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蒼雷の征く果て〜青龍の力が強すぎて、俺の平穏が常に更地になる件〜  作者: セルライト
少年期

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第30話: 喧嘩の流儀:【一括デバッグ】



「(……あーあ。そんなに殺気飛ばして。近所迷惑だって。……朱雀のお姉さんなら、その殺気だけで街が一つ蒸発してるよ。……よし、サクッと『一括処理』しよう)」


カイトは、走ってくる二人に対し、めんどくさそうに指をパチンと鳴らした。


――パチン!


「「……ッ!?」」


飛びかかった二人の刺客が、空中で静止した。

いや、静止したのではない。カイトが放った「指向性のある重圧」によって、彼らの周囲の大気密度が瞬間的に上昇し、物理的に身動きが取れなくなったのだ。


「(……はい、そこ、重心がブレてる。トントン。……そっちは、魔力の供給路がガタガタ。トントン。……はい、お座り)」


カイトは、二人を無視してリーダー格の男へと歩み寄る。

歩くたびに、カイトの足元から蒼い波紋が広がり、路地に漂っていた不吉な魔力を、掃除機のように吸い込んで消し去っていく。


「な、何だ……!? 我らの『深淵魔法』が、ただの歩行でかき消されるだと!? 貴様、一体何をした!」


「何って……『デフラグ(最適化)』だよ。おじさんたちの魔力、無駄な呪文構成が多すぎて動作が重いんだよね。……ほら、残りの二人も、とりあえずそこに『整列』してて」


カイトが軽く手を振ると、空中で固まっていた二人の刺客が、磁石に吸い寄せられるようにリーダーの足元へ落下し、吸い付くように「土下座」の姿勢で固定された。


「……ひっ!? 膝が……地面に吸い付いて離れない!?」

「あ、頭が……勝手に下がっていく……っ!」


「……さて、リーダーのおじさん。あと2分」


カイトは、リーダーの目の前でピタリと止まった。

その瞳は、朱雀の業火よりも冷たく、前世の「不具合修正が終わるまで帰れないエンジニア」のような、一切の慈悲がない冷徹さを宿していた。


「……誘拐っていうのはさ、相手の時間を奪う行為なんだよ。時間は命なんだ。……俺の『平穏な放課後』と『特製パイ』を奪おうとした罪は、重いよ?」


カイトが、リーダーの肩に、そっと手を置いた。



――ズゥゥゥゥン!!



リーダーの男は、自分の肩に「世界樹の幹」が乗せられたような圧倒的な重圧感に襲われた。

骨が軋み、肺の空気が押し出される。眼前には、6歳の子供の姿をした、底知れない「虚無」が広がっていた。


「……あ、あ、ああ……っ」


「……このまま、組織の場所まで案内させてもいいんだけど、それだとパイが売り切れるからさ。……今日はこれで勘弁してあげる。……はい、謝罪。誠意を込めて、3秒以内に」


「……も、申し訳……ございませんでしたぁぁぁ!! パイの邪魔してすみません!! 許してぇぇ!!」


リーダーは、恐怖のあまり涙と鼻水を流しながら、路地に響き渡る声で絶叫した。

プライドも、組織の使命も、全てがカイトの放つ「圧倒的なまでの『早く帰りたい』というプレッシャー」の前に霧散した。


「……はい、よくできました。……あ、おじさん、これお土産。組織のボスに渡しといて」


カイトは、地面に転がっていた小石を一つ拾うと、それに指先で「トントン」と魔力を流し込み、リーダーの懐に放り込んだ。


「これ、俺が次に邪魔された時に『爆発』する設定にしてあるから。」


その言葉を聞きギョッとするリーダーに続けて


「……嘘だよ、半分は。でも半分は本当だから、大事に持っててね。……あ、あとマントの髑髏、クリーニングしにくいから次はもっとシンプルな服で来てね。じゃあ!」


「……ひ、ひぃぃぃ! 肝に銘じます! 二度と……二度と現れません!!」


三人の刺客は、もつれる足で脱兎のごとく逃げ去っていった。


「……よし。16時28分。……完璧だ。これなら食堂のパイに間に合う」


カイトは、何事もなかったかのように制服の埃を払い、再び寮へと走り出した。

路地裏には、彼が「掃除」したせいで、以前よりもずっと清浄な空気が漂っている。


「(……あーあ。誘拐の刺客なんて、前世でも経験したことないよ。異世界は物騒だなぁ。……でも、朱雀のお姉さんの特訓のおかげで、無駄な工数を使わずに済んだな。省エネ、最高)」


カイトは、寮の食堂に滑り込み、最後の一つの「特製ハニーアップルパイ」をゲットした。

焼きたてのパイを頬張りながら、冷たいレモン水で流し込む。


「……ぷはぁ。これだよ、これ。この一杯のために、俺は今日一日、背景として頑張ったんだ……」


カイト、6歳。

悪の組織の野望を、おやつのパイのために五分で粉砕した。

彼の「ホワイトな学園生活」を守るための戦いは、本人の知らないところで「組織の壊滅的なトラウマ」として刻まれていく。

だが、本人はそんなこと微塵も気にしていない。


「……あ、今日のパイ、ちょっと焼きすぎかな。……明日、厨房のオーブンの魔力回路、こっそりトントンして最適化しておこうかな……」


青龍を宿した少年の悩みは、どこまでも矮小で、そして平和そのものだった。

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