第32話:最終種目:【騎馬戦】、執念の「リベンジ残業」
最終種目、クラス対抗騎馬戦。
カイトは「土台(馬)」の奥底で背景になるつもりだったが、クラスの連中が「カイト、お前のあの『不気味なほどの落ち着き』は上に乗るべきだ!」と強引に彼を騎手に祭り上げた。
対するレナードは、Aクラスの実力者を揃えた、まさに「必勝体制」の騎馬でカイトを包囲した。
「逃がさんぞ、カイトォォ!! ここで貴様を引きずり下ろし、俺こそが学園最強であることを証明してやる!」
レナードの剣には、一週間の猛特訓で練り上げた、青白い高密度の魔力が宿っていた。
「(……お。今の動き、ちょっとだけ『筋』がいいな。……でも、まだ出力が不安定だ。……よし、サービス残業(教育)の時間だ)」
レナードの騎馬が、大地を揺らして激突する寸前。
カイトは、担ぎ上げられたまま、右手の平を静かにレナードに向けた。
「(……力は、ぶつけるんじゃない。相手の『流れ』に、そっと同期させるんだ。……トントン)」
カイトの掌から、目に見えない無色の波紋が放たれた。
――シュンッ。
レナードの剣に宿っていた魔力が、一瞬で「霧散」した。
それだけではない。突進していたAクラスの騎馬全員の、魔力回路の接点をカイトが「トントン」と突いて一時的に遮断した。
「……え?」
ガクッ、とAクラスの四人が同時に膝を突く。
レナードは勢い余って馬から転げ落ち、カイトの足元に、まるで拝謁するような完璧な「正座」の形で着地した。
「……な、何だ? 魔法が消えた? 俺の体も、また……っ!」
「……レナード君。君の魔法は『熱すぎる』。熱は無駄なエネルギーだよ。……もっと『冷たく』、一点に絞るんだ。……あ、もう試合終了(定時)だね」
カイトは馬の上から、冷徹な「プロの視線」でレナードを見下ろした。
その圧倒的な実力差。小細工ではなく、世界そのものを支配するような「格」の違いに、レナードの心の中で何かが折れ、そして再結合した。
「……く、そっ……! なぜだ……なぜこれほどまでに……届かない……!」
「……君、努力家なのは認めるよ。でも、復讐に必死すぎて、周りが見えてない。……もっと冷静になれよ」
体育祭は、カイトの所属するFクラスの「謎の勝利」で幕を閉じた。
カイトが「やれやれ、これで帰って石が磨ける」と寮へ向かおうとした時、後ろから猛烈な勢いで走ってくる影があった。
「ま、待て! カイト!」
レナードだ。土だらけの体操服のまま、彼はカイトの前で勢いよく頭を下げた。
「……貴様の言った通りだ。俺は、自分の力に酔い、本質を見失っていた。……今の、一瞬で世界が止まったような感覚……! あれこそが、俺が求めていた真の強さだ!」
「(……え。なんか、嫌な予感がする。前世で論破された後に懐いてくる厄介な後輩のやつだ……!)」
「俺は、プライドを捨てる! カイト……いや、カイト師匠!! 俺に、その『静かなる一撃』を教えてくれ!!」
「……は? 嫌だよ。教えるのとか、最大級の残業じゃん。……おーい、誰かこいつ連れてってくれ」
「師匠! 師匠とお呼びしてもよろしいですか!? 今から自主練に――」
「……やめろ、ついてくるな! 俺は今から寝るんだよ!」
カイト、6歳。
執念深かったエリート公爵令息を、一撃で「熱狂的な信者」へと変えてしまった。
彼の「ホワイトな学園生活」は、こうして「厄介な弟子」という名の、終わらないトラブルに飲み込まれていくのであった。
「(……助けてくれ、リナさん。遠くの街に逃げたいよ。……この大型犬、俺が溜息ついたのを『呼吸法の極意』とか言ってメモ取ってるんだよ……!)」




