第33話:下駄箱という名の「スパムメール・フォルダ」
……あ、師匠! おはようございます! 今朝の空気の密度、心なしか昨日より0.02%ほど濃密に感じられますが、これも師匠の魔圧による影響でしょうか!?」
学園の正門前。朝日を浴びてキラキラと輝く笑顔で、公爵家の次男レナードが直立不動で待ち構えていた。
「(……朝から高音の通知音がうるさいな。)……レナード君。それはただの湿気だ。あと、その『師匠』って呼称、社内チャットの誤送信みたいなもんだから、早急に削除してくれないかな」
「いえ! 昨日の体育祭での『正座の極意』、一晩中反芻して確信しました! 師匠の背中こそが、俺が歩むべきロードマップです!」
カイトは死んだ魚の目のまま、レナードを無視して教室へ向かう。
だが、今日の学園は何かがおかしかった。廊下の角を曲がるたびに、女子生徒たちが物陰から「ひそひそ」と、まるで重いデータをロードしている時のような音を立てている。
「(……嫌な予感がする。この空気感、前世で『不祥事を起こした役員』が更生したと勘違いされて、なぜか株価が爆上がりした時の空気に似ていた。
カイトが自分の下駄箱を開けた瞬間。
――バサササッ。
「…………あ。」
ピンク色や薄紫色の封筒が、まるで溢れ出したエラーログのように数通、足元に滑り落ちた。
「(……なんだこれは。物理的なスパム攻撃か? 誰だ、俺のパーソナルスペースに無許可でプラグインを挿入した奴は)」
「……お、おおお! 師匠! これが巷で噂の『静寂の番長への献上書』ですか! 流石です、俺の師匠は異性からの支持率もインフレ気味だ!」
レナードが横から覗き込み、感心したように頷く。
「(……レナード君、静かにして。これ、ただの『未開封の請求書』と同じだから。……よし、落ち着け。前世の俺なら、こういう重要度の低いメールは『アーカイブ』して後で見なかったことにするんだ)」
カイトは、無表情のまま落ちた手紙を拾い集めた。
一通、封筒の裏に『カイト様の冷徹な瞳に射抜かれたい、Fクラスのユリアより』と書かれているのが目に入る。
「(……射抜く? 物理的に? 勘弁してよ、俺はただ眠いだけなんだ。……よし、これは『宛先不明』として処理しよう)」




