島の生活
無人島に流されて10日ほど過ぎた。はじめの二日は水場や寝る場所を探して歩き、見つけた寝場所で白蛇を見つけた。その後は、そこを拠点に島中を回った。大体の川や泉の位置を理解したし、食べられる果実の場所もわかった。山の方の調査は後回しだ。
白蛇は随分懐いたようで、どこにいくにもついてくる。道がわからないと言うと、家まで案内してくれたり、知らない間に鳥の卵や野兎を取ってきてくれたりもする。白変種のようだったので、アルビノから取ってビノと呼んでいる。
今日は畑を作ろうと思う。と言っても、拠点近くの土を掘り返してそこにトウモロコシの種を植えるだけの簡単なものだ。最初に拾ったナイフを使って耕していく。鍬が欲しい。
ようやく畝が作れたので、たった3粒の乾燥した粒を土に埋めて水をかけた。芽が出てくれるといいのだが。
ついでに畑の周りの木を切り倒す。日が入らないと植物は育たないので、少し空間を作ったのだ。畑なんてやったことがないので、まぁ適当だ。
「さてと…おいビノ!海岸にいくぞー」
最近の悩みは塩や砂糖といった調味料がないこと。特に塩は命に関わるので、何日かに一回は塩を取るために海岸に行って貝なんかを持ってくる。海水を塩に出来ればいいが、そんな技術はないので海産物から出る塩が手っ取り早い。
帯剣して乾かした瓜で作った水筒を持って。その辺でウロウロしていたビノに声をかけてやると、ビノはするりと俺の身体に巻き付いてくる。準備完了だ。
身体強化魔法で、海岸に向かって走る。歩いても半日くらいの場所だが、魔法を使って走れば一時間くらいだ。そう考えるとこの島はかなり大きい気がする。
あっという間に海岸に着く。砂浜に打ち上げられているものをチラッと見て。
「お、鞄じゃないか。ラッキー」
帆布で作られている肩掛け鞄だった。中身はコンパス、地図、ポーション数個、麻袋に入った干し肉。一般的な旅人の装備だ。干し肉は少しでもあったほうがいいから、素直に嬉しい。何より鞄があれば山登りにも行けそうだ。
ご機嫌で次は貝をとる。なぜ魚ではなく貝なのかというと、焼いたとき殻にたくさん塩水がでるからだ。魚より塩分が取れるわけである。そして、ビノも役立つ。意外にもビノは海水でも多少なら大丈夫らしく、その鋭敏な探知器官で、砂の中の貝をたくさん持ってきてくれる。
俺は岩の隙間にある貝や蟹を、ビノは浅瀬の貝を持ってきて両手一杯の貝を獲った。新しく手に入れた鞄に、たっぷりと貝を入れておく。
日が暮れる前に帰ろうかな、と貝取りに勤しむビノを探す。
「ビノ?おーい、どこだビノ?」
いつもは浅瀬にいるのに、どこにいったのだろうか。まさか…溺れた?
「ビノ!ビノ?!」
急いで海の中に入って、更にビノを探す。ドンドン不安な気持ちになってくる。何かに襲われた?何かに引っかかってしまった?少し深いところに行くと、深いところから白い紐のようなものが見えて、すごい勢いでこっちにやってきた。
口に大きな二枚貝を二つも咥えたビノが何事もなかったように水面に顔を出してきた。ホッとして、海から一緒にあがる。
「驚かせるなよ…お前がそんなに潜っていられるなんて知らなかったが、死んだかと思って心配したんだぞ?」
「シャーッ」
「心配するな?あ、お前もしかして実は海蛇か?蛇ってそんな深くで呼吸出来るのか?うーん…まあいいか。ありがたいことに変わりないし」
なんとなく最近ビノの言っていることがわかる気がする。今のはたぶん気にするな、心配するな、みたいな感じだろう。
そんなこんながあって、ようやく拠点に戻ることになった。
塩水でベタベタした身体や服を小川で洗い、服は風魔法で乾かした。次は火を熾して、平たい石を真ん中に入れる。調理器具がないので、石を鉄板代わりにしているのだ。こうすると貝や肉を焼きやすいのだ。
今日の食事はもちろん貝だ。浅瀬にある小さめの丸っこい二枚貝と、昨日ビノが深いところから持ってきたギザギザした大きくて平たい二枚貝を焼いていく。パカっと口を開く貝達を眺めていると、気になるものがあった。
平たい二枚貝の中に白と黒の珠みたいなものがあるのだ。これなんかどっかで見たことあるような?と首を傾げてもよく思い出せないが、せっかくだし取っておこう。麻袋に入れておくことにした。
「んん!この貝美味いな?!大きいから食べ応えもあるし歯ごたえもいい!」
「シュ?シュシュ?」
「ああ、嬉しいぞ!見つけてきてくれてありがとうな!」
側で食事を見ていたビノが美味しい?嬉しい?と聞いてきたので、褒めてやって、頭をツルツルと撫でた。するとビノは目を細めて嬉しそうにした。可愛いやつだ。
可愛いビノを撫でているうちに、すっかり夜になってしまった。いつもの洞穴に戻って横になると、ビノに見張りを任せてゆっくりと眠りについた。
翌日、水と食糧をもち山登りに向かうことにした。登る場所はある程度目星をつけていて、傾斜がなだらかで登りやすそうな岩場があるところがあったのだ。ビノが先に行きたいみたいなので、先に行ってもらって跡を追う。
しばらく登ると、少し開けた場所に出た。一旦ここで休憩する。ビノは気になる物があるのか、垂直に近い壁を上に登り始める。心配しなくていいと言うので、とりあえず戻るのを待つことにした。
「ふぅ…道が悪くて疲れたな…」
眼前には広い森と遠くに砂浜が見えていて、高いところに来たんだなとぼんやりと思った。30分くらい待っていたらビノが戻ってきた。なぜかもう一匹の少し小さな白蛇を連れて。
「え、なんでもう一匹?お前の子か?…違う?じゃあ弟妹か…一匹だけだと思ったらいっぱいいるんだなあ」
ビノともう一匹――アルビノのアルと名付けたが、二匹はうんうんと頷く。つまりまだまだ兄弟姉妹がいるらしい。二匹で同じ動きをするのがなんか可愛い。
「よろしくな。……ところで、この先に寝れそうな場所はありそうだったか?具体的には今住んでいるような洞穴とか…」
うんうんと二匹が頷くので、きっとあるのだろう。二匹に促されるまま山を登ったり下ったりしているうちに、二匹は岩の前で止まって俺を見てくる。
壊せってことか?と聞くと、頷く二匹。拳に身体強化魔法をかけて、数度殴ると、岩にヒビが入って割れた。すると奥に繋がる穴が見えた。まさか本当に洞窟があるとは。よしよしと二匹を撫でてやると、二匹は喜んで洞窟の中へ入っていった。
遅れて入ると、中は薄暗いが苔が光っていて不思議と光には困らない。どういう仕組みかわからないが光る苔は奥に行くほど光っていき、とても綺麗だった。
先導する二匹を追ううちに、これは下っていっていると気がついた。二匹を追いかけていたと思っていたのに、あちこちの隙間からニュッと白蛇が出てきて、先導する者がドンドン増えていた。
「どんだけ居るんだ…」
びっくりしつつ、しばらく歩くと、ピチョン、と水が滴る音がした。歩みを進めるにつれ、滝のような音も聞こえてきた気もする。すると、いきなり広い空間に出た。
そして、そこには――。
「お、大きい……」
巨大な空間を埋め尽くすように大きい白蛇が鎮座していた。周りにはたくさんの子供…白蛇がいた。身体から魔力が溢れていて、この大蛇が魔物であることを理解した。
ビノがその巨大な蛇の前に行き、何やらシャアシャアと話をしているみたいだ。目を閉じている大蛇は話を聞いてゆっくりと目を開けて、こちらをチラリと見た。
《人か……こちらにくるがいい。少し話をしよう》
「喋る蛇?!」
《…いいから、こちらに》
大蛇が喋ったことに驚いたが、格上の魔力に気圧されてしまい本能的に身体が動いた。アルが先導する様に一緒に着いてきてくれた。
《…私はこの島の支配者。霞蛇…人間でいうところのミストバジリスクという種類の白変種になるだろう。数千年前から、私達はこの島で暮らしている》
「ミストバジリスク…時折湿地帯に現れるというのを聞いたことがある。霧を出して姿を隠し、獲物を狩る魔物だったか?…だがこの島は全然霧に覆われていないぞ?ビノが霧を出したところを見たこともないんだが…」
《ふむ…この島全体には、かけていないというのが正しい。この島を覆うように霧を使っていて、それがあることでこの島の存在が見えない様にしているのだ。ビノ…それはまだ霧を出せん。出せるようになったら一人前だな…》
更に大蛇は、この島について人間は“幻の島”などと呼んでいると教えてくれた。なぜかその海域に行くと迷ってしまい、朧げに島が見えるが誰も辿り着けない、そんな島だという。
《度々人間が流されてくるが、お主のようにこの森まで入ってきて暮らそうとする人間はいなかった。それにお主は我らを攻撃することもなく、それの傷を癒してくれたそうだな……礼を言おう》
「そうなのか?噛み付かないって言うから、殺す理由もなかったし…こっちこそ、貝を取ってきてくれたり道案内してくれたり…助かってるよ」
《ふふ……不思議な人間だ…》
そうだ。一つ聞いておかなくてはいけないことがある。この島に引き続き住んでいていいか、という話である。俺はこの島の生活を悪くないどころか気に入っていた。だから出ていけと言われないか不安だったのだ。
すると大蛇は構わないと言ってくれた。別に人間が嫌いなわけでもなく、大体が自分達の皮や毒を求めて邪な思いで来るから敵対してしまうだけで、そうでないのなら人間が住んでいても気にしないそうだ。
《それに…邪魔なら喰えば済むしな》
ちょっとびっくりしたが、大蛇はにっこり笑っている。俺のことではない、よな?と思って、苦笑いしながらビノの頭をそっと撫でた。
そんな話をして、とりあえず今日は拠点に戻ることにした。なんと大蛇のそばにあった滝は例の一晩過ごした滝だそうで、滝の裏側から出入りできるのだそうだ。
アルとビノを連れて滝を出ると、不思議と濡れずに外に出られた。しかも何故か十匹ほどが身体にくっついて着いてきてしまった。監視役なのかもしれないな、と思いつつも可愛くはあるので、いいことにした。
「さーて、帰るか!飛ばすから捕まってろよ、お前たち!」
新しい仲間や島の主人に挨拶できて、充実した一日を終えたのだった。




