表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただのFランク、配信事故で最強扱いされたので、ビビりの巨漢を“ダンジョンの主”に仕立てて逃げます  作者: 九条 綾乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/27

第8話 「あの動き、実は遠隔操作でした」 ~魔力値2の俺が、最強の『端末(アバター)』に認定された件~

「……よもぎくん。改めて聞くわ。この男が、あの配信の『本物』なのね?」

ギルド本部・地下。冷気の漂う特別演習場。

ギルド支部長――九条シオリは、目の前の巨漢を、まるで刃物みたいな視線で貫いた。

岩鉄がんてつゲンゾウ。

所属は《施設管理課/保全班》――通称“バックライン”。

ダンジョンの結界設備、魔力遮断プレート、監視回線、危険残滓の処理……。

戦闘職が表舞台なら、彼らは舞台裏の生命線。ギルドが毎日「当たり前に回る」のは、バックラインが“当たり前を積み上げてる”からだ。

……なのに今、その要の人が、世界に「最強」として引きずり出されている。

「は、はい!そうなんです支部長! ゲンゾウさんは……バックラインの中でも、現場を壊さないために力を抑え切るプロなんです!」

俺――蓬カナタは、汗の引かない手のひらを太ももにこすりつけながら、必死で嘘を盛った。

盛るしかない。俺がバレたら人生が終わる。

「だからあの日も、直接動くと周辺設備がもたない。……だから俺みたいな“魔力の空っぽな人間”を端末アバターにして、遠隔で操作して戦わせてたんですよ! ほら、施設の負荷分散って大事じゃないですか!」

「……リモート操作? 魔力値2の君を外部からコントロールして、Sランク並みの動きを?」

シオリが、眉間に深い皺を刻む。

あの人の脳内で、理屈の回転音が聞こえる気がした。

「理論上は可能……だけど、そんな精緻な操作ができる人間がこの世に――」

「そこにいるじゃないですか!」

俺は、勢いだけで指を突きつけた。

「伝説のバックライン! 岩鉄ゲンゾウさんですよ!」

ゲンゾウさんは、鎧(※特注。中身は軽量素材)をカタカタ鳴らしながら、ガタガタ震えていた。

でも、その震えがまた最悪なんだ。

“闘気を抑え込み、体内でエネルギーを制御している”

みたいに見える。

(違うんです支部長。あれ恐怖です。純度100のビビりです)

「……ふん。……あの日、お前たちを救ったのは……俺の余興だ。……気にするな」

ゲンゾウさんが、俺のカンペ通りに低音で言い放つ。

掠れ声なのが逆に効いた。重い。妙に重い。

立会人として同席していた『白銀の剣』リーダー、エリナが息を呑む。

「……その声。……あの時、遠くから響いた声と同じ重みを感じるわ。

……九条支部長。あの日、私たちを救ったのはこの御方だったのね……!」

シオリはまだ疑ってる。

けど、エリナの証言と、目の前の“圧”(※誤解)を無視もできない。

「いいわ。ならば、その『操作』とやらを見せてもらいましょう」

シオリが指を鳴らす。

演習場の中央に、Sランクでも破壊困難な《魔導防御壁》が展開された。薄青い膜が幾重にも重なり、空気が“固くなる”。

「もし嘘だったら――君たち二人とも、虚偽報告でギルドから追放するから」

「ひぃっ……!」

ゲンゾウさんが小さく悲鳴を漏らす。

その声が鎧の奥で反響し、やたら“深い咆哮”みたいになった。最悪だ。

俺は笑顔を貼り付け、カメラを構える。

撮影用……という名目のダミー。デコピンの死角を作るための小道具。

(……行くぞ、ゲンゾウさん。剣を振る“フリ”!)

ゲンゾウさんが、震える手で超高級大剣を抜き放つ。

刃が空気を切るだけで、見学席の探索者が喉を鳴らした。見た目だけは完全に英雄だ。

そして、防御壁に剣先が触れる――その寸前。

俺は、指先をほんのわずか弾いた。

――パチン。

乾いた音の次に来たのは、“無音”だった。

音が消える。空気が一瞬、真空に吸い込まれる。

次の瞬間、演習場の中心が白く燃え上がった。

――ズ、ガァァァァァァァンッ!!!

魔導防御壁が、文字通り「蒸発」した。

破片も粉も残らない。膜が焼き切れるのではなく、存在そのものが“消し飛ぶ”。

光が収束し、残ったのは、焦げた匂いと、壁の向こう側に広がる虚無の空間だけ。

「…………なっ!?」

シオリの眼鏡が、驚愕でずり落ちた。

彼女が握る測定計は、ゲンゾウさんの周囲の魔力が“計測不能”なほど乱れたと示している。

実際は俺が放った出力が、ゲンゾウさんの鎧を“導体”にして屈折しただけ。

でもデータ上では――発生源はゲンゾウさんだ。

「……信じられない。……私の理論を超えているわ」

シオリの声が、かすかに震える。

あの人が震える時はだいたい、「理解できない」時だ。つまり今、勝ち筋。

「蓬くん。君の言った『リモート操作』……あながち間違いではないようね。

……これほど無機質で、かつ圧倒的な破壊。……君の貧弱な魔力では、増幅器ブースターにすらならないはずなのに……」

彼女は、自分の知性で飲み込める唯一の答えへ、自分から歩いていってくれた。

――ゲンゾウが本体。カナタは依代。

(よし。いいぞ。そのまま行け。俺を見るな。俺を見ないでくれ)

シオリが背筋を伸ばす。

「決まりね。明日の『第50階層・公開再攻略』。これを岩鉄ゲンゾウの公式デビュー戦とするわ」

ゲンゾウさんの肩がビクッと跳ねる。

それがまた、“王の威圧”っぽく見えてしまうのが終わってる。

「……蓬くん、君は引き続き、彼の『依代』兼マネージャーとして同行なさい。

……一秒たりとも、彼から目を離すんじゃないわよ」

「……あ、はい。……喜んで!」

口では即答。

心の中では絶叫。

(終わった。俺のスローライフが、正式に死刑宣告された)

ゲンゾウさんは、俺のカンペを握りしめたまま、蚊の鳴くような声で呟いた。

「……あの……カナタくん。……僕、持ち場……戻っていい……?」

「無理です。世界が許しません」

「……ひぃ……」

今日も世界は平和で、俺の胃は痛い。

こうして俺は、バックラインの“気のいい現場のプロ”を、公式に「最強」として担ぎ上げることに成功した――はずだった。

だけど、俺はまだ気づいていなかった。

ギルドが“公式の最強”を手に入れた瞬間から、世の中は「最強の使い道」を探し始めるってことに。

カップ麺を啜る時間は、また遠のいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ