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ただのFランク、配信事故で最強扱いされたので、ビビりの巨漢を“ダンジョンの主”に仕立てて逃げます  作者: 九条 綾乃


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第14話 「真実の目」を持つ聖女様、推し活のために来日する

「......貴方が、この奇跡の出処ソースですね?」


 社長室の空気が凍りついた。ローマから来た聖女アリス。彼女の、焦点の合わない青い瞳は、震えるゲンゾウさんを素通りし、壁際に立つ俺――蓬カナタを真っ直ぐに捉えていた。


「は、はい?何のことでしょう?僕はただのマネージャーで......」


 俺は必死に「モブの顔」を作ってしらばっくれる。だが、アリスはススッと俺との距離を詰めてきた。鼻先が触れそうな距離で、彼女はくんくんと匂いを嗅ぐような仕草をする。


「いいえ、誤魔化せません。私の心は、魔力の流れを色として捉えます。......貴方の体からは、このスープと同じ『黄金の輝き』が溢れ出ている」


 彼女は手に持ったスープのカップを掲げた。


「このスープ。単に高級ポーションを薄めただけではありませんね?......製造過程で、桁外れの魔力が『分子レベル』で練り込まれています」


(......げっ)


 俺の心臓が跳ねた。心当たりがありすぎる。


(そ、そういえば......この工場の製造ライン、電気代をケチるために、俺の魔力で動く『全自動ミキサー』に変えたんだった......!)


 俺のバグった魔力回路は、出力調整がガバガバだ。ただプロペラを回すだけのつもりが、どうやら過剰な魔力が遠心力に乗って、スープの中に溶け込んでしまったらしい。つまり、あのスープの異常な効能は、俺の魔力汁エネルギーのおかげ。


 ......やばい。完全に自爆だ。俺が冷や汗を流していると、アリスは恍惚とした表情で言葉を紡いだ。


「無機質な機械を通してもなお、これほどの『聖なる加護』を液体に定着させるなんて......。こんな芸当ができるのは、伝説の大賢者か、あるいは神の愛しセイントだけ......」


 彼女はその場で膝をつき、祈るように両手を組んだ。


「探しました。......貴方こそが、現代に降臨した『生ける聖遺物リビング・アーティファクト』様ですね?」


「......ぶふっ!?」


 俺は盛大に吹き出した。なんだその恥ずかしい二つ名は。俺はただの「魔力漏れを起こしている欠陥人間」だぞ?


「ち、違います!人違いです!えーっと、そう!これは全部、そこの社長!ゲンゾウさんの力なんです!」


 俺は慌ててゲンゾウさんを背後から羽交い締めにし、盾にした。


「見ろ、この筋肉!この溢れる生命力!彼が毎日、スープに向かって『美味しくなーれ』と筋肉念力を送ったから、こんな奇跡が起きたんです!」


「えっ、僕!?な、何の話......?」


 ゲンゾウさんがキョトンとしている。アリスは、しばらくゲンゾウさんを凝視していたが――やがて、ハッと息を呑んだ。


「......なるほど。理解しました」


 彼女は、感動に打ち震えながら立ち上がった。


「貴方ほどの高位な存在(カナタ様)が、直接表に出れば世界が混乱してしまう......。だからこそ、その強靭な肉体を持つ男性(ゲンゾウ様)を『依代よりしろ』として選び、奇跡の力だけを行使しているのですね......!」


「は?」


「あぁ、なんと奥ゆかしい......!自らは影に徹し、傀儡マッスルを通して民衆を救うとは。......これぞ、無償の愛!」


 ダメだ、話が通じない。彼女の中では、「本体(俺)=神聖な精霊」「ゲンゾウさん=精霊が憑依するゴーレム」という、とんでもない解釈が出来上がってしまったらしい。


 アリスは潤んだ瞳で俺を見上げ、宣言した。


「決めました。......私、今日からここで働きます」


「はい?」


「貴方のその『神聖な隠蔽工作』、私が全力でお手伝いします!ローマには『留学』と伝えておきますので、これからは毎日、貴方の御側で(推し活を)させてください!」


「いや、帰れよ!!」


 俺の絶叫は虚しく響いた。こうして、ただでさえ面倒な俺たちの日常に、「すべてを見通す(けど解釈がバグっている)ストーカー聖女」が加わってしまったのだった。



 後日。工場の片隅で、アリスが恍惚とした顔でスープをかき混ぜている姿が目撃された。


「あぁ......今日もカナタ様の残り香(魔力)が濃厚だわ......尊い......」


 彼女が混ぜたスープは、なぜかさらに効果が倍増し、飲んだお爺ちゃんがバク転を始める事態となったが、それはまた別の話である。

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