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ただのFランク、配信事故で最強扱いされたので、ビビりの巨漢を“ダンジョンの主”に仕立てて逃げます  作者: 九条 綾乃


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12/27

第12話 ネガキャン動画、逆にプロモに使われてしまう

翌日。

ネット上は、ある「告発動画」の話題で持ちきりになっていた。

その動画を見た俺――よもぎカナタの第一声は、焦りでも怒りでもなく。

「……あーあ。めんどくさ」

深い、深い、諦めのため息だった。

ソファに沈み込み、スマホを放り投げる。

画面には《憂国の守護者》とかいう、寒すぎて指先が凍るアカウント名。

動画の内容はこうだ。

――“ダンジョンの主”岩鉄ゲンゾウが、モンスターを洗脳している。

――従わない個体は処分。

――その目的は地上侵攻。

――つまりあいつはテロリスト。

(最悪だ。これ、対応間違えるとゲンゾウさんが炎上して、ギルド追放……いや、最悪「管理権剥奪」まである)

俺の脳内で、クズな計算機が高速回転する。

ゲンゾウさんが失脚したら、俺の“盾”が消える。

盾が消えたら、九条シオリさんの視線が俺に戻る。

視線が戻ったら、俺のスローライフが死ぬ。

(……いや待てよ? ここでゲンゾウさんを見捨てて、騒動のドサクサに紛れて俺だけ田舎に逃げるのは……)

一瞬、悪魔的な選択肢が脳裏をよぎった。

俺はただ、カップ麺を啜って寝ていたいだけなのだ。

面倒な英雄ごっこなんて知ったことじゃない。

——のに。

視界の端。

部屋の隅で体育座りになっている、巨大な背中が目に入った。

ゲンゾウさんだ。

《施設管理課/保全班》――通称“バックライン”。

ギルドの舞台裏で、結界点検から回線保全、封鎖、衛生処理まで「当たり前」を積み上げる現場のプロ。

その人が今、巨体を丸めて泣いている。

「ぼ、僕……テロリストなんて言われてるよぉ……ううっ……」

……いやもう。

心が弱い。優しすぎる。

この人が“侵攻”なんて言葉を口にできるわけがない。侵攻より先に「床が滑る」って注意するタイプだ。

「…………チッ」

俺は盛大に舌打ちした。

ここで逃げたら、この気のいいおっさんは社会的に潰される。

俺が勝手に巻き込んだくせに、用済みになったらポイ捨て?

(……あーもう、ダメだ!

そんなことしたら寝覚めが悪くてカップ麺が喉を通らねぇ!

俺の安眠のためだ。仕方ねぇだろ!)

結論。

俺の「美味しい食事と安眠」を守るためには、不本意ながらこのおっさんを救うしかない。

「……ゲンゾウさん、泣くのやめてください。湿気で部屋がカビます」

「か、カナタくん……僕、もう終わりかなぁ……」

「終わりませんよ。……俺の睡眠時間を奪った連中に、きっちり落とし前つけさせるんで」

俺は気だるげに起き上がり、復讐という名の事務処理を開始した。


一方、ホーリー・メディカル本社。社長室。

毒島社長と権田原ごんだわら副支部長は、高級ワインを片手に、告発動画の再生数が伸びるのを眺めていた。

「ふははは!見ろ、すでに100万再生だ!」

「ええ、チョロいものですよ。これでゲンゾウは『危険人物』として認定され、ギルドから追放。ダンジョンの管理権は再び我々の手に戻る……」

二人は勝利の美酒に酔いしれていた。

——が。

コメント欄を開いた瞬間、毒島の顔から笑みが消えた。

『なんだこれ』

『ゲンゾウさん、指揮官としても有能すぎない?』

『オークへの指示出しのキレがヤバい。これ襲わせてるんじゃなくて「暴れるな」って止めてる映像だろ?』

『捏造乙。本物のゲンゾウさんの筋肉は、もっと慈愛に満ちた動きをするから』

『洗脳? いやどう見ても「しつけ」です。ありがとうございました』

「……は?」

毒島が声を裏返す。

予想していた罵詈雑言が一つもない。

むしろ「貴重な未公開映像キター!」とファンが歓喜している。

「な、なんだこれは!? なぜ炎上しない!? なぜ奴を叩かないんだ!?」

「ま、待て毒島くん! 『ゲンゾウCH』が緊急生配信を始めたぞ!」

画面が切り替わる。

真っ黒な背景。

そこに座るのは、俺——蓬カナタ。

表情は“悲痛”。演技レベルMAX。


「皆さん、こんにちは。マネージャーのカナタです。……今、世間を騒がせている『告発動画』について、お話しさせてください」

コメントが一気に流れる。

『カナタくん!』

『大丈夫かー!?』

『信じてるぞ!』

『バックラインに喧嘩売るとか正気か?』

俺は深くため息をつき、手元のキーボード(※雰囲気用)を叩いた。

「結論から言います。あの動画、AIを使ったディープフェイクです」

——まずはジャブ。

「ほら、ここ。オークの指の本数が6本になってるでしょ? 雑な生成AIを使った証拠です」

(ふぅ。ここまでは“常識”で殴れる。さっさと終わらせて二度寝してぇ)

だが、ここからが本番だ。

俺は声を潜め、さも“恐ろしい事態”が起きたかのように演出する。

「そして……ここからが重要なんですが」

コメントが止まる。

人は“重要”という単語に弱い。便利。

「どうやら、ダンジョンの管理システム自体が『ゲンゾウさん』への悪意ある攻撃を感知して、自動防衛モードに入ってしまったみたいなんですよ」

『え?』

『ダンジョンがキレた?』

『バックライン守護システム発動!?』

「ええ。僕らも止める間もなく、勝手に逆探知を始めちゃって……」

——もちろん俺がやってる。

俺の『魔力回路』は、生まれつき出力がバカでかすぎて、普段は筋肉フィジカルの制御にしか使えない。

繊細なハッキング? 知らん。

でも今は、ダンジョンという“神の演算機スーパーエンジン”が手元にある。

俺はそこに無尽蔵の魔力を流し込み、セキュリティを——

「へし折った」

鍵を開けるのが面倒だから、ドアごと爆破したようなものだ。

すべては、後ろで震えているおっさんを助けて、俺が気持ちよく寝るためだ。

「おっと、出ました。ダンジョン様が犯人を特定したようです(棒読み)」

俺は涼しい顔で、カメラに資料を掲げた。

「発信元は……港区赤坂。『ホーリー・メディカル本社ビル』最上階、社長室のWi-Fi」

『草』

『社長室www』

『逆探知は草』

『バックラインというよりデバッグライン』

毒島と権田原の顔色が、モニター越しにでも分かるほど青くなる。

俺はニコッと笑って、追い打ちをかけた。

「さらに、ダンジョンシステムが『主への敵対行動の証拠』として、過去の音声データを勝手に復元しちゃいました。……えー、再生しますね(ポチッとな)」

——プツッ。

——ザザッ。

『ふははは!見ろ、すでに100万再生だ!これで国民も目を覚ますだろう!』

『これでゲンゾウは危険人物として認定され……ダンジョンの管理権は、再び我々の手に……』

……全世界に、悪巧みの生音声がクリアな音質で放送された。

社長室に、死のような沈黙が落ちる。

終わりだ。

彼らは俺の睡眠時間と、ゲンゾウさんの平穏を奪った代償として、社会的地位のすべてを失った。

バンッ!!

突然、社長室のドアが乱暴に開かれる。

入ってきたのは東京地検特捜部。

そして、その後ろに——鬼の形相の九条シオリが立っていた。

「毒島社長、そして権田原副支部長。……ご同行願います」

「し、支部長……!? ち、違うんだ! これは誤解で——!」

「言い訳は署で聞くわ」

シオリの声は氷みたいに冷たい。

「……あなたたちがポーション利権のために、どれだけダンジョンの安全化を妨害していたか。カナタくんから“証拠データ(裏帳簿)”が届いているのよ」

「やめろ!離せ!俺は社長だぞ!俺がいなきゃポーションは誰が作るんだぁぁぁ!!」

絶叫が響く。

その頃、俺は配信のモニターを見ながらポテトチップスの袋を開けていた。

「ふぅ……ドナドナされていったか。ざまぁみろ」

ボリボリ食いながら、俺はカメラに向かって“営業用スマイル”を作る。

「というわけで、ゲンゾウさんはシロです。……あ、ゲンゾウさん、もう出てきていいですよ。怖くないですから」

画面の端から、涙目で震えるゲンゾウさんが顔を出す。

「ほ、本当かい……? 僕、逮捕されない……?」

「されませんよ。……まったく、世話の焼ける人だなぁ」

俺は彼の背中をポンポン叩いた。

口では文句を言いながらも、この気のいいおっさんが無事だったことに、少しだけホッとしている自分がいる。

(よし。これで最強のゲンゾウさんの安全性は確保された。これでまたしばらく、俺は何もしないでゴロゴロできるはずだ……)

心の底から安堵した。

——が。

俺の願いとは裏腹に、世間の評価は斜め上の方向へ爆走する。

『カナタくん、有能すぎる』

ゲンゾウを守るためにシステムすら手懐ける忠臣』

『この二人、最強のコンビだろ』

(……なんか、俺の好感度まで上がってね?

やめろよ。俺はモブでいいんだよ……!)

スローライフへの道は、俺が頑張れば頑張るほど、なぜか遠のいていく気がした。


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