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流されて無人島



 生まれた瞬間から、奴隷になる運命だった。


 父は戦闘奴隷で、母は頭目の奴隷だったから、生まれてきた俺も当然奴隷として育てられた。頭目の話では奴隷同士で子を産ませた方が無料で奴隷が手に入るとあって、俺のような子は腐るほどいた。


 戦闘奴隷とはいわゆる賭け事に使われる奴隷のことで、勝てば生きられるし、負ければ死ぬそんな世界だ。そんなわけで、父は俺に会うこともなく死んだ。母も俺を産んだあとすぐに死んだそうで、育ててくれたのは同じ戦闘奴隷達だったらしい。


 来る日も来る日も飢えと厳しい訓練に耐えた。10歳になると、戦闘奴隷としてデビューした。相手はもちろん、大人。勝ち目なんてない。だが、子どもが大人を打ち負かす様を見たいと高い賭け金が積み上がるから頭目はこれをやりたがった。


 結果はなんとか勝った。それはかなりの儲けだったらしく、すぐさま次の試合次の試合と戦い続けた。しかしある時、勝利したものの深手を負った。


 そこで運命の出会いをした。たまたま昨日入ってきたという戦闘奴隷が、魔法使いだったのだ。そいつは俺の傷を治してくれた。


 そして一言、『お前さん魔法に適性があるぞ』といい、魔法の使い方を習った。最初に習ったのは治癒魔法だ。とにかく死にたくなかった。


 だが魔法使いの戦闘奴隷は珍しく、あっという間に買い手が決まって普通の奴隷として居なくなってしまった。それでも俺は治癒魔法を習得出来ていた。


 傷を負ってはこっそり治し、詠唱なく出来る様になってからは傷を負った瞬間治した。いつしか戦闘奴隷達や頭目は“不死身の13号”などと呼ぶようになった。ちなみに13号は当時入っていた部屋番号だ。


 ある時、とある国の将軍が俺を買いたいと言い出した。連戦連勝で人気絶頂の俺を手放したくはなかったそうだが、大金を積まれ、俺はようやく戦闘奴隷から解放された。


 と思ったが、待っていたのは戦争だった。買われた時の条件として奴隷から平民へ身分を変えただけで、戦争奴隷みたいなものだった。戦争に駆り出され、また戦って治して。魔法兵からさまざまな魔法を教わって。繰り返すうちに、一個小隊の長として兵をまとめるまでに至った。


 陸地での戦争が終わると、次は海軍の兵になれと言われ、初めて船に乗った。だが出航してしばらく経つと嵐に巻き込まれて、船は大破して沈没。当然俺も死んだ。


 ーーーーと、思っていたのだが。


「……なかなか死なないもんだな」


 目が覚めると、白い砂浜に打ち上げられていた。とにかく溺れないようにと太い木材にしがみついたまでの記憶はあるが、そこからどうなってここにきたのだろう。


 辺りを見渡すと、広い海と白い砂浜、鬱蒼と茂る森と僅かに流れ着いた船の残骸。見上げると、山があるようだ。もしかしなくても島だろう。


 問題は人がいるかどうかだが、まあいてもいなくてもなんとかなるだろう。元奴隷、しばらく食べなくても不味くても腐っていても食える。おまけに愛用の剣は流されず腰にあるので、多少の狩りもできる。


 ふう、とため息をついてとりあえず流されてきた漂流物に良いものがないか探すことにした。板材が多いが、火を焚べるにはいいかもしれないので取っておく。次に小さな麻袋を見つけたので開けてみる。中身は干し肉と数粒のトウモロコシだったのでありがたく貰った。それから刃こぼれしている短剣も使えそうなので取っておこう。


「行くしかないな」


 見える範囲に集落はない。ならばこの密林を征くしかないのだ。


 ざくざくと草を掻き分け、森を進む。バササと鳥が羽ばたいて次々に居なくなり、リスなんかも蜘蛛の子を散らすように逃げる。悲しいが、いきなり見たこともない侵入者が現れたらそうなるのも当然だ。


 今探しているのは水だ。何度も領土侵攻したが水や食糧が確保しやすいルートを行くのが安全で生存率も高い。もし人が住んでいるなら、水が必要だから水場を辿ればいるに違いない。


 かさっとした葉音を感じ、少し様子を伺う。足音からするとイノシシかな、と相手の出方を見ていると、猪突猛進とはまさにそのことで俺に向かって突進してきた。剣を構えて、イノシシを除けながら脇腹を切った。


 イノシシは断末魔の声を上げて、バタンと倒れた。今日の食糧は確保出来た。手早く内蔵を抜いて、イノシシを担いで更に歩く。


 しばらく歩くと、さぁぁと音がした気がする。雨、ではない。となれば…滝か?と音を頼りに進む。すると小川が見えてきて、その上流に山から滝が流れていた。


「おお、冷たくてうまい」


 早速水を飲めば、喉の渇きが一気に癒された。水もあるし、開けている。この辺りに拠点を作るとしよう。正直雨が降ったら増水して大変そうだが、それは雨が降ったらまた考える。


 枯葉や枝を集めて、火魔法を使って火をつける。つくにはついたが、あまり持ちそうにない。砂浜にあった木の板を入れてもいいが、塩水で湿っていて難しいかもしれない。


 イノシシの腹の皮には脂があるので、燃料代わりに入れておこう。燃えているうちに剣に刺したイノシシ肉を焼いていく。味気はないが、ジューシーで美味しい。


 ぼんやりと空を見上げてみる。今まで見たどんな場所よりも星が綺麗だ。火があるうちは動物は怖がって近づかないだろうが、消えたら夜行性の狼なんかが出てきてもおかしくはない。実際、時折ガサッと木が揺れたり遠吠えが聞こえる。


 結果としては狼の群れに襲われたが、一頭を排除したら逃げていったので特に問題はなく。狼肉はあまり美味しくないので、毛皮を剥いで取っておくことにした。敷いて寝れば暖かくて良さそうだ。


「…安全な寝床を見つけたいところだな」

 

 朝日が出たので探索を続けることにした。できれば滝の周りで洞穴か何かがあったらいいのだが。あちこちうろうろと探したが、滝の周りにはそういったものはなさそうだった。


 ならばと小川を背に奥へと進む。狼の毛皮を担いでいるせいか少し暑い。


 道中の木々には果物が成っていて、洋梨やら桃やらがあったのでありがたくいただく。甘くてみずみずしい。この辺りは実のある木が多いみたいだな。


 また歩くと、チョロチョロと水音がする。先程の川よりも小さい。川の上流を目指して川の流れとは逆に歩いていく。


 すると、湧水が出ており小さな泉となっていた。今日はこの辺で夜営しようと辺りを見回ると、気になる場所があった。大きな岩があるのだが、その両脇に腕くらいの細さの隙間がある。いかにも退かせば穴がありそうだ。


 ムンと気合いを入れて、身体強化魔法を使う。横からズズズと岩を押す。ゆっくりとそれは横にずれていき、目論見通りにぽっかりとした洞穴があった。


 中に入ろうとして、中に何かいると感じた。


「…ん?蛇か…白いなんて珍しいな」


 それは大きな白い蛇で、ちんまりと身体を丸めて眠っている様だった。随分と警戒心の薄い蛇である。とはいえ、このままここにいられたら寝られないのもあって駆除しようと近づく。


 それでも蛇は動かず、よくよくみるとぐったりしている気もする。


「蛇に治癒魔法って効くのか?うーん、ま、やるだけやってみよう」


 弱っている様子の蛇に、治癒魔法をかけてやった。蛇にかけて見たことはないのでよくわからないが、何もしないよりはいいだろう。腕の中でぐったりしている白蛇を撫でて、洞穴の奥にそっと寝かせておく。


 火を起こしていると、スッと白蛇が近づいてきた。やんわりと剣に手を置く。蛇はこちらを見て、赤い舌をペロリと出して、しまう。蛇流の威嚇、だったりするのか?ジィッと見つめて、そしてゆっくりとこちらに向かってくる。


 蛇は俺の隣までくると、とぐろを巻いて寝始めた。敵意はない…ような気がする。


「一応聞くが…噛み付かないか?」


 首をもたげた蛇は、こっくりと頷いた。人間の言葉がわかるらしい。ならよかった、と安堵して。


 ようやく横になって眠ることができたのだった。


 

 

 


よろしくお願いいたします。

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