第17話: Aランク冒険者「疾風のバルド」の戦慄
「リナさん、今日のお仕事は? またお昼寝かな?」
ギルドのカウンターに顎を乗せ、カイトは五歳児特有の純粋な瞳(中身は社畜の諦観)でリナを見上げた。
リナは、もはや震えが止まらない手で一通の依頼書を差し出す。
「は、はい……。本日の『ホワイト依頼』は、街の南にあります『絶叫の活火山』の火口付近での……ええ、『お茶会の予行演習』ですわ」
「……火口でお茶会? 灰が入るし、何より暑くない? 前世の常識だと、それは自殺志願者のルーティンなんだけど」
リナは、頬を引き攣らせながらも、必死に言葉を紡ぐ。
「と、とんでもございません! あそこの火口は、特定の波長の『衝撃』を与えると、一時的に噴火が収まり、とても涼しい……いえ、心地よい上昇気流が発生するんですの! その、カイト様の新しい薙刀で、火口の縁を『トントン』と……そう、三回ほど叩いていただければ、最高のお茶会スポットになりますわ!」
(……本当は、地下のマグマ溜まりが限界突破して、明日にも街が火の海になる予報なのよ! カイト様が『トントン』して圧力を無理やり地殻の底へ押し戻してくれないと、この国が終わるのよぉぉ!)
「ふーん。リナさんが言うなら、そうなのかな。じゃあ、行ってくるわ。お団子、多めに入れておいてね」
カイトは、漆黒の薙刀『不壊の黒龍』を杖にして、鼻歌混じりに死の火山へと向かった。
その火口には、先客がいた。
ギルドの隠密調査部門に所属するAランク冒険者、バルドだ。彼は数日前からこの火山の異常を察知し、決死の覚悟で「噴火抑制魔法」を打ち込み続けていた。
「くそっ……! 抑えきれん! あと数時間でこの山は吹き飛ぶぞ! ギルドに増援を要請したはずだが、まだか……!」
バルドが汗だくで呪文を唱えていると、後ろから「パタパタ」という場違いな足音が聞こえてきた。
「あ、おじさん。そこ、俺の席なんだけど。どいてくれる?」
「……あ? ガ、ガキ!? なぜこんな地獄に子供が……逃げろ! 今すぐ逃げろ! ここはあと数分で……」
「逃げないよ。リナさんに『ここでお茶会しろ』って言われたんだから。仕事なんだよ、これ」
バルドは耳を疑った。お茶会? この、溶岩が今にも溢れ出しそうな火口で?
だが、カイトはバルドの静止を無視して、火口の縁に立った。
カイトは、面倒くさそうに薙刀を振り上げ、地面に「トントン」と落とした。
「——トントン、と。……あ、ついでに底の方もトントン」
ドォォォォォォォン……ッ!!!
一撃目は、地表の振動を打ち消す「衝撃の相殺」。
二撃目は、火口の底に溜まった数億トンのマグマを、地殻の反対側まで押し戻す「空間圧縮」。
バルドの目の前で、信じられない光景が起きた。
噴き出そうとしていた真っ赤な溶岩が、まるで巨大な見えない手に押し込められるように、数千メートル下へと「沈んで」いったのだ。
さらに、カイトの周囲だけ物理法則が書き換えられ、灼熱の熱気は消え去り、なぜか「爽やかな高原の風」が吹き始めた。
「……あ。いい感じに涼しくなった。バルドおじさんも、お茶飲む?」
「…………は?」
バルドは、魔法の杖を握ったまま固まった。
彼がAランクの魔力をすべて注ぎ込んでも一ミリも動かせなかったマグマが、五歳児の「トントン」で退散したのだ。
「あ、あそこに大きなトカゲがいる。ちょうどいいや」
カイトは、火口の隅で暑さに耐えていた中位魔物『火炎トカゲ(サラマンダー)』の尻尾をひょいと掴むと、火口の真ん中に引きずっていった。
そして、そのトカゲの背中の熱を利用して、持参したヤカンを置く。
「……お、いい温度。これ、前世の『IHクッキングヒーター』より効率いいな。トカゲヒーター、最高じゃん」
サラマンダーは、五歳児の「ティータイムのコンロ」として再利用され、恐怖で火力を一定に保つマシーンと化した。




