第8話 「あの動き、実は遠隔操作でした」 ~魔力値2の俺が、最強の『端末(アバター)』に認定された件~
「……蓬くん。改めて聞くわ。この男が、あの配信の『本物』なのね?」
ギルド本部の地下、冷たい空気の流れる特別演習場。ギルドマスター・九条シオリは、鋭い審美眼で、目の前の巨漢――岩鉄ゲンゾウを射抜くように見つめていた。その手には、カナタの『魔力値2』という異常な測定結果のデータが握られている。
「は、はい!そうなんです支部長!実はゲンゾウさんはあまりに強すぎて、自分で動くと周囲の建物を壊しちゃうんです。だからあの日、僕みたいな『魔力の空っぽな人間』を端末にして、遠隔で操作して戦わせていたんですよ!」
俺、蓬カナタは、必死にでっち上げた嘘を並べ立てた。彼女の「最強の探索者は魔力値が高いはずだ」という論理の穴を突くには、これしかなかった。
「……リモート操作?魔力値2の君を、外部からコントロールしてSランク並みの動きをさせたと?理論上は可能かもしれないけれど、そんな精緻な操作ができる人間がこの世に……」
「そこにいるじゃないですか!伝説の清掃員、ゲンゾウさんですよ!」
俺が指差した先。ゲンゾウさんは、あまりのシオリの威圧感に全身をガタガタと震わせていた。しかし、その震えが特注の重厚な鎧(プラスチック製)を鳴らし、「獲物を前に溢れ出す闘気を必死に抑えている」という絶望的なまでの誤解を生んでいた。
「……ふん。……あの日、お前たちを救ったのは……俺の余興だ。……気にするな」
ゲンゾウさんが、俺のカンペ通りに地響きのような低音(※恐怖による掠れ声)で言い放つ。その瞬間、立会人として同席していたエリナが、ハッと息を呑んだ。
「……その声。……あの時、遠くから響いた『掃除は終わりだ』という声と同じ重みを感じるわ。……九条支部長、やはりあの日、私を救ってくれたのはこの御方だったのね……!」
エリナが確信したような顔でシオリを見る。シオリは依然として疑わしげな表情を崩さないが、エリナの証言と「目の前の圧倒的な威圧感(※勘違い)」を無視することもできない。
「いいわ。ならば、その『操作』とやらを見せてもらいましょう。……もし嘘だったら、君たち二人とも、虚偽報告でギルドから追放するから」
シオリは演習場の中央に、Sランクでも破壊困難な『魔導防御壁』を設置させた。俺は冷や汗を拭いながら、撮影用のカメラ(※デコピン用の死角を作るダミー)を構える。
「(……行くぞ、ゲンゾウさん。剣を振るフリを!)」
ゲンゾウさんが、震える手で超高級大剣をゆっくりと抜き放つ。そして、防壁に剣が触れる直前――俺は指先をパチン、と弾いた。
――ズ、ガァァァァァァァンッ!!!
防壁が、文字通り「蒸発」した。破片すら残さない、圧倒的な消滅。
「…………なっ!?」
シオリの眼鏡が、驚愕でずり落ちた。彼女の目の前にある測定計は、ゲンゾウの周囲の魔力が「計測不能」なほどに乱れたことを示している。実際は俺が放った魔力がゲンゾウの鎧を通って屈折しただけなのだが、彼女のデータ上では「ゲンゾウが源流」だと示された。
「……信じられない。……私の理論を超えているわ。……蓬くん、君の言った『リモート操作』……あながち間違いではないようね。……これほど無機質で、かつ圧倒的な破壊。……君の貧弱な魔力では、増幅器にすらならないはずなのに……」
シオリは、自分の知性で理解できる唯一の答え――「ゲンゾウが本体で、カナタはただの依代」という結論に、自分から歩み寄ってくれた。
「よし、決まりね。来週の『第50階層・公開再攻略』。これを岩鉄ゲンゾウの公式デビュー戦とするわ。……蓬くん、君は引き続き、彼の『依代』兼マネージャーとして同行なさい。……一秒たりとも、彼から目を離すんじゃないわよ」
「……あ、はい。……喜んで!(※死ぬほど忙しくなる予感)」
シオリを騙し通した安堵感と、より重い責任を背負わされた絶望が同時に押し寄せてきた。




