第36:教育実習生(物理破壊担当)、降臨
―キィィィィィン……!
学園全体に響き渡る、鼓膜を震わせるような魔力混じりの鐘の音。
それは、通常の授業開始の合図ではなかった。
「(……なんだ? この魔力の波長……。嫌な予感が、前世の『サーバーセンター火災発生』の通知並みに襲ってくるぞ……)」
「おや? 全校集会のアナウンスですね。新しく着任する『教育実習生』の紹介があるとか……」
レナードが暢気に答えるが、カイトの背筋には冷たい汗が流れていた。
この、大気をじりじりと焦がすような、暴力的なまでの熱量。
記憶の奥底に封印していた、あの「朱雀の業火」の匂いだ。
「……まさか、な。あのお姉さんが、こんな真面目な教育機関に来るはずが――」
講堂に集められた数千人の生徒たち。
壇上に立った学園長が、引きつった笑みを浮かべながらマイクを握る。
「えー、諸君。本日から、我が学園に短期教育実習生として、特別講師を招くことになった。……非常に、非常に情熱的な御方だ。……では、カナデ先生、どうぞ」
その瞬間。
講堂の重厚な扉が、物理的な衝撃波とともに**「ドォォォォン!!」**と両開きに弾け飛んだ。
「ハロー、可愛いヒヨコちゃんたち! 厳しい教育の時間が来たわよ!」
燃えるような真紅のドレスに、漆黒の外套を羽織った美女が、大股で歩いてくる。
一歩歩くごとに床の石材に亀裂が入り、周囲の温度が目に見えて上昇していく。
「(……出た。本物のシステムクラッシャーだ。……よし、逃げよう。今すぐ、この講堂の排気ダクトを通って、学園の外までデバッグ(脱走)だ!)」
カイトが最速で動こうとした、その瞬間。
壇上のカナデの視線が、数千人の群衆の中から、正確にカイトを射抜いた。
「あら、見ぃつけた。……五年間、ずいぶんと『サボり癖』をこじらせてくれたみたいじゃない、カイト?」
カナデが指先でパチンと音を鳴らす。
瞬間、カイトの周囲四方が、逃げ場を塞ぐような「火の壁」で囲まれた。
「……ひっ!? 影の番長が囲まれたぞ!?」
「何だあの講師、初日に番長を指名手配したぞ!」
ざわつく生徒たちの中、カナデは満面の笑み(肉食獣のそれ)で言い放った。
「今日から一ヶ月。私の担当は、実技選抜クラス……そして、**『不登校児の個別再教育』**よ。……覚悟しなさいね、カイト。あなたのホワイトな生活を、真っ赤に焼き尽くしてあげるから!」
「(…………終わった。俺の『定時退社』という名の理想郷が、火の海に沈んでいく……)」
カイトは、膝をついて天を仰いだ。
隣でレナードが「おおお! 師匠の師匠(?)ですか! 凄まじい魔圧だ!」と目を輝かせているが、カイトにはそれが「ブラック企業の増資」にしか見えなかった。
カナデが悠然と壇上から降り、カイトの目の前まで歩み寄る。
彼女はカイトの頬を軽く指で突き――かつて彼が彼女に教わった『トントン』の、100倍返しのような衝撃を送り込んだ。
「さあ、カイト。五分以内にグラウンドへ。一秒でも遅れたら、この学園の就業規則を『私の気分』に書き換えてあげるわ」
「……あの、カナデお姉さん。俺、今日から一ヶ月、忌引きで休もうと思って――」
「あら、誰の? 私が今からあなたの『平穏』の葬儀を執り行ってあげようか?」
「……。……今すぐ、グラウンドへ向かいます(最速入力)」
カイト、11歳。
最強の師匠の乱入により、五年間の「背景生活」が物理的に爆破された。
彼の「ホワイトな学園生活」は、ここから地獄の「強制残業モード」へと突入することになる。




