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八咫烏 ―YATAGARASU― ~邪神と巫が入れ替わる~  作者: 柴犬ジョニー


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第2章 ハイエイタス ・ 第4話 多伎の一つめの目的 ②

 ユウタとダイキが俺の側から離れない。面倒臭い。

「あんまり俺に近寄らない方がいい。俺の強い霊気に引かれて、やばい邪霊が寄ってくる。中には特級クラスの邪霊も来るから。巻き込まれないようにしろ…」

 俺が警告しても二人は信じない。

 それどころか、爆笑した。

「おー。弥栄流退魔道の宗家のお孫さんらしい発言じゃないの!」

「剣の儀がテレビ中継されて、お前もやっと退魔師らしくなってきたなー!」

 変なところに感心する。

 俺はがっかりした。

「冗談なんか言ってない。お前らがどうなっても、俺は助けねぇからな」

 俺はコピーした資料をリュックに詰め、図書館を出た。

「待てよ。黎明…」

 ユウタとダイキは俺を追いかけてきた。

 たぶん、桃井虹のライブの話。

 俺の直感では、黎明もチケットの抽選で外れている。もう終わった話だ。



 黎明の従兄(いとこ)の千歳が来た。

 千歳は大学院に進み、論文を書く為にこの図書館にも時々来ている。

 院生は私服。千歳は全体に黒っぽい高級ブランド系コーディネート。

 俺達は互いを意識し合いながら一直線に歩いて行き、擦れ違った。

 擦れ違う瞬間、俺はそっぽを向いた。

 千歳は少しやつれ、鋭く尖るような眼差しを向けた。

「黎明…。…いや、違う。八咫烏の化け物…」

 千歳が俺を呼び停めた。

 俺は立ち止まったが、振り返らない。

 千歳は弥栄宗家に俺を斬るよう命じられ、鬼裂國(おにさきくに)津名(つな)太刀(たち)を受け取ったはずだ。

 なのに、今日は持っていない。

 笑わせるな。そんな甘ちゃんで弥栄宗家を継ぐつもりかよ。

 俺は嘲笑したくなる。毒のある笑いが漏れてしまいそうだ。

 千歳は俺につまらない批判をした。

「やっぱり、お前は黎明じゃねーな。あいつと図書館で会ったことがない。もう少し上手く黎明を演じたらどうだ?」

 千歳は学内で有名だ。成績優秀、スポーツ万能、知らない人はいない。

 ユウタとダイキは千歳の言葉を聞き、耳を疑う。

 化け物? 黎明を演じる? どういうこと? 二人は顔を見合わせ、首を傾げた。

 千歳は憎々しげに俺を睨んだ。

「…化け物。お前、何調べてんだ?」

「千歳兄さんには関係ないよ」

 俺は千歳と視線を交えることなく、足を速めてその場から去った。



 その後、俺はユウタとダイキを上手く巻いて、(みやこ)をブラブラした。

 それは千年以上も眠っていた俺が、生身の人間としての感覚を取り戻す為に必要なことだった。

 俺が眠っている間に世の中は変化し続け、まるで違う惑星に来たみたい戸惑うことばかり。

 食べ物は豊かにある。でも、飽食が過ぎる。

 俺は若者に人気のカフェで、モカ何タラというドリンクを飲む。

「ウェッ‼」

 激マズ! 甘ったるすぎて吐きそう。こんなもの飲む奴は味覚が破壊されてるだろ!

 俺は飲食店の厨房を透視した。食品廃棄物の量を見て驚く。

 俺は見た目だけ二十歳で、中身は千歳の老人みたいだな。自分で笑ってしまう。

 こういうのを浦島太郎現象って言うんだな。

 毎日、俺は黎明の記憶や習慣を頼りに、新時代と悪戦苦闘する。

 まず、コンビニでキャッシュレス支払いが難しい。どうして物々交換をやめてしまったのか?

 自動販売機でお茶・ジュースの買い方を練習する。

 横断歩道は恐怖だ。人が多過ぎて歩きにくい。エスカレーター、エレベーター、怖すぎて出来れば乗りたくない。

 歯を磨くのに歯磨き粉をほんのちょっと歯ブラシの先に出そうとして、にゅるにゅる~と沢山出てしまう。歯磨き中に口の中に唾が溜まってきて、歯磨き粉の泡と混ざって…、ウェッとなる。

 スマホは便利で面白くて、とてもいい。

 この世界のパンツというやつが落ち着かない。こいつが一番やばい。

 倭人の末裔なら、フンドシを締めてくれ‼



 俺の帰宅は午後七時頃になった。

 地下鉄の駅から八島家が暮らすマンションまで徒歩十分くらい。

 繁華街を離れ、途中にコンビニが二軒、そこまでは人通りも結構ある。表通りから住宅街に一本入ったところで、人通りがほぼなくなる。そこから先はポツン、ポツンと街灯があるだけの暗い道だ。道幅は急に狭くなり、車が擦れ違う為に片方が停まるくらいの狭さ。

 俺の側にスッと車が寄って来た。黒いSUVだ。

 車が怖い俺。一瞬焦って避けようとした。

 でも、本能的な感覚が働いて俺は察した。こいつらは……退魔師だ。

 俺を脇に寄せるように車が一台停まり、前後にわらわらと黒装束の男達が湧いた。

 その退魔師ども、見慣れた黒の羽織袴を着ているのに顔だけ隠そうとして、頭巾と白い仮面を着用していた。仮面の二つ孔の奥で眼が光っていた。

 馬鹿だな。俺を襲う退魔師が弥栄流退魔道の一門の他にいるわけないのに。

「お前ら、次期宗家の…千津雄の配下だな」

 弥栄宗家は知ってか知らずか。

 俺は弥栄流の退魔師の全員の顔と名前を知っているし、仮面を付けていても全員の名前を当てられるぞ。

 約二十人。俺を前後挟み撃ちにしたつもりだ。市街地でいきなり抜刀してきた。

 こいつらは俺を消せと、千津雄の指令を受けていた。

 この躰が弥栄宗家の溺愛の孫・八島黎明でも、そんなことはお構いなしだ。

 俺は黒い翼を羽ばたかせ、ふわりと車の屋根に飛び乗った。

 最初の一人の斬り込みは空振りに終わったが、次の退魔師は俺が避けた方向へ、ボンネットに飛び乗って斬りかかってきた。

 刀という術具に対邪霊モード・『風滝(フウロウ)』を被せて斬りにくる。

 俺は異次元から愛刀・伊都之(イツノ)尾羽(オハ)(バリ)を取り出して抜いた。

 俺の伊都之尾羽張は対邪霊モードから通常戦闘モードにしておく。

 受け太刀をする程でもない。俺は余裕で相手の刀をすかし、上段からそいつの右腕を切り落とした。

 血飛沫が車に飛ぶ。

 そいつはフロントガラスに突っ込み、ガラスに顔面をぶつけた。

 仲間が大怪我をしたのに、そいつらは(ひる)まない。連携を取って、俺に攻撃を仕掛けた。

「考えろ。黎明を斬れば、黎明が死ぬ。私は死なない…。それでもいいのか⁉」

 誰も一声も発しない。

 俺は車の屋根から飛び降り、面白いから相手をしてやった。

 こいつらの剣術はそこそこの腕だ。連携も上手い。

 ただ、その程度では無理だ。黎明の運動神経と俺の霊眼があるのだから。

 お前達の攻撃は全て俺に読まれている。擦り傷すら付けられない。

 俺は易々と打ち伏せていく。

 これは時代劇とは違う。

 時代劇はカメラ映えするように格好いい殺陣(たて)が組まれているが、本当の剣術では見やすい動き、止まった動きが無い。一つの呼吸のうちに防御と攻めがある。

 深く沈み込むほど斬り込まない。躰の中心をガラ空きにして左右端まで刀を振らない。一つのポジションで連続して斬り合わない。

 目まぐるしく位置が入れ替わる。

 俺の躰は弥栄宗家仕込みの黎明の剣術で、全自動で動く。

 何合も打ち合いが続くことはない。優れた方が一撃で決めてゆく。

 そっちが本気なら、俺も容赦はしない。お前らを切り刻むまでだ。

 命の保障はしない。

 五分も持たずに、約二十人の退魔師が血溜りの中に倒れた。

 最後まで逃げなかったことは評価する。だが、無駄に血を流しただけだ。

 慌てて車が発進した。

「退魔師ども。私の呪力が物質世界に影響を及ぼさないとでも思っているのか?」

 俺は逃げようとする黒い車に向け、血を浴びた指を向ける。

「『九雷堕(クライオツ)』!」

 刹那、世界が暗転し、稲妻が閃いた。


 車が黄泉の雷の直撃を受けて跳ね上がった。

 小型爆弾が炸裂したみたいに車が吹っ飛んで、派手に縦回転した。

 鼓膜を破りそうな轟音。

 車は大破し、ガラスと車体の破片をアスファルトの道路一帯に吹き散らした。

 ぐしゃぐしゃになって住宅街の塀を破壊してめり込み、裏返った状態で火を噴いた。

 静かな住宅街で炎上、庭木に燃え移って火災。

 車が大破する寸前、運転していた退魔師と後部席でふんぞり返っていた退魔師が脱出した。

 大怪我を負ったようだ。火だるまになって転げ回った。

 全員、戦闘不能。立ち上がることも出来ない。

 俺はニヤニヤしながら飛翔する。

「つまらんな。この程度じゃ、私にダメージなんて負わせられないぞ…」

 俺は翼を羽ばたかせ、マンションの八階まで飛ぶ。

 車の中に居た奴等は、弥郡に居る千津雄に報告出来ただろうか?

 恐らく、襲撃失敗の報告の前に重傷を負い、あとは市民の119番通報を待つのみだ。

 黒装束の負傷者達をどう言い訳するのだろう。

 片手をなくした者、指を斬り飛ばされた者、その生涯保障は千津雄がするべきだな。

「千津雄…。私は手加減してやった。殺す手前で止めた。有難く思え…」




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