表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八咫烏 ―YATAGARASU― ~邪神と巫が入れ替わる~  作者: 柴犬ジョニー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/29

第1章 クラン ・ 第2話 五ツ詣り ③

 霧の中、木造の建物に行き当たった。四歳児の俺は泣き出しそうに夢中で戸を叩いた。

 すると、音もなく戸が開いた。戸の向こうは手摺の無い外階段で、危うく転げ落ちそうになった。

 十五歳ぐらいの綺麗なお姉さんが俺に(うやうや)しくお辞儀をして、御机(みつくえ)の上のくきやかに白い酒坏(さかづき)に酒を()いだ。

 白塗りの化粧をした稚児達が御馳走を運んで来た。稚児は額中央に朱で印を付けている。

 俺の前に御饌(みけ)が山のように供えられた。

 酒を注いだ少女は髷に日蔭(ひかげ)という飾りを付けて胸まで垂らし、白い単衣と赤い袴に豪華な刺繍の絹の着物を重ねている。巫女さんの装束だ。

 篝火(かがりび)に照らされた斎庭(ゆにわ)では、黒い束帯(そくたい)姿の大人達に料理と酒が振舞われ、宴が催されていた。夜闇に朱塗りの社殿と楼閣が浮かぶ、赤と黒が際立つ世界。

(ツルギ)久斯(クシ)はどこにいる? (イチ)、酒を()いでくれ…」

 俺の口が勝手に動き、壱と呼ばれた少女は、ハッとしたように俺を見上げた。

「はい、多伎(タキ)さま…」

 俺は四歳の子供じゃなかった。黒い着物を着た三十代の男だった。

 俺は自分の意識と関係なく酒をがぶ飲み、壱が酒を注ぎ足した。

 酒の表面に映り込んだ顔は俺と全く別人で、自分で言うのも気恥ずかしいけど、百戦錬磨の戦士みたいだった。

 俺の胸から下は墨でマダラに染めたような皮膚で、両手の爪も黒かった。目の下の隈が濃く、背に黒い翼があり、額に黒のターバンを巻いていた。

 胸元にはあの翡翠の勾玉と碧玉製管玉の首飾りがあった。

 俺の発した声は低く、よく透る。

「壱、来い。奴等が来た…!」

 俺は腰に吊り下げた大刀(たち)を抜き、壱の脇の下から大胆に手を差し入れ、抱き寄せた。

 俺の最初の体験で、その部分はとても生々しい。

 大刀はずっしり重く、鋭い刃がギラギラと光る。その大刀は『伊都(イツ)()尾羽張(ヲハバリ)』と言う。

 宴はいつの間にか、殺戮の場に変わった。女達の悲鳴が耳をつんざく。

 黒い瘴気が押し寄せた。

 鬼どもが涎を垂らし、瓦屋根が載った塀を乗り越えて侵入してきた。

 男達が応戦するが、武器を持つ鬼もいる。鬼は誰彼構わず斬りまくり、年寄りや女子供までも殺して、大勢の人間が血だらけで倒れていった。

 その場には、矢が突き立ったり斧で躰を切断されたり、頭を砕かれたりした死体が身分階級の区別なく散乱した。血溜まりが赤い海を造り出した。

 いつの間にか火が放たれ、俺の周辺にも火が回ってきた。

 俺は鎮火符を投げて火を消した。

 俺の中で怒りが沸き、内から身を焼くようだ。

 どこを見ても鬼、鬼、鬼の群れ。仲間を踏んで塀をよじ登り、波のように押し寄せた。

 鬼は容易に死なず、多勢に無勢。応戦していた男達も鬼に囲まれ、精気を吸い取られて萎びていく。

 中には生きたまま、顔や腹を齧られている者も居る。

 俺も大刀を抜いて鬼を斬った。一撃で鬼どもが塵に変わる。

 俺の強さは凄まじい。敵う相手はいない。俺は鬼どもを次々と塵に変えた。

 だが、数が多過ぎてキリがない。

 鬼どもは腐った黒い血を吐き、斎庭を穢した。

 突然、俺の躰が宙に浮いて空を飛んだ。

 俺は黒い翼を羽ばたかせた。樹々を避けて旋回し、ローリングして天に腹を、地に背中を向けて、また天と地が入れ替わり、急降下して草や葉を散らして飛ぶ。

 壱は俺にしがみ付いている。

 俺の大刀が黒い靄を切り裂いた。

 鬼どもがバラバラに切断されて飛び散った。

 俺の正面に白波打ち寄せる断崖絶壁、そこに立つ一本松の巨木が迫った。

 空は雷雨の直前のように暗雲垂れ込めている。

 瘴気の元凶の黒龍が上空で火炎を噴く。口を大きく開き、毒牙を覗かせ、下顎を揺らしながら降りてくる。

 怨念、邪気の塊、雑然とした邪霊の寄せ集め、禍々しいものが入り混じっている。

 その翼、四肢の鉤爪、鯉のような鱗、全てが漆のように黒く艶やかに光る。

 俺は壱を地面に降ろし、おおお…と叫びながら大刀を振り上げ、そいつに挑んでいく。

 黒龍の尾がうねり、俺を弾き飛ばそうとする。

 俺はそいつの尾を切断し、跳んで頭部を狙う。

 複数連なった人面の一つ、俺の大刀が切り込み、鼻の下まで裂いた。

 俺の脇腹にも黒龍の鉤爪が食い込む。

 互いに血飛沫が飛ぶ。

 俺の翼から黒い羽根が散る…。



「よーちゃん。よーちゃん…。これ、黎明(よあけ)……」

 天から声が聞こえてきた。

 俺は四歳児の自分に戻って、目を覚ました。トヨばぁが俺を揺さぶっていた。

「異世界の方に呼ばれてしもたな?」

 トヨばぁが尋ねた。

 俺の息が詰まった。トヨばぁの背後に、さっきの黒装束の俺が立っている。

 トヨばぁは気付かない。俺の心臓を絞めつける恐怖。

 目の下に隈がある黒ターバンの男が、俺の方に右手を伸ばしてきた。

「トヨばぁ…。ぼく、おとなの男の人だったよ…。背中に黒いはねがあった…。ゾンビが一杯いた…。あれは何?」

 俺は泣き始めた。

 トヨばぁの肩越しに多伎の手が伸びてきて、俺を掴もうとしている…。

 俺は両手で頭を庇う。

 多伎の右手が俺に届こうとする瞬間、俺はギュッと目を閉じた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ