第1章 クラン ・ 第3話 貉 ①
阿利の葬儀が終わった。
俺の暗い表情を見ていたツムジが気を遣った。
「多伎。先代のお墓参りに行く? 掃除は出来てるよ」
「そりゃいい。多伎は二年行ってないはずだな。行くべきだ! 親不孝者め!」
八野凝が横から口を挟んだ。
辰姥も賛成し、俺とツムジと八野凝と辰姥で、多伎の父親の墓へ行くことになった。辰姥は腰が曲がっているのに健脚で、険しい山道をどんどん歩いた。俺の方が先に疲れた。
近いと言ったのに、実際は結構遠かった。くねくねと曲がる山道を二時間歩き、太陽がそろそろ真上まで上がっていた。
ツムジによると、多伎の父親の墓は『八雲』の『八ヌ弥』に在った。
「ヤヌヤ?」
俺が聞き返し、八野凝が振り返って訝しむ。
ツムジは上り坂で息を弾ませた。
「このクニは八雲って言うだろ。八雲の西は弥、東は雲って言う。あの郷は八雲の弥だから、八ヌ弥と言う」
山を越え、内海を見下ろす丘陵に首長クラスの墓域が在った。
その墓は見たこともない形をしていた。
長方形の墳丘墓の四隅が張り出し、石張りのスロープになっている。墳丘の側面は貼り石が施され、端をきれいに縁取り、平坦面は礫石が敷き詰められている。秋の陽光を白っぽい石が反射し、荘厳だ。
俺は驚いた。何代かの首長の巨大墳丘墓が尾根に並ぶ。
一番大きいのは多伎の祖父の墓だった。他にも沢山の墓があった。多伎の伯父や従兄弟の墓も含まれた。
多伎の父親の墓はその墓域では小さい方で、長辺10メートルちょっとくらい。四隅の突出部も小さく、墳丘も低めで少し見劣りした。
俺の比較の視線を察したように辰姥が言った。
「偉大な功績を残した者は、それに相応しい大きな墓に埋葬される。あの大洪水の直後でなければ、もっと大きい墓を造ったんじゃが…。如何せん、我等はあの十年前の大洪水で、人手を多く失って…」
俺は首を振った。
「いいんじゃねーの。ここはすげぇ見晴らしがいい!」
俺は墳丘に立ち、遥か遠くまで景色を見渡した。紅葉した山々は何通りもの表情を見せて美しく、大河が青くうねり、内海は眩いほどきらめいていた。
行ったことのない八ヌ弥の郷が一望出来た。
その先にも点々と集落があった。低い山並みと八雲半島越しに藍色の大海が眺望出来た。
鰯雲が俺達の頭上を流れていく。
多伎の父親の墓にも他の墳丘墓と同じように、赤褐色の壮麗な装飾器台と、それに載せられた大型の二重口縁壺のセットがあった。墓壙の真上には割れた土器の破片が沢山あった。十年前の葬儀の名残だ。
それらはもう風化し始めている。
「そうか。多伎の父親は村長だったのか…」
と、納得した。(本当は少し違う。)
多伎は十年前、父親を失った。彼はまだ五歳だった。
「死因は?」
俺はこっそり、ツムジから聞いてしまった。
「鬼に殺られたんだ」
ツムジがおどおどしながら答えた。
それで多伎はあんな暗い表情になったのか。少しわかった気がした。




