第35話:五年という歳月と災厄のチャイム
学園都市セント・アークに、五度目の春が巡ってきた。
かつて6歳だったカイトも12歳となり、
背は伸び、その顔立ちは涼やかでどこか人を寄せ付けない「完成された静寂」を纏っている。
だが、中身は一切アップデートされていなかった。
「(……よし、一限目は『自主学習(という名の仮眠)』。
二限目は『瞑想(という名の現実逃避)』。三限目は適当に中庭の石の成分分析をして、給食を食べたら午後は有給……じゃなくて、体調不良で早退。完璧な工程表だ)」
カイトは、学園の時計台の裏という、絶好のデッドスペースで寝転んでいた。
この五年間、彼は徹底して「目立たないこと」に全力を注いできた。
試験は常に平均点のど真ん中。実技も「可もなく不可もなく」を装い、放課後は光の速さで寮へ帰る。
しかし、その徹底した「普通への執着」が、逆に周囲には「底知れない実力を隠す、孤高の天才」と映っていた。
いつしか彼は、生徒たちの間でこう呼ばれるようになっていた。
――『静寂の支配者』、あるいは**『学園の影の番長』**。
「(……なんでだよ。俺はただ、システムのバックグラウンドプロセスみたいに、誰にも気づかれず静かに動作していたいだけなのに……)」
「師匠! こんなところに潜伏しておられたのですか! 流石です、気配が完全に『風景』と同化していました!」
ガサガサと茂みを分けて現れたのは、十六歳になったレナードだ。
高等部に進学した彼は、今や学園騎士団の若きエースとして女子の憧れの的だが、カイトの前でだけは、あの体育祭の日から変わらぬ「大型犬」の状態だった。
「……レナード君。君、騎士団の訓練は? サボり(残業拒否)は俺の専売特許だよ。君がやると、ただの職務放棄だ」
「いえ、師匠! 今朝の『空気の揺らぎ』から、師匠が何か重大な思索(昼寝)に耽っていると察知し、護衛に馳せ参じました! さあ、今日の『トントン』の講義をお願いします!」
「(……このバグ、五年経っても修正されてないな。……まぁいい。こいつを盾にすれば、他の面倒な連中が寄ってこないし、外注先としては優秀だ)」
カイトがレナードに適当な「石磨き」という名の雑用を押し付けようとした、その時だった。
――キィィィィィン……!
学園全体に響き渡る、鼓膜を震わせるような魔力混じりの鐘の音。
それは、通常の授業開始の合図ではなかった。




