第10話: 街の景色、そして絶望的な「常識」
ようやく辿り着いた冒険者の街・エルドラ。
高い石壁に囲まれ、活気あふれるその街並みを見て、俺は少しだけ感動した。
「(おお、これだよこれ! ギルド、酒場、武器屋! 前世で夢見た異世界情緒がここにある!)」
俺はワクワクしながら門をくぐろうとした。
だが、そこでもまた「壁」が立ちはだかった。
「止まれ、坊主。ここは子供の遊び場じゃない。迷子なら向こうの教会へ行け」
門番が槍を交差させて俺を止める。
「ギルドに登録しに来たんです。俺、これでも一応、戦えるんで」
「ハッハッハ! 勇ましいな! だがな、ギルド登録は12歳からだ。お前みたいなチビは、家でママのミルクでも飲んでろ」
門番が俺の頭をぽんぽんと叩く。
その瞬間、俺の背中の【青龍】が、「舐められた」と判断して微かに反応した。
パチッ
「……あ」
門番の鎧が、一瞬で青く発光し、過負荷で溶け落ちた。
門番本人は、髪の毛がアフロ状に爆発し、そのまま直立不動で気絶した。
「……ごめん。今の、俺の意志じゃないんだ。本当に。龍の生理現象みたいなもんなんだ」
周囲の通行人が絶叫し、衛兵たちが一斉に集まってくる。
俺は、自分がこの街においても「歩く天災」としてしか扱われないことを悟り、天を見上げた。
(……前世の俺、聞いてるか? この世界、俺が求めてる『ホワイトな環境』以前に、物理的に俺を受け止めるインフラが整ってないぞ)
衛兵の包囲網を(面倒なので)風の権能でふわふわと飛び越え、俺はギルドの建物へと突入した。
建物内は一瞬で静まり返り、荒くれ者たちが一斉に俺に武器を向ける。
「なんだ、このガキは!?」
「……静かに。ギルドのルールに則って、実力テストを受けに来た。年齢制限は、実力でねじ伏せればいいんだろ?」
俺は受付のカウンターに、父さんから貰った『ドラゴンの牙』をドスンと置いた。
カウンターの石材が、その重量と圧力でみしりと軋む。
受付嬢の女性は、プロ根性で引きつった笑顔を維持しながら、その牙を鑑定した。
「……こ、これは……『古代龍』の、それも一番硬い主根牙……!? これ一本で、この街の予算が一年分賄えますが……」
「これ、おやつ代って言われたんだけど。これ売って、一番長くて、頑丈で、手入れが楽な『薙刀』をくれ。あと、一番ホワイトな部署の依頼を回してほしい」
受付嬢は、震える手で登録用紙を差し出した。
「わ、分かりました……。ですが、実力テストとして、当ギルド最強のAランク冒険者と立ち会っていただきます……」
「あー、いいよ。でも、壊さないように気をつけるから、修理費は免除してね」
カイト、5歳。
ギルド登録初日にして、すでに「指名手配」一歩手前のインパクトを残す。
彼の「静かな老後」への道のりは、また一歩、遠ざかったのであった。
【ステータス確認】
• 名前: カイト
• 年齢: 5歳
• 所持品: * ドラゴンの牙(おやつ代): 換金したら国が傾く。
• 地獄大百足の干物: 匂いだけで魔物が逃げ出す。
• 現在の悩み: 世界の耐久値が、俺の「くしゃみ」に耐えられるか心配。




