第25話 魔力値2の正体 逆流探知(バックトレース)
『ハハハ!なんだそのフォーメーションは!』
地下最深部。スピーカーからハッカーの嘲笑が降り注ぐ。壁面のモニターに、俺のステータス画面がデカデカと表示された。
【魔力値:2】
『見ろよこの数字!一般人以下だ!』
『そんなゴミ電池を繋いで何ができる?LED電球ひとつ点かないぞ!』
ハッカーは勝ち誇り、視聴者に向けて煽り続ける。だが、その時。棺(OS)が静かに明滅した。
『――警告。システム内部情報の漏洩を検知』
『セキュリティ・プロトコル発動。……これより、外部への音声送信を遮断します』
ブツン。空気が変わったような音がした。俺は慌ててシオリ支部長を見る。
「……おい、今のって」
「……ええ。配信の音声インジケータが消えたわ。映像は生きてるけど、今の会話は視聴者には聞こえてない」
(ナイスだポンコツ機械!)
俺は内心でガッツポーズをした。それなら、ある程度は喋れる。
『……愚かな』
OSの無機質な声が、今度はハッカーと俺たちだけに聞こえる「内部回線」で響く。
『侵入者よ。貴方のスキャナは正常ですか?』
『その数値は「2」ではない。「2周目」です』
『あ?』
『当迷宮の魔力測定限界は「9999」。それを突破した場合、カウンタはゼロに戻り、再カウントを開始する』
『彼の場合、そのループ速度が速すぎて、表示が「2」で固定されているように見えているだけ。……実測値は、測定不能』
『な、なんだと……?』
ハッカーの声色が揺らぐ。俺はゲンゾウさんの背中に隠れるように移動しながら、ニヤリと笑った。マイクは切れている。なら、ハッカー本人にだけは、事実を突きつけてやってもいい。
「バレちゃしょうがねえな。……そういうことだ」
俺はゲンゾウさんの広い背中に両手を当てた。カメラのアングルから見れば、俺の姿はゲンゾウさんの陰に完全に隠れているはずだ。
「俺は電池じゃねえ。発電所だ」
ズズズ……と、空間が震え始めた。
『ハッタリだ!そんな人間いるわけない!』
『東京崩壊実行!僕のプログラムで消え失せろォォォ!!』
ハッカーが絶叫し、エンターキーを叩く音が響く。空間に展開された無数の攻撃プログラムが、牙を剥いて殺到する。
「来るぞゲンゾウさん!歯ぁ食いしばれぇぇ!」「ひぃぃぃぃ!死ぬぅぅぅ!」
俺は背中から、魔力のバルブを一気に開放した。だが、ただ放出するだけじゃない。OSに指示を飛ばす。
「おいシステム!俺の魔力を『電気信号』に変換しろ!」
「ゲンゾウさんのフィルターを通して、奴の回線にねじ込むんだ!」
『了解。……エネルギー変換、開始』
バチバチバチバチッ!!
ゲンゾウさんの体が、光ではなく「青白い電撃」を帯びる。俺の無茶苦茶な魔力が、ゲンゾウさんの
「現状維持(壊したくない)」という強烈な抵抗値によって、高密度のデータ電流へと整流されていく。
『エネルギー充填、120%……計測不能!』
『物理層(レイヤー1)への干渉を開始。……ターゲット:侵入者のローカルネットワーク』
攻撃プログラムが着弾する直前。OSが、俺たちのエネルギーを乗せたパケットを、ハッカーの回線へと「逆噴射」した。
『逆探知および、過電圧攻撃を実行』『接続されている全てのIoTデバイスへ、致死量の電圧を送信します』
ドシュゥゥゥゥン!!
目に見えるビームではない。だが、地下100階層の極太通信ケーブルが、青白く発光して唸りを上げた。インターネットという名の導線を伝って、俺の魔力が光速で駆け抜ける。
モニターの向こう側。ハッカーの悲鳴が聞こえた。
『な、なんだ!?回線速度が……異常!?』『うわ、熱っ!?キーボードが熱い!?マウスが!?』
OSが冷徹に実況する。
『侵入者のPC電源ユニット、過負荷により溶解』
『冷却ファン、回転数限界突破により破損』
『さらに――同回線に接続された「スマートエアコン」「スマート冷蔵庫」「スマート照明」……全IoT機器のコンデンサを強制ショートさせます』
『は?エアコン?冷蔵庫……?うわあああ!?部屋中の家電から煙が!?』
ハッカーの部屋のIoT機器が燃えていく。俺の魔力は、ネットに繋がっている全ての「導体」を焼き尽くす。逃げ場はない。お前の部屋そのものが、今や電子レンジの中だ。
『や、やめろ!僕の最強PCが!グラボだけで300万したのにぃぃぃ!!』
「知るかよ!新しいのを買え!」
俺はさらに出力を上げた。その瞬間。
カッッッ!!
あまりの高電圧に、ついに現場のカメラが耐えきれず、ホワイトアウトした。映像が飛び、真っ白になる。だが、攻撃は止まらない。
『ぐあああああああッ!!』
モニター越しに、ド派手な爆発音が響いた。PCのバッテリーか、あるいはコンデンサが破裂した音だ。断末魔と共に、通信がプツンと途絶える。
静寂。白い部屋に、焦げ付いた臭いと、冷却ファンの回転音だけが残った。カメラはホワイトアウトしたままだ。
「……はぁ、はぁ……」
俺は手を離し、その場にへたり込んだ。ゲンゾウさんも、白目を剥いて前のめりに倒れる。映像では「光り輝くゲンゾウさんが何かすごいことをした」ようにしか見えなかったはずだ。音声も切れていた。完璧だ。
『……脅威の物理的排除を確認』
『システム権限、回復しました。……ご協力、感謝します』
OSの光が、穏やかな青色に戻る。
俺は荒い息を整えながら、倒れているゲンゾウさんの背中を叩いた。
「……お疲れ、相棒。……ゲンゾウさんには刺激が強すぎたみたいですね」
返事はない。完全に気絶している。
よし、これで一件落着――そう思って振り返った時。俺は凍りついた。
シオリ支部長が、俺たちの真横に立っていた。彼女は、俺がゲンゾウさんの背中に手を当てていた位置と、今の「音声オフ」での会話の一部始終をすべて、聞いていた。
彼女の瞳にあるのは、確信。
「……なるほど。IoT機器への過電圧攻撃。……今の魔力リソース、どう見ても『2』じゃないわよね?」
シオリさんはスマホを掲げた。そこには『通信途絶』の文字。視聴者は騙せた。だが――現場にいる「プロ」の目は、誤魔化せなかったらしい。
(……詰んだ)
俺は天を仰いだ。ハッカーのPCと一緒に、俺の社会的な「隠れ蓑」も爆発四散した音が聞こえた気がした。




