表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年Fランクの荷物持ち、配信切り忘れに気づかずSランクボスを瞬殺してしまう ~「え、これ放送事故ですか?」と言ってももう手遅れな件~  作者: 九条 綾乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

第10話 清掃スタッフが本気を出したら、ダンジョンが『夢の国』になった件

「......嫌だ。もう嫌だ、カナタくん。あそこの通路、血糊でベトベトしてるし......スケルトンが生臭いし......。僕、潔癖症なんだよぉ......」


 新宿ダンジョン、最深部に位置する『支配者の間』。岩鉄ゲンゾウ(45歳)は、深紅の玉座に座らされながら、涙目で訴えていた。重厚なフルプレートアーマーに身を包み、玉座に深く沈み込むその姿は、一見すると「血の粛清を命じる冷酷な魔王」にしか見えない。だが、言っていることはただの心優しき清掃スタッフの愚痴である。


「まあまあ、ゲンゾウさん。せっかくダンジョンの王になったんですから、自分好みに改装リフォームしちゃいましょうよ」


 俺、蓬カナタは、玉座の傍らでふんぞり返りながら、空中に浮かぶ半透明のホログラム画面を操作していた。ダンジョンの管理権限はゲンゾウさんにあるが、パスをつないでいる俺が実質的な管理者アドミニストレータだ。


「え?改装って......壁紙を変えるとか?」


「もっと根本的なやつです。......ゲンゾウさん、『安心安全で、清潔で、みんなが笑顔になれる場所』がいいんですよね?」


「う、うん。......できれば、ディズニーランドみたいな......」


「了解。じゃあ、設定書き換えますね」


 俺はニヤリと笑い、キーボード(仮想)を叩いた。


【コマンド:ダンジョン内環境設定】【敵対レベル:OFF】【衛生レベル:MAX(抗菌・消臭・滅菌)】【モンスターAI:ホスピタリティモードへ変更】【BGM:癒やしのクラシック】


 ――エンターキー、ッターン!


 


 数時間後。俺は、いつものアクションカメラを片手に、全世界に向けてライブ配信を開始した。


 タイトル:【緊急生放送】ダンジョンの主になったので、ルームツアーしてみた。


『うおおおおお!始まった!!』『ルームツアーってレベルじゃねーぞwww』『ゲンゾウさん、今日はどんな伝説を見せてくれるんだ!?』


 開幕から同接は500万人。画面には、ビシッとタキシード(に見える漆黒の鎧)を着込んだゲンゾウさんが映し出されている。


「......あー、テステス。......えー、本日は、我が家の......いや、我が城の、改善報告を行う......」


 ゲンゾウさんは、俺のカンペを棒読みしているだけだが、その重低音ボイスが響くと、視聴者コメントが『王の勅命キターーー!』と沸き立つ。


「まずは、エントランスだ。......入れ」


 ゲンゾウさんが指をパチンと鳴らす(俺が裏で音を足した)。すると、地下1階の薄暗い通路が、まばゆい光に包まれた。壁面の不気味な苔が『発光苔イルミネーション・モス』に変化し、シャンデリアのように輝き出す。そして、奥から現れたのは――蝶ネクタイをつけたスケルトンの軍団。


 カタカタカタカタ!


 彼らは一糸乱れぬ動きでお辞儀をし、探索者たちの重いリュックを恭しく受け取った。


『は??????』『スケルトンが荷物持ったぞ!?』『ポーターの仕事奪われたwww』『動きがホテルマンより洗練されてるんだが』


 俺はカメラマンとして、驚愕する探索者(たまたま居合わせた一般人)にインタビューを試みる。


「すみません、今のお気持ちは?」「い、いや、斬りかかられると思って構えたら、冷たいお絞りを渡されて......。え、これ使っていいんすか?」


 探索者が顔を拭くと、スケルトンは「ごゆっくり」と言わんばかりに顎を鳴らし、優雅に去っていった。


「......次だ」


 ゲンゾウさんが歩を進める。やってきたのは、かつて「毒の沼地」として恐れられた第15階層。そこには、心地よい湯気が立ち上っていた。


「......毒素を分解し、硫黄とミネラル成分だけを抽出した。......俗に言う、『源泉かけ流し』だ」


 嘘は言っていない。俺が成分調整した結果、致死性の猛毒沼は、美肌効果抜群の超高級温泉に生まれ変わっていた。沼の中では、スライムたちがプルプルと震えながら、入浴客モンスターの背中を流している。いや、よく見ると、恐る恐る足を踏み入れた勇敢な探索者のおっさんが、スライムにマッサージされて恍惚の表情を浮かべていた。


『毒沼が温泉にwwwww』『スライムのマッサージとか絶対気持ちいいやつじゃん』『行きてぇええええ!』『ここ本当に新宿ダンジョンかよ!?』


 カメラをゲンゾウさんに戻す。彼は、満足そうに(本当はスライムが怖くて直視できないので目を閉じて)頷いた。


「......戦いだけが、強さではない。......休息こそが、次なる闘志を生むのだ」


『深い......』『さすが支配者、福利厚生まで完璧だ』『ゲンゾウ・リゾート爆誕』


 そして極めつけは、第30階層のボス部屋。かつて探索者を焼き尽くしたオーク・ジェネラルが、コック帽を被り、巨大な鉄板(元・冒険者の盾)の上で、霜降りのマンガ肉を焼いていた。


「いらっしゃいませぇー!焼き加減、どうするブヒ!?」


 オークが流暢な日本語で叫ぶ。その周りには、テーブルと椅子が並べられ、女子高生のグループが「オークさん、映え写真撮ってー!」とはしゃいでいる。ゲンゾウさんは、その光景を見て、引きつった笑みを浮かべた。


「......食え。......俺の奢りだ」


『太っ腹すぎるwww』『オークのBBQとか一生に一度は食いたい』『もうこれテーマパークだろwww』『入場料いくらですか!?』


 コメント欄の勢いが止まらない。同接はついに2000万人を突破。配信の最後、俺はカメラをゲンゾウさんのアップにした。


「ゲンゾウさん、最後に視聴者へ一言お願いします!」


 ゲンゾウさんは、震える手でマイクを握り締め、心の底からの本音を漏らした。


「......もう、誰も傷つかなくていい。......みんな、仲良くしてほしい......(頼むから僕を襲わないで)」


 後半の声は小さすぎてマイクに入らなかった。その結果、世界中に届いたのは「聖人君子のような慈愛のメッセージ」だけだった。


『泣いた』『神かよ』『ノーベル平和賞確定』『今日から俺、ゲンゾウ推しになるわ』


 


 一方その頃、地上のギルド本部・支部長室。九条シオリは、頭を抱えてデスクに突っ伏していた。彼女の目の前のモニターには、『スライム温泉』でくつろぐ探索者たちの映像が流れている。


「......理解できない。ダンジョンの生態系エコシステムが、たった一人の意志でここまで書き換わるなんて......」


 彼女はブツブツと独り言を漏らす。これまでのダンジョン学では、モンスターは「人類の敵」であり、殲滅すべき対象だった。だが、岩鉄ゲンゾウはそれを「従業員」に変えてしまったのだ。


「『ホスピタリティ・モード』......?そんな術式、古代文献にも載っていないわよ。彼は一体、どれほどの次元で魔力を制御しているの......?」


 シオリの眼鏡がズレる。彼女の論理的思考は、ゲンゾウ(と裏でイジっているカナタ)の出鱈目な所業によって、完全にオーバーヒートを起こしていた。


「......でも、悔しいけれど快適そうね。今度、視察プライベートで行ってみようかしら......」


 彼女はこっそりと、「週末新宿ダンジョン予約」で検索をかけ始めた。


 


 そして、都内某所の探索者シェアハウス。『白銀の剣』のリーダー、エリナは、スマホの画面を食い入るように見つめ、感涙にむせび泣いていた。


「ああ......なんと慈悲深い......」


 画面の中で、ゲンゾウが(ビビりながら)震える手でカメラに手を振っている。


「圧倒的な武力でねじ伏せるのではなく、愛と対話で魔物を教導するとは......。これこそが、真の王者の姿。私たちが振るっていた剣など、野蛮な鉄屑に過ぎなかったのね」


 彼女は涙を拭い、傍らにいた魔法使いのルナに同意を求めた。


「見たか、ルナ。あのオークの笑顔を。あれが、かつて私たちを苦しめた殺戮マシーンだなんて信じられるか?」


「......えっと、エリナ?あれ、単に美味しいお肉焼いてチップ貰って喜んでるだけに見えるんだけど......」


「黙りなさい。貴様には、あの『深淵なる微笑み』が見えないのか」


 エリナは胸に手を当て、ウットリと呟いた。


「私もいつか、あんな風に......モンスターとBBQができるような、懐の広い女になりたい......!」「......(ダメだこの人、完全に信者だわ)」


 ルナは深く溜息をつき、そっとスマホの電源を切った。


 


 配信終了後。俺は、オーク特製のステーキ丼を頬張りながら、ホクホク顔でスマホを見ていた。


「いやー、大成功ですねゲンゾウさん!スパチャの額がエグいことになってますよ!これで一生分のカップ麺代は確保しましたね!」


「う、うん......。でもカナタくん、あそこのオーク、包丁持ったままこっち見てるよ......?食べられないかな......?」


「大丈夫ですって。あれは『おかわり要りますか?』の合図です」


 新宿ダンジョンは、一夜にして世界一危険な魔境から、世界一予約の取れない『ファンタジー・リゾート』へと変貌を遂げた。


 だが、俺たちは知らなかった。モニターの向こう側で、ポーションメーカーの株価チャートが垂直落下し、顔を青ざめさせている大人たちがいることを。


「......ふざけるな。怪我人が出ないだと?回復薬の在庫、どう処理すればいいんだ......ッ!」


 画面の向こうで、憎悪の火種が燻り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ