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脳筋ミックという船員

ミックは自他共に認める脳筋な海賊船の船員だ。知恵よりパワー。パワーオブ筋肉。筋肉と戦闘能力があれば全て解決。

そんな考えで今の所生きている、船長キッドの元、海で暴れる船員である。

そもそもそんな考えにたどり着いたのは、ミックが船に乗った状況が特殊だからとも言えるだろう。

ミックは船長キッドに拾われる前の記憶を、ほとんど覚えていないのだ。

どれくらい覚えていないのかというと、日常会話も出来ない位、つまり言葉もわからないくらいに記憶が失われていたのだ。

このネタを聞いた船員達はそりゃそうだろうと一斉に頷く。

と言うのも、ミックは船長キッドと船医のルークが、船の手入れのために隠し入り江に入って辺りを見回っていた時に、砂浜でぼろぞうきんよろしく倒れていた人間なのだ。

船が難破したかした時に、運悪く船から放り出されたのだろうと船員達は言う。

それにミックは、発見されたときとても酷い有様で、片耳はそぎ落とされて、片眼もどうした事か潰されて、手当を何一つ受けていない状態であったのだ。

さらに酷い話で、片手も骨が自己再生できないくらいに、ぐちゃぐちゃの粉々に叩き潰されて腫れ上がっていて、船員達はそれ程の事は、海賊達でも行わないと口をそろえる。

確かに海賊達の掟を破った奴の耳をそいだり、鼻をそいだりする事はある。

だが、それらは見せしめの意味もあるので、使えなくなるほど手をぐちゃぐちゃにする罰は下さない。そんな事をするくらいなら、船の上からたたき落として天に運命を任せる罰を下す方が建設的だ。

役立たずのただ飯ぐらいにさせるくらいなら、それくらいの事をする判断くらいは、海賊だって出来るのだ。

そのため、ミックはよほどの訳ありだったのだろうと誰もが思っている。

そして、そのミックは、船医ルークの頭が若干おかしい実験の材料にされた結果、片手が半分義手である。

潰された片眼も義眼を入れてから、その上から眼帯で覆っているのである。

これはルークが、古代の魔法道具を使いたいけれども、協力してくれる人間が船で誰も居なかったから、ぼろぞうきんだったミックに取り付けてしまったという話なのだ。

この義手は、魔導骨という骨を、体の中に埋め込み、魔導神経という物が魔導骨のある箇所の肉につながり、まるでその人間の元の体だったように動くと言う品だった。

さらにさすが古代の道具というべきか、魔導骨の埋め込まれた手の方は、剣も弾丸も通さない物になるわけだった。

そんな物なら船員達も便利だからつけたがるのではと思うだろうが、そもそも初手で魔導骨を肉の中に埋め込むという事は、現在のこの辺りの医療技術では激痛を伴うわけで、さらに自分の元々の骨とおさらばする事もあり、それを行っているさなかに出血多量で死ぬ可能性もあったと言えば……皆嫌がるのは道理だろう。

意識を失っていたミックに、勝手にそれをつけたのがルークの問題行動なのである。

結果的に言い方向になったからましなだけだ。

そして義眼の方も、ルークがお宝の分配の際に欲しがった古代の道具で、ミックは片眼の仕様に酷く苦労する事になった。

きちんと意識して使わなければこの義眼、でたらめに視力が変わってしまうのだ。

いきなりものすごく遠くまで見えるようになったと思えば、その次の瞬間何も見えないほど視力が悪化するのである。

そのためミックは、そちら側の視界の負担を減らすために、戦闘中以外は眼帯で義眼を覆うという選択肢をとっているのである。

船医ルークの実験の結果、と船員達はミックを評する事も多い。

そんなミックは、本日もメインマストの上の見張り台で、じっと船の進む方を見つめていた。

やりようによっては、隠している義眼の方で、目標になる獲物の船を見つける事も出来るだろうが、まだ目の制御が完璧では無いので、ミックは練習の日以外は眼帯を外さない。

それは船長キッドとの約束だった。

誰も気持ち悪さからおきるゲロの処理などしたくないのだから。



「……」


ミックは基本無口な人間だ。この頃ようやく、船員達の言葉がある程度理解できるようになったとはいえ、言葉もわからないほどの記憶の欠損があったミックは、自分から進んで喋らないのだ。

その代わりミックはぴゅうぴゅうと口笛を吹く。それはどうしてか覚えていた事で、適当に気分のまま音を鳴らすだけの、つたない物だが、暇つぶしにはちょうど良かった。


「……」


ミックは口笛を鳴らしながら、ただ、次の目的地か、次の獲物か、次の敵船を第一に発見できるように遠くに視線をやっている。

時折近くを飛ぶ海鳥の鳴き声の何と無い響きから、何かしらの予兆を見つける事だってあるのだ。

ミックは今日も、海鳥が飛ぶ時の音、それから鳴き交わす会話のような鳴き声から、嵐が近い事に気がついた。

ミックは見張り台の鐘をゴンゴンとならした。嵐の時は何回、次の目的地が近い時は何回、と回数がこの船の上では決まっている。

ミックはそれに嘘をついた事もないので、船員達は、ミックが嵐だというのなら、嵐が来るのだろうと備えをしてくれる。

ミックはまた耳を澄ませて、遠くに目をやり、嵐がどれくらい近いのかを測る。


嵐はこの船の速度で一時間と少しの後に、来るだろう。


ミックはそれを、鐘の鳴らす回数で、甲板の船員達に知らせたのであった。

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