第22話 権限凍結:扉が開かない
地下55階層。未踏領域。激走。
「お、重いよぉ!なんで僕が聖女様を小脇に抱えてるのぉ!?」
「荷物だと思って!落とさないで!」
ゲンゾウさんの絶叫。脇には白目の聖女。
「んふふ、光がぁ……」。
完全に荷物。
壁面の表示。【被害拡大まで:02:45:12】
刻一刻と削れる寿命。シオリさんが叫ぶ。
「見えた!第60階層へのゲート!」
突き当たり。巨大な黒曜石の扉。だが――赤く、禍々しい光。
『――行き止まりだ』
ハッカーの声。
『セキュリティ・ライン。管理者権限で凍結した。物理も魔法も通じない』
シオリさんが発砲。カィンッ!傷一つなし。
「ダメ。完全遮断障壁」。操作パネルは【ACCESSDENIED(権限凍結)】。
『無駄だよ。君たちの権限は無効化した。指をくわえて見てなよ』
嘲笑。コメント欄、絶望。
『終わった……』『開かない扉とか無理ゲー』『ゲンゾウさんでもダメか……』
ゲンゾウさんが膝をつく。
「あぁ……もうダメだ……。帰ろう?ね、帰ってカップ麺……」
「ダメです。工場も潰れます」
「ひぃッ!」
俺は焦る。ハッキング技術はない。「流す」ことしかできない。頼みの綱は――この人だけ。
「ゲンゾウさん。『バックライン』として見て。この扉、どうなってます?」
「えっ、どうって……」
涙目のゲンゾウさん。震える指が、無意識に「配線ダクト」へ。体は「現場」を覚えている。
「……う、うん。これ……『信号』が来てない」
「信号?」
「うん。センターからの『開け』って命令が切られてる。モーターが回らない」
ガコッ。カバーを外す。中には、赤黒いケーブルの束。
「配線は生きてる。スイッチが切られてるだけ。これじゃ動かないよ」
「じゃあ、どうすれば?」「え?そりゃあ……」
ゲンゾウさん、即答。
「ここを繋いで、『直結』すればいいんだよ。……工事現場の『仮設電源』みたいに」
出た。現場の荒技。
「でも……予備電源がないよ。この扉、すっごい電力(魔力)食うから……」
俺はニヤリと笑う。
「ありますよ、発電機」
「えっ、どこに?」
「ここに」
自分の胸を指差す。ゲンゾウさん、顔面蒼白。
「ま、まさか……」
「あなたが『線』を繋いでください。俺が『電気』になります」
「えええええ!?人間を発電機にするのぉ!?」
『バカな。人間一人の魔力で動くわけが――』
「動かします。……ゲンゾウさんが繋ぐなら」
背中に両手を当てる。接続。俺という「壊れた電池」を、ゲンゾウさんという「精密機器」へ直結。
「ひぃッ!あ、熱い!なんかすごいのが入ってくるぅ!」「我慢して!……繋いで!」
ゲンゾウさんが、半泣きでケーブルを掴む。切断された回路。無理やり接触。瞬間。
バチバチバチッ!!
猛烈なスパーク。衝撃がゲンゾウさんを襲う。
「う、うおおおおお……ッ!!」
ゲンゾウさんの咆哮。逃げたい。離したい。でも――離さない。「仕事」だから。
「……繋がれぇぇぇぇぇ!!」
俺のデタラメな奔流。ゲンゾウさんの技術がねじ伏せ、流し込む。俺は「出す」だけ。「通す」のは、この人だ。
ズズズズズズ……ッ!
扉の悲鳴。警告灯が明滅。焼き切れ――強制的に「緑」へ。
ガコンッ。プシューーーッ!
開いた。システム解除じゃない。バッテリー直結、物理強制駆動。
コメント欄、沸騰。
『開いたあああああ!』『力ずくwwww』『ハッキング(直結)』『人間変電所かよ』
シオリさんが呆然と呟く。
「……セキュリティ突破じゃない。……『再起動』させたのね」
ゲート開放。供給停止。勝った。……そう思った、瞬間。
――ガクッ。
「……あ、れ……?」
ゲンゾウさん、崩れ落ちる。
「ゲンゾウさん!」
支える。顔色は真っ白。滝のような脂汗。そして――
「……ッ!」
額。黄金の「主の紋章」。その縁が――深く、広く、ドス黒く変色している。
『ガ……ハッ……。なんか……頭が……割れそう……』
頭を抱えて呻く。過剰魔力を、生身で変換した代償。回路が、焼け焦げている。
(……くそ。俺が「電池」になればなるほど……この人の負担が増える)
俺には制御ができない。だから、間の「変換器」が全ての熱を受け止める。
「ゲンゾウさん……!」
「だ、大丈夫……。まだ……行ける……」
震える足で立つ。もう「ビビリ」じゃない。痙攣だ。
唇を噛む。分かってる。このままじゃ、最深部の前に――ゲンゾウさんが壊れる。




