第23話: 合格ラインの魔術師と、エラーを吐く採点機
「……でかいな。ここが、リナさんが言ってた『学園都市』か」
六歳になったカイトは、見上げるほど巨大な白亜の城門の前に立っていた。
朱雀との修行を経て、彼の身長は少し伸び、その身に纏う空気は以前よりもずっと「静か」になっていた。以前の彼が「歩く核爆弾」だったなら、今は「一分子の狂いもない精密機械」だ。
「(よし、決めた。ここでの目標は『平均的な劣等生』だ。目立たず、騒がれず、定時に帰り、放課後は図書館の隅で昼寝をする。そのために、この入学試験は『最低限の力』でパスする!)」
カイトは、前世で培った「納期ギリギリ、予算ギリギリでプロジェクトを完遂させる」という社畜の処世術を、異世界の入試に適用することを誓った。
第一試験:学科筆記。
周囲の受験生たちが必死にペンを走らせる中、カイトは配られた問題用紙を一瞥して溜息をついた。
「(……簡単すぎる。これ、全問正解したら確実に首席で目立ってしまう。調整が必要だ)」
カイトの【真理の鑑定眼】が、試験問題の配点を瞬時にスキャンする。
合格ラインは60点。受験生全体の予想平均点は65点。
「(ターゲットは、平均点マイナス1点の『64点』だ。よし、計算開始)」
カイトは、全問正解のルートを脳内で構築した後、わざと「間違える箇所」を選定し始めた。
• 難問中の難問:わざと「ケアレスミス」で、一桁間違える。
• 基本問題:漢字の「はね」を数ミリ短く書き、不鮮明な文字として減点を狙う。
• 歴史問題:英雄の名前の一文字だけを、近所の野良犬の名前に書き換える。
カイトのペン先は、朱雀直伝の【蒼天一点】の集中力で、**「限りなく正解に近いが、厳密には間違い」**という絶妙な解答を量産していった。
試験終了後、自動採点魔道具がカイトの答案を読み取った瞬間、管理室にアラートが鳴り響いた。
「……おい、この受験番号1010番の答案、何だこれ?」
「どうした、採点ミスか?」
「いや……『全問、解法のロジックは完璧なのに、最後の1円の単位だけ計算がズレている』んだ。しかも、歴史の記述問題……この高難度な古典文法を使いこなしながら、肝心の年号だけ一年前後させてる。統計学的に、これだけの知識がある人間がこれほど『規則的なミス』をする確率は、隕石が直撃するより低いぞ……!」
カイト、6歳。知らぬ間に採点ソフトをバグらせ、教授陣の首を傾げさせていた。




