第21話 赤蓮山脈の支配者、朱雀カナデの不快
赤蓮山脈の頂上。そこは、地脈の熱が最も濃く噴き出す「世界の急所」の一つである。
四聖獣の一体、朱雀のカナデは、その優雅な翼を休めることもなく、空の一点を見つめていた。
「……不快だわ。大気が、怯えている」
彼女の五感は、数千キロ先で起きた「隕石消失事件」や「枯渇した大地を一瞬で楽園に変える」という、物理法則を土足で踏みにじるようなエネルギーの残滓を感知していた。
それは、精緻な魔法でも、崇高な奇跡でもない。
ただの**「巨大な質量による、乱暴な上書き」**。
「誰かしら。これほどまでに『力』を粗末に扱い、世界の薄皮を剥いでいく愚か者は」
その時、彼女の視界に、一人の子供が入ってきた。
漆黒の薙刀を杖にし、おにぎりを頬張りながら、活火山の熱風の中を「散歩」感覚で歩いてくる五歳児、カイトである。
「……暑い。リナさん、ここ『涼しい近道』って言わなかったっけ?」
赤蓮山脈の頂上付近。カイトは、首に巻いた保冷魔法付きのタオル(ギルドの備品)を絞りながら、目の前の光景に溜息をついた。
空が割れ、紅蓮の炎を纏った一人の女性が舞い降りた。四聖獣の一体、朱雀のカナデ。
「(うわ、出た。このプレッシャー、実家の親父が本気で怒った時と同等……いや、それ以上に『鋭い』な)」
カイトは直感した。これは、今までの「トントン」で済む相手ではない。
「あら、龍の小僧。その身に余る力、まるで泥酔した巨人が剣を振り回しているような不快な響きね。あなたが最近、各地で『大掃除』と称して地形を変えている犯人かしら?」
「掃除って……失礼だな。俺はただ、依頼を最短ルートで終わらせて、定時に帰りたかっただけだよ」
「その『最短』が、世界に余計な傷をつけているのよ。……少し、躾が必要なようね」
朱雀の指先から放たれた、髪の毛ほどの細い熱線。
カイトは反射的に、いつもの「効率重視」の薙刀を振るった。余波で周囲を吹き飛ばし、攻撃を面で迎撃する、彼なりの最短防御だ。
カッ!!
「え……?」
手応えがない。カイトの放った「空間を削る衝撃」は、朱雀の熱線に糸を通すように容易く貫かれた。
熱線がカイトの肩をかすめ、ギルド特製の防護服がチリ、と焦げる。
「(……貫通した? 俺の出力を、あんな細い攻撃が上回ったのか!?)」
「あなたの力は、ただの『騒音』。密度も、意志も、制御も足りないわ。……そんな大味な力で隠居生活なんて、笑わせないで。あなたは一歩歩くたびに、自分の安眠を自分で壊しているのよ」
朱雀の言葉が、カイトの胸に突き刺さる。
カイトの中で、前世の「システムエンジニア」としてのプライドが疼いた。
「(……そうか。今の俺は、バグだらけの巨大なプログラムを、強引なサーバーパワーだけで回してる状態か。……それじゃ、いつかシステム(世界)がクラッシュする。効率が悪い……最悪だ。俺は、プロの隠居者失格だ!)」
「お姉さん……。教えてくれ。どうすれば、もっと『静かに』、最小限の力で、敵を倒せる?」
「……あら。命乞いじゃなくて、技術を請うのね。面白いわ」
こうしてカイトとカナデの地獄の特訓が幕を開けた。




