表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八咫烏 ―YATAGARASU― ~邪神と巫が入れ替わる~  作者: 柴犬ジョニー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/53

第2章 ハイエイタス ・ 第4話 多伎の一つめの目的 ①

 翌日、俺は可雲(かも)(がわ)学院の図書館に行った。館内は広く、整然と書架が並ぶ。蔵書はかなり豊富だ。

「あいつが勉強なんて、絶対嘘だ!」

 ダイキとユウタが廊下から覗く。

 柱の影から影へ飛び移り、新米忍者みたいに下手くそな尾行でついてきた。

 俺は完全無視した。

 黎明(よあけ)の人間関係が破綻しようと、俺の知ったことじゃない。

 俺は吹き抜けの階段を上がり、受付カウンターの奥、貸出禁止の専門書がずらりと並ぶ中二階へ入る。古文書の匂いがする。どれも分厚くて重たい本ばかり。

 こんな本を読む奴は大概、変人と呼ばれているだろうな。

 俺は図書館のパソコンで検索キーワードを入力した。

八坂瓊曲玉(ヤサカニノマガタマ)…」

 俺は吐息を漏らす。

 とある首飾りを探している。それが行方不明になってから相当長い年月が経過した。

 それが今、何と呼ばれているか、俺は正確に知らない。

 もしかしたら、八坂瓊曲玉と呼ばれる三種の神器の一つかも知れないし、それと全く別物かも知れない。

 俺は一番上の棚から順に本を手に取って、片っ端からザッと読む。

「写真が無いな…。八坂瓊曲玉の写真って無いの?」

 俺の嘆き。

 八坂瓊曲玉は宮中の奥深く、秘められた場所にある。誰も見たことがない。厳重に(はこ)に納めて封印されていると言う。

 俺の霊眼でも視ることが出来ない、強力な呪力の磁場にある。

 ところが、ある本に八坂瓊曲玉の想像図というのがあった。

 それは出雲の()(せん)(ざん)産の碧玉製管玉、(こし)(いと)()(がわ)産翡翠(ひすい)勾玉、国産水晶の切子(きりこ)(だま)、赤メノウの玉などで出来た首飾りだった。

 違うかもな。俺の探す首飾りに赤い玉は含まれていないと思う。

 八坂瓊曲玉の『()』には赤いという意味もあるが、基本的に美しい(たま)のことだ。

 俺が多伎と呼ばれていた頃、首から下げていた碧玉製管玉と翡翠勾玉の首飾り。

 遥かな昔、祖父の形見を一部組み込んだものだった。それと同種の首飾りを探している。全体がグリーン系の濃淡で出来ている。

 あれは筑紫から完成品を仕入れた。

 祖父の率いる八雲と隣国の倭吉(ワキ)で数セットを同盟の象徴として分け合ったものだ。

 俺達は弥の御身の一族でその首飾りを受け継いだ。

 俺と日河(弥の西海)・剣(弥の藤木・八ヌ弥)の家系で代々継承し、俺と剣の死後は、八雲の大御身の末裔が継いだ。

 それは俺達の血統(リネージュ)の象徴だった。

 俺はその首飾りの一つを血眼になって探している。

 比較する為、生前の自分が持っていた首飾りの勾玉を、黎明を通じてこの世界に持ち込んだ。

 俺は革紐を通してチョーカーにした翡翠の勾玉を取り出し、じっと眺めた。



 その時、ユウタとダイキが邪魔をしてきた。

「黎明、何唸ってんの?」

「へぇ、きれいな勾玉だな。黎明、そんなの持ってたっけ?」

 ユウタとダイキが俺の両側に立っていた。

 その時、俺は八坂瓊曲玉の想像図のページを開いて片手に持っていた。

 彼等は俺の手にした本を見て、幽霊を見たような顔で驚いた。

「ゲッ‼ 黎明が歴史の勉強してるぅー⁉」

「うわ! やっぱり別人になってるぅー!」

 酷いな。黎明、ちょっとは勉強しとけよ。こんなに驚かれてるぞ。

 そうだよ。俺は黎明と別人だ。

 仕方なく、この二人に事情を話してみることにした。

「これと同じような翡翠の勾玉が付いた首飾りを探してるんだよ…」

 内心、俺はユウタとダイキがどうせ何も知っているはずないと思って、馬鹿にしていた。

 でも、ユウタがすぐに答えを導き出した。

「知ってるぞ。それ、糸魚川翡翠ってやつだろ? 古代の首長達が愛したブランドだよ! 有名だよな、糸魚川の翡翠って」

そうなんだ。俺はユウタのことを少しだけ見直した。

碧玉製管玉はまた別の産地の古代ブランドだった。

 ユウタは得意げに知ったかぶりを披露した。

「古代の勾玉ってのは、穿孔技術や形態や材質の研究によって、産地と年代がある程度わかるんだぞ。玉類には地域性とトレンドがあるんだ…」

 そこで、俺達はこの勾玉と碧玉管玉の組み合わせで似た特徴のものを探した。

 かなり絞り込めた。

 古代の装飾品の大判の美術本や、考古学の専門書を机の上に開く。

 ダイキも次第に興味を示した。

「黎明、これを見ろよ。このタイプの首飾りは年代も分布も限られてる。弥生中期に製造されて、筑紫で長期伝世した後、西日本の弥生後期の墳丘墓や前期古墳に副葬された。その年代は、倭の國の女王・卑弥呼と臺与の生きた年代とも重なるんだよ!」

 俺は卑弥呼なんて名前の女は知らないが。

 あの頃は女性首長なんて珍しくも何ともなかったから、もしかしたらどこかで会っているかもな。

 さて、古代の首飾りは墓から出土するとは限らない。伝世品が結構ある。

 皇室の三種の神器の八坂瓊曲玉もその一つだろう。

 また、玉を依代(ヨリシロ)とする神社や退魔道流派があり、数百年伝世した後、幾つかは火災や水害で失われた。

 俺の探す首飾りも災害で失われたか、めぐりめぐって皇室の御物(ぎょぶつ)になった可能性もある。

 遺跡出土品は博物館や歴史資料館などで展示されている。

 考古学、それも墓荒らしには違いないのでクソ腹が立つ。

 だが、有難いことに、博物館・資料館所蔵の首飾りは写真を見ることが出来た上、何なら実物の展示を確認に行くことも可能だった。

 俺は図書館で知った。八雲の王墓も発掘され、古代王朝の至宝の一つとして、祖父母の首飾りが公開されていた。

 俺は()()の墳丘墓の復元整備された写真を見て、息が詰まりそうになった。

「クソッ!」

 俺は思わず声に出して悔しがった。

 家族の墓を暴かれ、時には遺骨そのものや、お棺に納められていたものが公開される遺族の気持ちを想像してみてほしい。

「どこかで墓の遺物が発見されたら、埋め直そうとか思わねぇのか? 自分達の祖先の墓だぞ⁉」

 怒りが湧いたが、このような博物館の展示でもなければ、地方史にスポットライトが当たる機会がもっと少なくなるに違いない。

 俺は憤りを抑えた。

 ユウタは、

「黎明。破壊された古墳は沢山あるらしいよ。特に日本の高度経済成長期に古墳だとわかっていても発掘せずに破壊されたり、古墳の土が建設用の土砂として使われた例が複数ある。そういう古墳の出土品がオークションに出てないか調べたことがあるけど、偽物ばっかりだった。本物は失われてしまったよ…」

 と、残念そうだった。

 彼は歴史の遺物に多少なりと親しみを感じているらしかった。

「黎明、知ってる? 古墳の近くのお寺とか庭園で、古墳の石室に使われた石がよく庭石として使われてるよ。俺の実家近くのお寺にも…」

 ダイキが言った。

 酷い話に聞こえるが、破壊された古墳の僅かな情報源でもある。

 石室の石材や石棺材から、竪穴式石槨か横穴式石室か、石材の産地はどこか、何世紀頃の古墳か、大体わかる。

 破壊の一方で、永く地域で守られ祭祀の対象とされてきた古墳もあると言う。

 面白いと思ったのは、3世紀末の古墳から6世紀のお供えの須恵器が発見された例。

 それは二百五十年後の子孫が、一族の始祖のお墓参りに来た時に供えたものかも知れないのだ…。

 恐らく、6世紀頃まではどの古墳が誰の墓か、口伝で知られていたんだろう。

 その後の8世紀の日本書紀・古事記の天皇陵に関する記述には、一部間違いが含まれている。古墳の推定年代と記述が一致しないものがある。天皇陵の治定が間違っている可能性もあるが…。

 俺は古墳出土の玉類、神社・退魔道各流派の神宝リストを多量にコピーした。

 こういう専門的な資料はネット検索では得られない。今のAIはまだ誤回答・珍回答ばかりするので笑える。

「そんな資料、何に使うの?」

 ダイキに聞かれた。

「…母方の親戚に頼まれたんだよ…」

 俺は本当のことを言わない。

 墓から盗まれた首飾りを探している。

 一族の墓を荒らされ、まだ腐りかけの新しい遺骸から引き剥がされた首飾りを探している、そんな残酷な話は、口にする俺だって痛みと哀しみで心が引き裂かれそうになるんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ