる。
カイトは雷そのものとなって地を蹴った。
摩擦抵抗を最小限にするため、進行方向の空気を魔力で希薄化(真空状態の生成)。
一瞬で一周し、元の場所に戻る。
そして、雷速移動によって発生するはずの「衝撃音」を、帰還の瞬間に音響魔法で「反転吸収」して封じ込める。
――シュン。
「……ふぅ。……これくらいで、いい?」
カイトは、あたかも数秒間一生懸命走ってきたかのように、わざとらしく呼吸を乱して見せた。
「(……よし。音も消した、光も抑えた。これなら『凄く足の速い子供』くらいで済むはず――)」
「……カイト。あなた、今、体内の演算速度を『雷』に同期させたわね? ……しかも、帰還の瞬間の衝撃波を真空層で包んで消した。……嫌な方向に技術が進化してるわね」
カナデが、般若のような笑顔で詰め寄ってきた。
「(……バレた。この人、センサーの感度が高すぎるんだよ……!)」
「いい度胸ね。朱雀の前で青龍の力を使うなんて。……いいわ、なら次は『実戦形式』よ。全員で私にかかってきなさい。カイト、あなたが指揮を執るのよ。……負けたら、この学園、キャンプファイヤー(全焼)にするから」
「「「……ええええええええ!!?」」」




