表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八咫烏 ―YATAGARASU― ~邪神と巫が入れ替わる~  作者: 柴犬ジョニー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/29

第1章 クラン ・ 第7話 邪神降臨 ②

 そう言えば、前に聞いたことがある。

「七海姉。十三詣りって、どういう意味があるの?」

「よーちゃん。あれは大人になる儀式なの。御祖(ミオヤ)はお願い事を何でも聞いて下さるから、よーちゃんも何かお願いしたらいいよ。中学受験のことでも…」

 中学受験なんて、当時の俺にはどうでもいいことだったよ。

 儀式か。

 俺はよく知らなくて、二つ年上の美人の従姉・七海の指示に従うだけだった。

 まず、潔斎(けっさい)から始まった。

 弥栄(いやさか)氏の()みの井戸の水で身を浄めた。この井戸の水でないとダメらしい。

 潔斎の間は誰とも喋ることが許されないし、親にも会えない。

 七海がお粥を運んできた。お粥と薄い汁と漬物だけの食事だ。俺は無言でお粥を食べ、四畳半ほどの小部屋でひたすら待つ。

 俺はまだ十二歳の子供だったから、潔斎の期間はそんなに長く設定されてない。

 翌日の日没頃に紋付の羽織袴に着替えさせられ、千歳兄達に付き添われて、いよいよ(いや)の宮へ詣でた。

 見上げる石段は既に真っ暗だった。生温い風が吹き、葉が散った。森はザワザワと音を立て、八年前の五ツ詣りの時のように不気味そのものだった。

 鳥居の注連縄の紙幣(シデ)がヒトガタみたいに風でひらひらと躍る。

 俺は提灯(ちょうちん)を掲げ、急な石段を昇っていった。

 俺達は無言だった。長い石段を昇り終え、七海が燈籠にロウソクの火を点す。

 そこから一直線に細い参道が50メートルほど続く。

 参道は両脇から濃く茂った大木の枝が伸び、樹木のトンネルのようになっている。

 七海が笛を吹き始めた。トヨばぁが吹いているのかと思うくらい上手い。

「黎明。気を付けて行ってこい。ミオヤは白く光ってると言うから、白く光る方に進め。大丈夫だ」

 千歳兄が俺を送り出した。

 提灯の光がぼんやり照らし出すのは、ほんの僅かな先まで。

 石畳を一歩ずつ進んでいくと、素木の小さな鳥居と狛犬の石像が現れた。

 狛犬のユーモラスな表情も今夜は妖怪じみて、その奥の古びた木造建築の弥の宮は、闇よりも黒々として見えず。

 緊張の余り、足から震えがきた。

 一方で、俺は真剣にお願い事を考えてあった。

 勿論、中学受験のことじゃなかった。

 両親は何とか俺の成績を上げようと躍起で、俺はそれが重荷だった。それでとうとう反抗期が来た。

 俺のお願い事は中学受験合格より、今のクラスで一番人気になることだった。

 ふざけたお願いかも知れないけど。一生一度の人生最大、最高の青春を、今この時期にお願いしたいんだ!

「弥のミオヤ!」

 提灯を置き、深紅の鈴緒を振った。鈴がシャランシャランと鳴った。

 七海は笛を吹き続けている。澄み渡る調べに、古典音楽にうとい俺ですら聞き惚れる。

 俺は眩暈(めまい)を感じた。世界がぐるぐる回っていく。

 気がつくと、俺の真ん前に弥のミオヤが居た。

 目が紅く、全身から白い光を放っていた。

 俺は怖くなった。

黎明(よあけ)。おいで…」

 その(こえ)を聞いた瞬間、俺は気を失った。お願い事を申し上げる間もなく。



 再び、俺は濃い霧の中で意識を取り戻した。

 俺は弥の宮を通過し、異世界に彷徨い込んだ。

 弥のミオヤは姿を消してしまった。俺は霧の中を歩き続けた。



 暫くして、従兄弟達は俺のことが心配になってきた。

「千歳兄、おかしいよ。五分以上経ってるのに、よーちゃんが戻って来ない…」

「遅すぎるね。もしかして、また気絶してるんじゃないか?」

 千歳兄と三波が話すのを聞いて、七海は笛を吹くのを止めた。

 三人は着物の裾をばたつかせ、暗い参道を思いきり走った。

 そして、俺がヤシロの前に倒れているのを発見した。

「よーちゃん!」

「黎明、起きろ!」

 千歳兄が俺の頬を叩いたが、俺は無反応だった。俺の呼吸は浅く小さかった。

 七海はすぐ決心した。

「よーちゃんが危ない…。私、よーちゃんを追いかける!」

 七海は弥の宮の鈴緒に手を掛けた。

「俺も行く…」

「私も」

 千歳兄と三波も口を揃えた。でも、二人は内心動揺していた。

 追いかける、ってどうやって⁉

「千歳兄。たぶん、よーちゃんは異世界で迷子になってると思う…」

「七海。それは…俺もわかってるよ……」

 千歳兄の表情が引きつった。

「連れ戻さなきゃ…。トヨばぁが来てないんだし、私達だけで何とかしないとぉ…」

 三波も強がっているが、本当は怯えていた。

 異世界なんか行ったら、戻って来られる保証もない。

 弥の宮の空気が緊迫した。

 七海は迷わず鈴を鳴らした。千歳兄、三波も順に鈴を鳴らした。

 七海がいきなり倒れ、俺の上に重なった。

「七海⁉」 

 千歳兄と三波は驚いて七海を見下ろした。二人はミオヤに会えなかった。

 七海は呼びかけに答えず、揺さぶられても魂が抜けたように反応がなかった。



 七海が鈴を振ってお辞儀をして、顔を上げたら、弥のミオヤが目の前に居た。

 白い光に包まれて眩しいほどだが、麗しい男神の輪郭だけはぼんやりと伺える。

 白い着物を着て、白い(はかま)を履いている。長い髪も睫毛も雪のように真っ白。

「七海。おいで。あの子が危ない」

 ミオヤは気絶させないよう力加減した優しい(こえ)を聞かせ、七海の手を引いた。

 七海の躰は浮き上がり、階段を飛び越え、ヤシロの中を通り抜けた。

 小さかったはずのヤシロが大きな神殿のように感じられた。

 無重力のようにふわふわと歩き、七海は裏扉口から異世界へ降り立った。

 裏口の外は真っ暗だった。

「八島黎明はどこですか?」

 七海は俺のフルネームを口にした。

 七海はどこか遠くに俺の気配を感じた。

「あの子は才能がある。けれども、全く制御出来ていない…」

 ミオヤは七海の知る語呂から言葉を選んだ。

「念じよ、七海。あの子は今、邪霊の集合体と戦っている」

 ミオヤは真っ直ぐ前方を指差した。

 七海は強く念じながら、濃霧の果てへ意識を飛ばした…。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ