第15話: 遠足気分の少年と、悲壮感漂う聖女
「リナさん、お弁当ありがとう。中身、地獄大百足じゃないよね?」
「ええ、カイト様。それはギルド特製のパストラミサンドですわ。……どうか、そのお弁当を食べる前に、地面を『優しく』叩くのを忘れないでくださいね?」
受付嬢リナの必死な目送りを背に、カイトは新調した漆黒の薙刀を杖がわりにして、街の外へと歩き出した。
今回の依頼は「遠足」。目的地は、魔力の枯渇によって砂漠化が進む『嘆きの草原』だ。
カイトが現地に到着すると、そこには黄金の杖を握りしめ、膝をついて祈りを捧げる一人の美少女がいた。
「ああ、神よ……この地に慈悲を。乾いた大地に、再び生命の息吹を……!」
彼女の周囲には、白銀の鎧を纏った騎士たちが数人、深刻な顔で立ち並んでいる。彼女こそが、隣国の神殿から派遣された『奇跡の聖女』エリスだった。
「(……お、なんか本格的なコスプレ集団がいるな。あれが聖女様か。前世のゲームなら、回復魔法とかが得意なキャラだよな)」
カイトが呑気に近づくと、騎士の一人が鋭い視線を向けた。
「止まれ、子供! ここは聖女様が命を懸けて儀式を行っている神聖な場所だ。遊び場ではない!」
「あ、すみません。ギルドの依頼で『遠足』に来ただけなんです。リナさんに『地面をトントンしてきて』って言われたので」
「トントンだと……? 貴様、聖女様が三日三晩不眠不休で祈り、ようやく大地の魔力を僅かに引き出そうとしているこの瀬戸際に、何をふざけたことを!」
騎士が剣を抜きかけた、その時だった。
「……うっ、もう、魔力が……」
聖女エリスがふらりと倒れそうになる。彼女の放つ神聖魔法は、確かに大地を潤そうとしていた。だが、この土地の地下深くには、大地の魔力を食い荒らす『魔龍の死骸』が居座っており、祈りの言葉をすべて吸収してしまっていたのだ。
「聖女様!!」
「(……あー、あの姉ちゃん、顔色が悪いな。前世の社畜時代の俺みたいだ。……よし、手伝ってやるか。リナさんの言ってた『トントン』って、たぶんマッサージみたいなもんだろ?)」
カイトは、騎士たちの制止を風の権能で軽く受け流し、ひょいと聖女の横へと踏み出した。
「お姉さん、無理しすぎだよ。有給取ったほうがいいよ。……ほら、どいて。俺が代わりにやっとくから」
「え……? 子供、さん……? 逃げて、ここは、呪いが……」
エリスが掠れた声で警告する。
だがカイトは、漆黒の薙刀をひょいと持ち上げると、それを地面に向けて「軽く」落とした。
「(えーっと、リナさんが言ってたみたいに……トントン、っと)」
カイトは、背中の【青龍】の雷を、薙刀の石突き(いしづき)の部分に集中させた。
そして、釘を打つような気軽さで、地面を叩いた。
「——トントン、と」




