1/2 Half – And Then…
一章 終焉の始まり
1-1. レイ・カミシロ — 第7宇宙の漂泊者
真青な空の下、大地がゆっくりと揺らめいていた。
ひび割れた地面から、息苦しいほど眩しい光が溢れ出す。
その光は地表を這い、崩れかけた街の輪郭を白く縁取っていく。
熱を帯びた空気が肌を刺し、耳の奥で低い唸りが響く。
遠くの空には、雲を突き抜け地平線を覆う黒い壁が浮かんでいた。
ゆっくりと、しかし確実にこちらへ迫ってくる。
彼の名はレイ・カミシロ。
かつて宇宙を旅した技術者、今はただの漂泊者。
十数年前、仲間も、居場所も、帰る星も失った。
そして今、この世界さえも終わろうとしている。
腰のホルスターから古びた通信機を取り出すと、ノイズ混じりの中から声が届く。
『…レイ、聞こえるか?』
レイは口元にわずかな笑みを浮かべた。
『ああ、聞こえる。間に合ったな。』
背後から足音。仲間が声をかける。
『大丈夫か、レイ?……また鼓動がするのか?』
レイは遠くを見るような目で首を横に振り、自らに言い聞かせるように呟く。
「世界を救え。」
胸の奥に響くその鼓動は、本人にも説明がつかない。
しかし、同じ瞬間、はるか別の宇宙で、同じ鼓動が鳴り響いていた。
1-2. イブン・カミロス — 第8宇宙の勇者
赤錆びた都市の廃墟。
金属の足音が瓦礫を踏みしめる。
漆黒のバイオスーツを纏う人物が、敵影へと迷いなく歩を進める。
肩から背にかけて走る装甲は、戦闘用というより生命を守る殻のようだった。
両腕の装甲が展開し、蒼い光刃がほとばしる。
一瞬で敵は沈黙し、街は再び静寂に包まれた。
倒れた兵士のヘルメットが転がる。
イブンは足を止め、しゃがみ込み、少年の髪をそっと直す。
手袋越しに、わずかに指が震えた。
低くかすれた声で呟く。
『……行くぞ。』
その声には、戦士の冷静さの奥に、隠しきれない温もりがあった。
1-3. 運命の響き
この宇宙の崩壊は始まり、世界は恐怖と混乱に支配された。
秩序は失われ、人々は生き延びるために争いを始める。
そんな混沌のただ中、一瞬の静寂と共に、勇者は降臨した。
『我が名は…イブン・カミロス!
この宇宙の崩壊を留め、皆と共に世界を取り戻す者なり!
皆、我に付き従え!』
その声が響いた瞬間、群衆は歓喜の咆哮を上げた。
陽の光が雲間を裂き、廃墟を黄金に染める。
その背に、幾千万の命の重さと、運命を背負いながら。
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1-4. 内なる声
群衆に囲まれながらも、イブンは静かに空を見上げる。
孤独な勇者の胸にも、あの鼓動が響いていた。
——貴方は何者?
問いかけは、いつも返ってこない。
ただ胸の鼓動と共に、遠いどこかから同じ言葉が届く。
「世界を救え。」
その響きは、時空を越えて二人を結びつけていた。
まだその運命を知らないままに…。