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ただのFランク、配信事故で最強扱いされたので、ビビりの巨漢を“ダンジョンの主”に仕立てて逃げます  作者: 九条 綾乃


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20/27

第20話 炎上:英雄はテロリストだった!?

【緊急速報/切り抜き拡散スレ】では――。

『401:名無しの探索者』【速報】“ゲンゾウさん”がテロリスト説、出回る

『402:名無しの探索者』は???いきなり何言ってんだ

『403:名無しの探索者』動画出た。タイトルが「新宿ダンジョンは仕組まれた災害」

『404:名無しの探索者』出どころどこ?

『405:名無しの探索者』コメ欄がもう戦場。「偽りの英雄くん」って文字がサムネに入ってる

『406:名無しの探索者』それ昨日壁に出たやつじゃん…

『407:名無しの探索者』ギルドが“隠蔽してる”って煽ってるな。誰が得するんだよ

『408:名無しの探索者』同接、急上昇。炎上配信の匂いする

『409:名無しの探索者』バックライン?がなんでテロにするんだよ

『410:名無しの探索者』「主の紋章」映像も貼られてる。額のやつ、どっかで撮られてたのか?

『411:名無しの探索者』これ地上で騒いでる間にダンジョン崩れるやつだろ…

『412:名無しの探索者』ギルド緊急会見くる?


 通路の奥へ一歩踏み出した瞬間、空気が変わった。

 粘る魔力が、今度は“薄い膜”みたいに肌にまとわりつく。

 気持ち悪い。濡れてないのに濡れてる感じ。バグってる。


 背中を支えていたゲンゾウさんが、喉を鳴らした。


「カナタくん……さっきから、スマホが震えてる……」


「見ないでください」


「見てないよ!見てないけど、震えがすごい!通知が…通知が…!」


 その震えは、地下でも止まらない。

 地上の炎上って、こういう風に人を追い詰めるんだなと、変に納得しそうになった。

 九条シオリ支部長が、歩きながらインカムに短く命令を投げる。


「地上班、状況は?」


 返ってきた声が、ノイズ混じりに焦っていた。


『……ネット上で告発動画が拡散しています。ゲンゾウさん、いえ“主”がダンジョンを利用したテロ計画――という筋書きです』


「誰が流してる」


『発信元は複数。切り抜き、匿名アカ、協会を名乗る団体、どれも同じ台本です』


 支部長の目が細くなる。


「……台本、ね」


 俺は胃がひゅっと冷えるのを感じた。


(敵の宣戦布告、地上でも“文字”になってる)


 ダンジョンの壁に出たあの文言が、今度はサムネとタイトルになって地上を燃やしている。

 誰かが、わざわざ同じフレーズを使って、俺たちを“見世物”にしてる。

 アリスが、楽しそうに息を吸った。


「地上が騒いでいるのも、また試練……!」


「試練じゃない!風評被害!」


 ゲンゾウさんが半泣きで叫ぶ。

 その額の紋章の縁に残る黒ずみが、やけに目に刺さった。

 支部長が俺の横に寄る。声を落とす。


「カナタ。地上の炎上は、あなたの隠れ蓑でもある。今はゲンゾウさんは”真の英雄”で押し返す」


「……偽りの英雄くんはいない?」


「そう。だから、あなたは表に出ないために、力を惜しまず使いなさい」


 支部長の言い方が物騒すぎる。


「地上班。公式声明は?」


『ギルドとしては“調査中”で統一。ですが、相手は“隠蔽だ”と煽ってます』


「隠蔽じゃない。機密だ。――いい、機密は守る。守ったまま鎮火させる」


 支部長が短く息を吐く。


「カナタ、ゲンゾウさん。ここから先、通信は最小限。誰かが“こちらの情報”を欲しがってる」


 その言葉の直後だった。

 通路の天井が、ぱっと白く明滅した。


『追加修正が必要です』

『次の階層で――“供給元”を確定します』


 さっきの管理アバターの声。

 だけど今は、通路全体が喋っているみたいに響く。

 ゲンゾウさんが俺の袖を掴む。


「ねえ、ねえ……“供給元”って、もしかして……」


「……たぶん、俺です」


「やだあああああ!」


「声がでかい!」


 アリスが両手を握りしめる。


「供給元――すなわち、神の発電所の心臓部……!」


「だからその言い方やめてください!」


 支部長が前を見たまま言う。


「叫ぶな。来る」


 通路の先に、白い光が滲んだ。

 さっきの“管理アバター”より、数が多い。

 人型が二体。

 そして、床を這うような小型の何かが三つ。

 蜘蛛みたいに見えるけど、蜘蛛より“規則正しい”。


『修正プロトコル:トレース』

『出力経路を追跡します』

『供給元を確定します』


(やめろ。ルートを辿るな。俺の人生を辿るな)


 俺は息を吸って、吐いて、出力を整えようとする。

 でも制御は粗い。下手に絞れば漏れる。

 支部長が短く指示する。


「第一班、ゲンゾウさんを中心に。アリスは後ろ。カナタ、あなたは“供給”を一定。逃げ道を作る。――私は撃つ」


「はい」


 俺は、ゲンゾウさんの背中に手を添えた。


(“主”の器。ここがゲート。ここが全部の盾)


 魔力パス――俺の荒技。

 一言で言うなら、発信源の“住所”を書き換える。

 俺が出したものは、俺から出たことにしない。

 全部、ゲンゾウさんの紋章から出たことにする。


『トレース開始』


 蜘蛛みたいな小型が床を走る。

 赤黒い線が光って、魔力の流れを“見える化”する。

 来る。ルートが可視化される。


(ここでバレたら――)


 俺は、あえて一瞬だけ出力を“跳ねさせた”。

 ビリッ。

 わざと粗く。わざと汚く。

 水道管の圧を一度だけ上げて、配管が「どこを通ってるか分からない」状態にする。

 ――嫌なやり方だ。

 でも、こういう時にだけ、俺のガバ制御が役に立つ。


『異常出力:検出』

『経路分岐:増大』

『――再計算』


 管理側が一瞬だけ詰まる。


「今!」


 支部長が撃った。

 乾いた銃声。

 ただし、弾丸が“当たる”感触がない。

 管理アバターの表面に、弾が吸い込まれて消える。


「効かない!?」


「効いてる。――削れてる」


 支部長は即断する。

「“破壊”じゃなく“遅延”でいい。時間を買う。カナタ、出力一定!ゲンゾウさん、目を閉じて!」


「目を閉じたら死ぬやつじゃない!?」


「死なない!信じて!」


「信じるのハードル高いよ!」


 ゲンゾウさんが泣き声で叫びながら、それでも目をぎゅっと閉じた。


 その瞬間、額の紋章が淡く光り――

 黒ずみが、ほんの少しだけ広がる。


「……っ」


 ゲンゾウさんが歯を食いしばる。


(また削れた)


 俺は必死で“一定”を作る。

 一定、一定、一定。

 一定って、こんなに難しいのかよ。


『供給元の確定を再試行』

『――供給元:未確定』

『――供給元:未確定』

『――供給元:未確定』


 管理側が同じ行を繰り返す。

 それが、逆に怖い。


(いつか当たる。回数を重ねたら、いつか“俺”に辿り着く)


 アリスが後ろで叫ぶ。


「カナタ様、もっと!もっと出せば押し切れますわ!」


「押し切った瞬間にゲンゾウさんが壊れます!」


「壊れない程度に!」


「その言い方が一番難しいんだよ!」


 支部長が、低い声で言った。


「黙れ。――次が本命」


 白い光が、一段強くなる。


『修正プロトコル:優先度上昇』

『地上への影響を許容』

『供給元の確定を最優先』


 その瞬間、インカムがノイズで悲鳴を上げた。


『支部長!地上で……裂け目が一瞬……!』


「……来たか」


 支部長が呟く。

(地上への影響を許容、ってそういう――)


 敵は地下だけで完結する気がない。

 地上を揺らして、俺たちを焦らせて、判断を狂わせに来る。

 そしてたぶん、もう一つある。

 炎上。告発動画。

 “偽りの英雄くん”。

 これは、地上の人間が勝手に盛り上がってるんじゃない。

 敵が、意図して火をつけている。

 管理アバターが、腕を上げる。

 腕の内側の回路が、さっきより黒く光る。


『供給元の確定――最終試行』 

 

 俺は、腹の奥で何かが切れる音を聞いた気がした。


(……やるしかない)

 俺は、魔力パスを“上書き”するイメージで、さらに一段深く押し込んだ。

 ゲンゾウさんの紋章を、ただの盾じゃなく、“唯一の出口”にする。

 俺の出力は全部、ゲンゾウさんから出たことにする。

 俺はゼロ。俺は背景。俺はただのFランク。


『――供給元:』

 管理アバターの声が、初めて途切れた。

 白い光が揺れ、床の赤黒い線が一斉に点滅する。


『――供給元:マスター(主)』


 ……通った。

 俺は、膝が笑うのを感じた。

(ギリギリだ。ほんとにギリギリ)

 でも、喜んだのは一秒だけだった。

 通路の壁面に、別の文字列が浮かび上がる。

 さっきの敵通信と同じ、整いすぎた書体。


【配信権限:奪取準備】

【偽りの英雄くん】

【君はそこにいる】

【21:45:03】


 胃が、落ちた。


「……支部長」


 俺の声が掠れる。


「地上の炎上、これ……“配信”を狙ってます」


 支部長は壁を見上げ、目を細めた。


「……ええ。次は“世界の前で”確定させる気ね」


 ゲンゾウさんが、目を閉じたまま震え声で言った。


「ねえ……僕のスマホ、勝手に……配信アプリが開いて……」


「開くな!」


「開いてない!勝手に開いてるの!」


 アリスが、嬉しそうに息を呑む。


「来ますわ……大舞台が」


「来なくていい!」


 支部長が短く命令する。


「全員、端末を切れ。電源を落とせ。地上班、配信プラットフォーム側に緊急遮断要請。――今すぐ!」

 壁のカウントダウンが、容赦なく減っていく。

【21:40:44】

 そして、最後にもう一行。

【次の階層で、君を“映す”】【21:38:43】

 俺は息を止めた。

(最悪だ。……でも)

 最悪だからこそ、ここで止めないといけない。

 俺はゲンゾウさんの背中を支え直して、暗い通路へ踏み出した。

 地上の炎上が、地下にまで熱を持って追いかけてくる。


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