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お頭キッドは連れ歩く

シャンティにキッドの船は、当初の予定よりもやや遅れての到着となった。

それは主に、ズダを外側に大回りした海路の結果である。

シャンティのある島の位置は、大陸の内海にあるズダを内側に回った方が早いのだ。

ズダは険しい火山を持っているが、面積は比較的小さい。

しかし年がら年中噴火している島なので、どうしたって被害を避けて航海すると、外側を回る際には、かなりの大回りをする事になるのだ。内側でそれは言えるが、火山の位置が外側によっているという地理的な事情の結果、ズダを外側に回る方が時間がどうしたってかかるのであった。

海流も違うため、腕の良い航海士が必要だ。


「お前達、島での殺しは厳禁だからな。シャンティの人間に嫌われちまったら、寄れるところの中でも、一番飯のうまい島に入れなくなるって事だからな」


「お頭ぁ、わかってますって」


「俺達はちゃんとシャンティのルールに従いますよ」


「おう、それなら問題なし。船の出発は三日後だ。遅れたら誰でも置いていくからな」


「承知」


キッドが船を下りる事の出来る船員達に通達する。船に残る船員もそれなりに存在しており、その決め方はくじ引きだ。キッドはえこひいきなんてしない。

彼自身も船で留守番、という役割になる事だってそれなりの数だ。


「変なところで面倒を起こすなよ」


「あんた以上に?」


「俺以上に」


キッドのきっぱりした言い方に船員達はうなずき、おのおの船を下りていく。

彼等はこの航海で手に入れ、手柄の順に分配された戦利品を手に、陸での楽しみを行いに行くのだ。

酒を飲んでの馬鹿騒ぎなどは序の口、船の上では禁じられている賭け事をする、船の上ではボヤ騒ぎになるから禁じられているたばこを思い切りすう、陸でしか手に入れられない物を補給する……各人でやりたい事は色々だ。


「ミック」


キッドは船を下りていく船員達の中に、くじ引きの結果留守番ではない、新米の狙撃手を呼び止めた。

頭部の大火傷の結果、不格好にならないために髪をそり上げた頭に、キッドのお古のバンダナを巻いた、顔の半分を覆う眼帯の新入りが、どうしたんだと言わんばかりにお頭を見やる。


「留守番じゃないのは初めてだろう。お前にとって大事な物を手に入れるための店ってのの選び方を教えてやる。着いてこい」


ミックはよくわからないという目をした物の、胸のガンベルトににいくつも差し込んである、一発しか弾を込められない、ありふれたピストルを指で弾かれて、納得したように頷いた。


「飯にもつれてってやるって言っただろ」


そういえばそうだ、とミックのわかりやすい表情が告げてくる。

こうして、キッドとミックは船を下りていったのであった。



「シャンティで一番、銃ってのに詳しいのはこの店の親父だ」


「……」


「おいおい、キッド。そんな乳臭いガキに何教えてるんだよ」


「こいつは凄腕だぞ。伝説のマスケードに並ぶんじゃねえかと思ってる」


「そりゃ大げさな」


「って思うだろ。だがこいつはそれくらいの事が出来ちまう。この前も他の船との争いの時に、相手の船の狙撃手の持っていた、銃だけ綺麗に一撃で吹っ飛ばした」


「そりゃ、マスケードだな」


「……?」


銃やそれの関連品を扱う店の親父に、キッドが自分の手柄のようにミックの技術を言う。ミックは数多並べられた、見た経験がおそらく無いだろう銃や、それらの銃弾、関連品を次々手に取って眺める事に忙しい。

……初めて見ると思うのに、ミックは自分の手持ちの物にとって、どれが最適で値段が釣り合っているかが、不思議なくらいに感じ取れたのだ。

船の限られた武器庫の中では、ついぞ感じた事の無い不思議な感覚とも言えた。

これは重い。これは軽い。これは値段に見合ってない。これはそもそも型があわない。

手入れの道具にしてもそうだった。

これはいい。これは悪い。これは便利そうだが自分の最適解ではない。これは安すぎる。これは一度目はともかく二度目は苦手そう。

わからない。

でもわかる。

不思議な感覚だった。

そんな時に聞こえてきたのが、マスケードという名称だったので、ミックは顔を上げた。

そしてキッドの方を見て袖を引くと、お頭は一瞬黙った後に、ああ、と合点したように声を上げた。


「陸にいた頃に、マスケードって名前は聞いた人生じゃねえんだな」


「海の人間も、陸で戦う人間も、一度は耳にする名前って言っても良いんだがな」


キッドの言葉に、店の店主が言う。ますます何者かわからない。ミックは口笛を三回鳴らした。

注意を引く調子だが、キッドは言いたい事が通じたらしい。


「マスケードっていう名前はな。伝説的な狙撃手の名前なんだ。名前って言っても姓で、本名は誰も知らないし、伝えられてもいない。とにかくとてつもない精度の狙撃を行う狙撃手で、元々はどこかの王国の海軍にいたが、仲間ともめて海軍を辞めて、大海賊のティーチの所で暴れてたっていう経歴が知られてる」


それと自分がどう関わる。ミックは首をかしげた。すごいのはわかった。だが自分はそこまでの凄腕じゃない。と思う。


「マスケードは、飛んでいる鳥の中でも、黒い鳥だけを一羽打ち落としたとか、敵船の船長の被っていた帽子だけを狙って打ち抜いたとか、とにかくべらぼうな精度の高さの狙撃が伝説的に残ってんだ。……お前みたいだろ」


伝説を聞いている途中で、それくらいは出来るだろうという視線になった事に、ミックは気付かれてしまい、そう言われてしまった。

事実だ。

ミックはそれに似た行動が出来る。何なら相手の小指だけ打ち抜く位の調整が出来る。

どうして出来るんだと言われたら、わかるからとしか答えようがない問題だが、ミックはそれが出来るのだ。


「聞いていて腕前が気になってきたぜ。なあ坊主、ちょっとこれだけ打ち抜いてみろよ」


店主が興味深そうな、好奇心旺盛だという声で言いだし、壁の一点を指さした。店の奥にあるそこには、垂れ幕がかかっていて、色々な模様が浮かんでいるが……銃弾の痕も、おびただしい。試し打ちの一角のようだ。


「あの垂れ幕の、赤い服を着た人間の、剣を握っている右手の小指のあたりに撃てたら欲しいものにおまけをつけてやる」


「……」


店主の言葉にミックはうなずき、そのまま流れるように胸のガンベルトからピストルを一丁引き抜き、これまた無造作に引き金を引いた。


そこまでの重さではない音が響き、ピストルの銃口から煙がたなびく。


「嘘だろあのガキ……」


「マジで打ち抜きやがった……」


「あんな細かい指定された場所を……」


店で、店主以外の店員相手に喋っていた同業者達が、ざわざわとざわめいているのも、ミックには関係が無い。店主が確認のために垂れ幕に近付き……驚いた声を上げた。


「ははは、大したもんだ! 指定の通りの場所のど真ん中に命中だ! ようし約束通りだ坊主。ガンベルトの手入れの油をおまけしてやろう」


ミックはそれに素直にこくこくと頷いた。手入れの油は……いざという時食べられるからありがたい物なのだ。特に、限界一歩手前の食料の時は特に。


「親父あとこれとこれとそれ追加でな」


キッドが自分に必要な品物を指定し、店主はそれらを包み、キッドがお金を支払う。それらをミックに持たせたキッドは、着いてこいとまた歩き出した。

ミックは店主が手を振ったので、素直に手を振り替えして、その後を追いかけたのだった。

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