蒼天の執行者
空を覆い尽くすのは、陽光を遮る数百万の魔雲。羽ばたきと咆哮が地を揺らし、絶望という名の黒い津波が、たった一人の「個」へと押し寄せていた。
が、その「個」は、どこか気の抜けた顔で、耳の穴をほじくりながら、手にした薙刀を「よっこいしょ」と肩に担ぐ。
「…あー、なんか、ゴミが大量に湧いてるなぁ。誰がこんなに溜めたんだよ、まったく。…片付けるのも面倒くさいなぁ、」
「…穿て」
その呟きと共に、彼の身体から溢れ出したのは、天を裂く**「青龍」**の咆哮。
…ではなく、ただの大きな欠伸。
「…ふわぁ、眠い。…さっさと終わらせて、寝るか」
「雷」の特性が発動した瞬間、青年の姿が消失する。
次の刹那、魔族の大軍のど真ん中に、巨大な雷柱が突き立った。落雷の衝撃波だけで数千の魔族が炭化し、塵へと変わる。
「…はい、一網打尽。…楽ちん楽ちん」
雷速の移動を繰り返し、戦場をジグザグに縫う青い光。彼が通り過ぎた後には、逃げる間も与えられぬまま、範囲内の敵すべてを焼き尽くす**「電磁の檻」**が形成されていた。
「…逃がさない。…逃がすわけないだろ。…めんどくさいし」
嵐の裁断(…じゃなくて、ただの草むしり)
「吹き荒べ」
彼が薙刀を一閃させると、今度は**「風」の特性が牙を剥く。
刃の延長線上に現れたのは、目に見えぬ無数の「真空の刃」**。
ただの一振りで、前方数百メートルに及ぶ魔族が、まるで紙細工のように綺麗に両断されていく。風は鎧を無視し、巨躯の魔獣すらも細切れに変えていく。
「…はい、千切っては投げ、千切っては投げ。…まるで草むしりだな、これ」
数百万の軍勢は、わずか数分でその三分の一を喪失した。
圧倒的な暴力。しかし、絶望の波は止まらない。
血の雨が降る戦場の中央で、青年はさらに深く、龍の核を共鳴させる。
薙刀の穂先から放たれる輝きが、白銀から禍々しいまでの蒼色へと変色していく。
魔族の指揮官たちが異変を察知し、顔を強張らせた。
空を覆っていた魔雲が、青年の頭上で巨大な渦を巻き始める。
「…まだだ。ここからが、真の……」
青龍の瞳が怪しく光り、大地がかつてない震動を始めたその時。
空の向こうから、魔族ですらも恐れ慄く「異形の影」が降り立とうとしていた――。
「…あーあ、また大物が。…ほんと、めんどくさいなぁ、おい」
彼はそう言うと、また耳の穴をほじくりながら、その「異形の影」を睨みつけた。




