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ただのFランク、配信事故で最強扱いされたので、ビビりの巨漢を“ダンジョンの主”に仕立てて逃げます  作者: 九条 綾乃


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第13話 倒産したポーション会社、ゲンゾウ印のスープ屋になる

「......というわけで、今日からここが僕らの新拠点、『岩鉄食品』の第一工場です!」


 東京都・港区。

 かつて『ホーリー・メディカル』の本社工場だった巨大な敷地で、蓬カナタは高らかに宣言した。彼の目の前には、整列した数百名の元・従業員たちと、その先頭でガクガクと震えている新社長・岩鉄ゲンゾウの姿があった。


「あの......カナタくん。僕、社長なんて無理だよぉ......。計算とかできないし、クレーム電話とか来たら泣いちゃうよ......」


 ゲンゾウさんが涙目で訴える。だが、俺は営業スマイル全開で、その丸太のような腕をパンと叩いた。


「大丈夫ですって!ゲンゾウさんは社長室でふんぞり返って『許可ボタンを押す仕事』をするだけでいいんです。実務は全部、優秀な元・社員さんたちと、僕が作った『業務効率化AI(ダンジョンシステム直結)』がやりますから!」


(へへへ......。計算通りだ)


 俺は心の中で、邪悪なソロバンを弾く。この工場でバカ売れする商品を開発し、安定した収益システムを構築する。そうすれば、俺は「オーナーの代理人」として、左うちわで不労所得生活を送れるはずだ。そのための初期投資と労働なら、いくらでもやってやる!二度と働かないために、今死ぬ気で働くのだ!......んっ?


「さあ、商品発表会ですよ、社長!」



 数時間後。工場の正門前には、長蛇の列ができていた。マスコミ、探索者、そしてゲンゾウファンの一般市民たち。彼らのお目当ては、本日発売の新商品だ。


 特設ステージに上がったゲンゾウさんは、筋肉でパツパツすぎて弾けそうな特注のコック服を着て、マイクの前に立った。


「......あー。......本日は、その......(帰りたい)」


 極度の緊張で言葉が出てこない。沈黙が続く。だが、集まった観衆は、それを「食に対する巨匠の厳粛な祈り」だと勝手に解釈し、静まり返って固唾を飲んでいる。


「......食え」


 限界に達したゲンゾウさんが、絞り出した一言。それと同時に、俺の合図で試食用のキッチンカーがオープンした。


「お待たせしました!新商品『ゲンゾウ印の・黄金コンソメスープ』です!」


 配られた紙コップには、黄金色に輝くスープが注がれている。その正体は、倒産した会社が抱えていた廃棄寸前の「最高級ハイポーション」を極限まで希釈し、ダンジョン産の「香味野菜(マンドラゴラの端材など)」とコンソメで味を整えただけの代物だ。


 だが、侮るなかれ。このハイポーションは、本来なら「瀕死の重傷」すら一瞬で治す軍用薬品だ。たとえ100倍に薄めたとしても、そこらへんの栄養ドリンクとは含有魔力量の桁が違う。さらに、滋養強壮に効くダンジョン食材までぶち込んでいるのだ。効かないわけがない。


「う、うまいッ!?」


 一口飲んだ探索者が叫んだ。

「なんだこれ、身体の芯から力が湧いてくるぞ!徹夜明けの疲労が一瞬で消えた!」

「お肌がツルツルになったわ!これ、飲むエステよ!」

「しかも1杯500円!?安すぎるだろ!」


 会場がどよめく。効果は劇的で、しかも原価はほぼタダ(在庫処分品とダンジョンの雑草)なので、利益率は驚異の99%だ。


「すげぇ......さすがゲンゾウさんだ!俺たちの健康まで考えてくれてるんだ!」

「一生ついていきます社長!」


 従業員たちも、自分たちが作った(混ぜただけの)商品が絶賛され、涙を流して喜んでいる。ステージ上のゲンゾウさんは、自分用の試飲カップを震える手で持っていた。(......これ、本当に飲んでいいの?変な草入れたって言ってたよね?お腹壊さない?)疑心暗鬼になりながら、恐る恐る一口すする。


「......っ、......(あ、毒じゃない。普通のスープだ。よかったぁ......)」


 安堵のため息が漏れ、身体の震えが止まる。その「震えからの静止」という一連の動作が、カメラ越しには「あまりの美味に打ち震え、至高の満足感に浸る美食家」のように映し出された。


『社長が認めたぞ!』『あのゲンゾウさんが震えるほどの味!』『完売確定!』


 こうして、『黄金コンソメスープ』は発売初日で100万食を完売。


「へへへ......勝った。これで俺の人生、上がりだ!」


 社長室の裏で、売り上げ画面を見ながらニヤける俺。もう危険なダンジョンに潜る必要もない。面倒な人間関係ともおさらばだ。これからは、このおっさんを神輿みこしにして、俺は裏で優雅なオーナー生活を送るんだ。


 だが。俺はまだ、一つだけ計算違いをしていた。「良すぎる商品(魔力)」は、新たな「鼻のいい天敵」を引き寄せるということを。


「......失礼します」


 コンコン、と社長室のドアが控えめにノックされた。秘書か?いや、アポはないはずだ。ドアが開く。入ってきたのは、神に仕える法衣のような清廉な服を着た、金髪碧眼の美少女だった。その瞳は、宝石のように青く澄んでいて、けれどどこか焦点が合っていない。


「......初めまして。ローマから参りました、聖女アリスと申します」


 彼女は、デスクで震えているゲンゾウさんの方へ顔を向け――しかし、その視線は彼を素通りしていた。彼女の焦点が合ったのは、その背後の壁際に立っていた、「ただのマネージャー」であるはずの俺だ。


「......このスープ。微かですが、『神の奇跡』と同じ波長を感じました。......貴方が、この奇跡の出処ソースですね?」


「......はい?」


 俺の背中を、嫌な汗が伝う。彼女は『盲目の聖女』。視覚を持たない代わりに、魔力や本質を心で見抜く、Sランクの探知能力者。


 俺の完璧な隠蔽工作(モブ擬態)が、この少女には通用していない?スローライフの天敵が、スープの匂いにつられてやってきてしまった。

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